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久我冬士郎は逃げられない

「綾ちゃんがうちに泊まるだなんて久しぶりね! びっくりしちゃった!」

「すみませんお義母様、急にお邪魔しちゃってご迷惑でしたよね?」

「全然いいのよ! 綾ちゃんは家族も同然なんだから! 明日は休みだし、自分の家だと思ってゆっくりしてってね! それにしても、涼くんも来ればよかったのに!」

「涼太は色々と忙しいみたいで……」

「だったら仕方ないわね。いつでも遊びに来てって言っといて! あ、いつも春花の部屋に来てるっけ」

「綾姉ちゃんホント急に来たね。最近来てなかったのに」

「春ちゃん今日は一緒に寝よー!

「うんうん、いいよー」


 おかしい、久我家の平和なリビングに奴がいる。俺の憩いの場が潰されている。

 どうしてこうなった、としか言い様がない。何で柊は急にうちに泊まると言い出したんだ? いや、理由はなんとなく分かる。俺の悩みを聞き出すためだ。

 悩みの元凶が悩みを聞き出しに来たという変な状況に混乱しながら、俺はお袋に晩飯の準備を手伝わされていた。


「すみません、私も手伝います!」

「綾ちゃんはゆっくりしてていいの。何せ綾ちゃんなんだから! コラ冬士郎、早く手を動かしなさい」


 柊と比べて、息子の俺に対する態度が違いすぎる。

 心の中で愚痴りながら、我が家のカレーを食卓に持っていった。我が家のカレー曜日は金曜日なのだ。

 柊の顔を極力見ないようにしながら、カレーを並べていく。


「ありがとね、冬士郎」

「お前さ、わざわざうちに来る事ねえだろ。話聞くだけならライン通話とかでもいいだろ」

「何その言い方はこの馬鹿息子!」


 母さんが俺の脇腹を掴んでからのジャーマンスープレックス! 


「ぐああああっ! 何しやがる!」

「綾乃ちゃんはね、あんたが最近抱えているっていう悩みについて聞きに来てくれたのよ! 顔を合わせなくちゃ通じないこともあるでしょ!」


 そんなこと言われても。顔を見てしまうとあの時の光景が……


「ほら、久しぶりに綾ちゃんを交えた晩御飯を食べるわよ!」


 全員が椅子に座り、カレーを口に運び始める。母さんや春花が柊に色んな話を振って、会話に花を咲かせている。俺は一切参加せずに、一心不乱にカレーを食い始めていた。話混ざるタイミングがわからない。


「ごっそさん」


 それだけ言って、部屋に戻ろうとしたが、


「冬士郎、せっかく綾ちゃんが来てるんだから、一緒にリビングで過ごしなさい!」


 と言われ、止められる。拷問かな?

 結局、家族と柊でリビングでワイワイと騒ぐ夜が続く。母さんや春花が楽しそうにしてる分、居心地が悪い。せめて涼太がいれば大分マシだっただろうに。

 そう思った瞬間、スマホに着信が入る。涼太から電話がかかってきたのだ。


 リビングから抜け出して廊下で通話を開始する。


「よ、トシ兄。姉ちゃんに悩みバラした?」

「バラしてねえよ、どうにかしてくれよ」

「無理、姉ちゃん一度決めたら諦めないし、さっさと吐いて楽になった方がいいぜ」

「そういや、お前に俺の悩み言ったっけ?」

「聞いてねえけど、大方中学の時に押し倒した事思い出すーとかだろ」

「……当たりだ、すごいなお前」


 当時の事件を知っているのは俺、柊、春花、涼太の四人だ。さすがにお互いの親には知られてはいない。   もし向こうの親父さんにこの事がバレたら殺されるだろう。あの人超こええもん。


「今からでも遅くない、あいつを連れ戻してくれ。このまま家に居座られたら俺の身が持たねえよ」

「自業自得じゃねえかよ」


 せ、正論。全部俺が悪いのになんで俺が偉そうに拒絶してんだ。


「どちらにせよ無理だわ。だって姉ちゃんにトシ兄の家に泊まってでも直接聞きに行けって提案したの俺だし」


 お前が原因かよ。今まで全然こっち来なかった柊が急に来たのおかしいと思ったわ。

 

「つーわけで頑張れよトシ兄、応援してるから」

「他人事にしか聞こえねえよ」

「だって他人事だし」

「もういい」


 通話終了してスマホを仕舞う。

 すると同時にリビングから春花が顔を出した。


「お兄ちゃん、先に風呂入っといて」

「気分的に後がいい」

「ダメ、兄ちゃんに綾姉ちゃんの残り湯を堪能させたくないし」

「お前、俺の事何だと思ってんの?」

「んー粗大(ゴミ)?」

「ええ……まあいいわ。じゃあ先に入る」


 そのまま、いつも通りにしっかりと体を暖めて湯船を堪能した後、寝間着に着替えて自分の部屋へと戻る。

 

 しばらく待っていると、部屋の扉がコンコンとノックされる。春花はこんな丁寧なノックはしない。ということは、奴だ。

 そのまま、春花の部屋で寝てくれねえかなと切望したけど普通に来た。逃げ場はない。袋の鼠だ。


「冬士郎? 開けていい?」


 こうなったら覚悟を決めろ冬士郎。自分の罪から逃げるな!


「お、おう! 入ってこいよ」

「お、お邪魔します!」


 間を全く空けずに柊が勢いよく扉を開けて部屋に入ってくる。

 家から持ってきたであろう、水色の可愛らしいパジャマを身につけていた。


 ヤバい。


 何がヤバいって言うと、この部屋は当時の事件現場だ。その部屋と柊の組み合わせ……ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!

 思い出しちまう! 今までよりも鮮明に!


「と、冬士郎? 頭抱えてどうしたの?」

「……な、何でもねえ!」


 堪えろ堪えろ堪えろ堪えろ! 今すぐにすぐそばの枕に顔をうずめたいという衝動を抑えながら柊を部屋に招き入れる。


 優等生の幼馴染がパジャマ姿で部屋に入ってくるシチュエーション。ギャルゲとかだと、大いに盛り上がるシチュエーションなんだろうが、俺にとっては全然違う! なんて絶望的なシチュエーションなんだ!

 

 息が苦しくて死にそうだ! ヘルプミー涼太!!

 そんな声は当然、涼太には届かない。

 


冬士郎の運命や如何に!?

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