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異世界で神の化身は至極最高に楽しむ。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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10/25

10 話し相手。




 キラキラしている金箔の小瓶から溢す。

 液体としてドロリと落ちるけれど、広げた掌に触れると染み込み消えていく。魔力は、体内に吸収されて、戻っていくのだろう。なんとなく、魔力が戻った感じがする。

 色白の手に、金箔はついていない。不思議だ。


「……化身様。どうしても、宿にお戻りになるのですか?」

「ええ。どうせ前払いしているし、お邪魔するのも悪いと思いまして」

「そんなこと……。ネーク男爵と同じことをすると警戒なさっているのですか」


 サムはすっかり私を神の化身として敬う。

 しょんぼりとするサムが勘違いをさせてしまったので、正しておく。


「サムさんがネーク男爵とは違うとわかっていますよ。そんな警戒はしてません。あなたは、いい領主です」

「……光栄です」


 にっこりと告げれば、こうべを垂れた。


「じゃあ、この人身売買組織は任せました。宿に戻りますね。イサークさん達、送ってくれますか?」

「は、はひ、はいっ!」

「それでは行きましょう!」


 ガクガクと震えるシンと、無言で頷くコル達とイサークは、歩き出す私についてくる。

 歩いている最中、周りの人間が全員敵だと言いたそうな目でイサーク団は警戒していた。私をなんとしても脅威から守りたいって感じだ。


「そんなに睨まなくても、もう犯罪者は捕まったでしょ」


 私が言うと、シンがおずおずとした様子で言う。


「で、でも、化身様の身に何かあっては……」

「そういう風に警戒心が足りないから、オレ達がっ」


 人間の姿のイサークが口を開くと、すぐさまコル達が口を閉じさせた。

 私の代わりに警戒してくれてるってこと?

 遠回しにお前呑気って言いたかったの?

 イサークを見てみれば、変わらず鋭い眼差しで見てくる。


「それにしてもよかったね。イサーク団の仲が深まって。イサークの隠し事の下手さには笑うけどさ、ぶふっ!」


 聞いてて笑った。落ちた想像力でも、笑える。

 野宿の時に、耳と尻尾を出して眠るイサークをどうするか悩むシン達。

 愉快に笑う私を、イサークはじとりと見下ろしてきた。


「……お前、本当に神の化身なのか?」

「「「イサークさん!!」」」


 またイサークが口を開いたため、シン達が押さえ込んだ。


「さっき話した通りよ? 私は神シヴァール様と女神フレーア様の娘。化身として、この世界に降臨した。別に様付けしなくてもいいし、お前呼ばわりでもいいよ。敬ってほしいなら、最初から化身だって明かしてるわ」


 イサークの態度について怒らないとわかると、シン達は胸を撫で下ろした。


「前の街ではなんでも提供してもらって悪いと思ったし、人集りがついて回ったから、この街では化身だとは名乗らずに満喫してた。それで? やっぱり、獣人族だって隠してた理由は、仲間に嫌われたくなかったからなの?」

「……」


 話を戻すと、イサークが露骨に言いたくないって顔をする。それは肯定と受け取ろう。


「可愛い狼」


 私はお腹を押さえて笑った。


「……。獲物を探し回る狩人は、冒険者に比べて稼ぎが少ない。てめぇらがなりたいって言うなら……なるか? 冒険者に」


 私を一瞥してから、イサークは仲間に問う。

 シン達は「はい!」とか「もちろんです!」とか、そんな返事を同時にした。


「これからは冒険者イサーク団になるのね、おめでとう」

「……ああ」


 私が笑いかければ、イサークは初めて笑みを見せる。

 おやおや? 結構イケメンじゃないか。

 元々、この世界の住人は顔面偏差値が高い気がする。目鼻立ちが整っている人が多いから、美人さんが多いと思う。それは西洋風の顔立ちだから、そう見えるだけなのだろうか。

 別に答えのいらない疑問を考えている間に、宿に到着した。

 部屋の中に誰もいないことをイサーク団が念入りに確認してくれたあと、施錠の魔法をかけて、ベッドで眠りにつく。夜も遅かったので、すぐ眠気に負けた。

 この部屋で拉致られたというのに、図太い神経になったものだな。と思いながら。




 ◆◇◆




 花畑に立っていた。足元に咲き誇るのは。


「ガーベラ?」


 ガーベラによく似た花。たくさんの細長い花びらがついた大きめな花は、黄色や白だけが咲き誇っていた。

 足の踏み場もないようなほど、ぎっしり詰めたように咲いている。

 広い花畑は、鬱蒼とした森に囲まれていた。花畑はとても輝いて綺麗なのに、鬱蒼とした森が閉じ込めてしまっているように思える。秘密の花畑、ってところだろうか。


「ラベラの花ですよ」


 後ろから聞こえた声に振り返れば、白金の髪とサファイアブルーの瞳の男性。人によっては美しい女性と見間違えてしまうのではないかってくらい、顔立ちと髪が美しい。でも肩幅は広く、すらっとした長い足にはズボンを履いているので、彼は間違いなく男性だ。今日は白を基調にし、金色の刺繍で華やかに魅せるベストを着ている。


「あら。またお邪魔してごめんなさいね?」


 私はむくれ顔で言う。

 ルヴィンスは首を傾げた。


「何故、不機嫌なんですか?」

「それは前に、あなたが会話の途中で、夢から追い出したからじゃないの?」


 じとり、責める眼差しを向ければ、ルヴィンスは驚いたように瞳を丸めたが、やがてふっと吹き出して笑う。


「それはそれは、ごめんなさいと言うべきですかね?」


 反省のない謝罪なんていらないと言おうと思ったが、前に会った時、私も反省の色のない謝罪を口にしたから、これは仕返しだと気付く。ぷーっと、むくれた。


「また私に会いたくて念じたのですか?」


 隣に腰を下ろすルヴィンスが問う。


「自惚れないで。私は単に疲れて眠っただけ。そしたらここにいた」


 ツンッと返した。


「では偶然私の夢に入り込んだのですか? ……昏睡状態になって私の夢に入り込んだことが原因で、波長が合うようになってしまたのでしょうか」


 一人考え込む素振りをするルヴィンスを気にすることなく、花を愛でる。


「いつまでむくれているのですか? アイナ」

「さぁね」


 私は素っ気ない声を出す。


「機嫌を直してくださいよ。あの話はあれで終わりです」


 笑みを浮かべながら、ルヴィンスはラベラという花を一輪摘み、私の髪に差し込んだ。


「今日は髪型が違うのですね。愛らしいです」

「ああ、それはどうも」


 言われて気付く。花を差し込まれたのは、三つ編みだ。

 ルヴィンスはまた一輪、ラベラの花を差し込む。

 黙っていれば、白、黄色、白、黄色、の順番で差し込まれていった。


「綺麗です」


 ルヴィンスは満足げに微笑んだ。


「あなた、今日は機嫌がいいのね」

「そう見えますか?」


 私の指摘に、意外そうな反応をするルヴィンス。無自覚か。

 しゃがんでいた腰を地面に下ろして、私は足を伸ばす。足は素足だ。


「旅はどうですか?」

「今日は人身売買の組織に捕まっちゃった」


 ニッとして答える。


「……その組織にどんな悪いことをしたのですか?」

「失礼な! 私は当然の報復と言う名の罰を下したまで」


 返り討ちにしたことは安易に想像出来たらしいが、全くもって失礼だ。

 ルヴィンスは、クスクスと笑う。


「言い方が悪かったですね。どんな罰を下したのですか?」

「ちょっと回してやっただけよ。空中をクルクルってね」

「それは面白そうな光景ですね」


 得意げに笑って指を回して見せたけれど、何も起きない。


「夢の中って魔法使えるの?」

「無理ですね。ここは私の領域なので、好きに景色を変えられますが、あなたが魔法を行使することは出来ません。夢の中で魔法は発動出来ないのですよ。証拠に私の魔力が感じられなければ、あなたの魔力を私は感じられません」

「そっかー」


 確かに、魔力を感じない。


「どうしたのですか?」

「いや、この花達を空中に回したら綺麗かなって思って」

「花ですか……」


 周りを見渡して、ルヴィンスは私に微笑を寄越す。


「こんな感じでいいですか?」


 私のようにクルクルと指を回す。

 そうすれば、花畑からラベラの花が舞い上がり、私達の周りをクルクルと回り出した。

 白と黄色の大きめな花と、散った花びらが、フワッと回る。


「そう! 綺麗だわ!」


 思った通り、人間が回るよりはずっといい。

 私は満足して眺めた。不思議。風は感じない。

 ただ空中で、花が踊っている。


「これで機嫌は直してくれましたか?」

「ええ、直してあげる」


 とっくに機嫌は直っているけれど、そう胸を張って返した。


「私のご機嫌取りなんて、どうしたの?」

「あなたのご機嫌取りなんてとんでもない。私はただ、私の夢に再び現れた客人をもてなすことにしただけですよ」


 ルヴィンスはクルクルと指を回し続けて、そう返した。


「そう言えば……初めて会った時、なんで一目でわかったの? 他人だって。夢の中の登場人物だと思わなかったの?」

「ああ、私の夢には他人の登場は許可していなかったので、すぐにわかりました。そもそも望んでも、人も動物も虫でさえ登場させることは不可能です。景色や物を自在に操れますけれどね」

「そうなの。ふぅん。じゃあ夢の中は、常に一人なの?」

「そうです。静かでいいですよ」


 指を回すことをやめたけれど、頭上を花は回り続ける。

 ルヴィンスを、私はニヤつく。

 ルヴィンスは首を傾げた。


「なんです?」

「寂しくなったんでしょう? 私を話し相手として重宝したいのね」

「……」


 ニヤついた顔を近付ければ、ルヴィンスが身を引く。


「ルヴィンス、そんなに話し相手に困っているの?」

「……」


 サファイアブルーの瞳が、よそに向けられた。

 宙の花でも、地面の花でもない。何もない森の方だ。

 図星の反応だろう。


「膝枕して」

「膝枕?」


 私が要求をすると、少し疑問に思いつつ、私を見たルヴィンスは膝を差し出した。求めた通り、私は頭を置く。快適に踊るラベラの花を眺められる。


「残念ね。私、魔法生物を召喚したの。十年前に滅んだとか言うレウドラゴンを元に、レウって名付けたわ。野宿する時、お父様が心配だって言うから、護衛にってそばにいてもらうことにしたの。大きさは馬車くらい。でも街の中にいる間はトカゲサイズで、マントの中にも隠れられる」

「レウドラゴン……それは確か、ドラゴンの中で美しいドラゴンでしたね」

「そう。私とお揃いのルビーレッドの瞳を持ってる子。見せられなくて残念」


 生き物も自由に出せるなら、ここに登場させてもらったが、それが出来ないのだ。だから、残念。

 ルヴィンスは、私の瞳を真っ直ぐに見下ろした。私の瞳の色を確認しているようだ。それとも想像している最中なのかも。


「あ、それから千年のドラゴンに会ったわ」

「千年のドラゴン? エンダーテイルの国にいるって言ってましたよね?」

「そう、エンダーテイルの端っこにまだいるんだけど、考え事をしててうっかり入っちゃったんだって。人間に気遣って、すぐに引き返してくれたわ」

「そうですか。幸運ですね。千年のドラゴンを目にするなんて、その上話をしたのですか……私も遠目になら見たことがあります」

「そう、彼って大きいわよね。レウもちょっと怖気付いてたけれど、全然気さくなおじいちゃんって感じだった」


 クスッと笑いを漏らす私の三つ編みに挿した花を、微調整するルヴィンスに尋ねることにした。


「ねぇ、魔物ってドラゴンを操れる種族なの?」

「……魔物、ですか」

「うん。レウに乗った私を目撃した酔っ払いがね、人の姿をした魔物が千年のドラゴンを操って襲ってきたんじゃないかって、騒いだから」

「ふっ。千年も生きたドラゴンを操れる魔物なんて、いませんよ」

「魔王なら可能かもって……ルヴィンス?」


 ルヴィンスが笑っていたけれど、掌が置かれて、目を塞がれる。

 美しい男性と踊り回る花の舞を眺めていたのに、なんだ。


「魔王でさえ無理ですよ。大昔はドラゴンに乗ってエンダーテイルを攻めたと聞いたことがありますが、その場合卵から育てていたそうですよ。だから、今時ドラゴンを乗りこなす魔物はいません。ドラゴンは魔物の匂いを好まないらしいですよ。ずいぶん話しましたね。そろそろ目覚める時間ではないですか?」

「そうかしら」


 すぐに掌が退かされた。

 うっとりしてしまうくらい美しい微笑で、見下ろしているルヴィンスの顔がある。


「まだ話したいことがあるのだけれど」


 獣人族のこと、狩人や冒険者。


「また明日、会いましょう」


 ルヴィンスは、とても優しさを帯びた声と笑みで告げる。


「わかった、また夜に会いましょう」


 私がそう言葉を返せば、額をトンッと指が跳ねた。



 

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