第2夜
あれから必死に状況を説明してなんとか春花の誤解は解けた。綾乃や笠井が一緒になって弁解してくれたおかげだ。
なんだかんだトラブったが、その後の海でもエンジョイし、夕方には旅館に戻ってきた。
夕食を食べ、風呂も入り終わる。あとは何事もなく一晩寝て、明日の朝帰るだけだ。
……何か、あれだ。おかしい。海での一件から何というか、俺のこう、認識がおかしくなっている。
身も蓋もない事をはっきりと言ってしまうと、
『綾乃や笠井ってあんなにエロい声出すの?』
という事ばかり頭の中で考えていてしまってる。
よくよく考えたらやっぱ水着外した女の子の肌に直接触りながらあんな声を聞いてしまうのはやっぱりまずかった。敏感肌を触られて痛がって声を上げているだけなのに二人共やたらエロく聞こえて……。
「あああああああっ!!」
「何!? 一体どうしたの冬士郎!」
「何でもない!」
思えば俺、昨日の夜寝る時、一時的とはいえ他の三人と一緒の布団で寝ちまってたんだ! なんてことを!
駄目だ! どうしても変な事ばかり考えちまう! こんな状態で一晩過ごせやしない! かくなる上は!
「それじゃ、そろそろ寝ようか。遊びまくって疲れたし。布団の並びとかどうする?」
「今日は俺、押し入れの中で寝ます!」
「んー却下。素人くんはドラえもんじゃないし何よりもそんなとこで寝られてもつまらないからねー」
「先輩の言う通りよ冬士郎。今日こそその寝顔を一晩中独り占めじゃなかった言い間違えた今のなし皆で仲良く寝たいの」
「ま、まさか昨日のことを気にして? わ、私は大丈夫ですよ!」
「いいや、何を言われてもここで寝る!」
押し入れ内のスペースに布団を放り込んでセッティング! 速攻で中から閉める。
「誰かー! 外側から板を打ち付けて中から出れないようにしてくれー!」
「いやー却下却下。旅館の人に怒られるってば」
「そんなこともあろうかと板と釘なら俺が持ち込んでいるんでした!」
「テンションおかしくない?」
そのまま内側から釘で板をトンカチ代わりのゲンコツで打ち付けて固定。釘抜きもないし外からも中からも開けれまい。
これでいいんだ。今日の俺は涼太レベルに頭がピンクになっている。万が一暴走しても三人の安全は確保した。よーしお休み!
✳✳✳
全然眠れないわ! 冬士郎がそばにいるからこその快眠効果がないからよ! あんなの一回経験したらやめられる訳ないじゃない!
冬士郎が何を考えて引きこもったのかはわからないけれど、我慢できないわ!
布団から勢いよく飛び出して押入れの前に立つ。この先に寝ている冬士郎が寝ているのね。あくまでも私は快適な睡眠を手に入れるためにこの襖を開けるのよ!
取っ手に手をかけて軽く力を入れてみる。えいっ!
バキッ
わーい開いたー! あっ、やばい寝顔何回見ても超かわいい。こんな冬士郎見せられたらもう我慢できない!
「えへへ……冬士郎しゅきー!」
「な、な、何してるんですかー!! ダメですー!」
「ま、真優ちゃん!」
突然後ろから真優ちゃんに抱きしめられちゃった! はわわ、かわいいわ! 冬士郎もかわいいけれど真優ちゃんも同じくらいかわいいわ! また昨日みたいに一緒に寝るー!
はっ! 私とした事が我を失うところだったわ! 私は今日こそ冬士郎を堪能するの! それにはまず真優ちゃんに事情を説明しなきゃ!
「ごめんね真優ちゃん。今日は一緒に寝てあげられないの」
「一緒に寝たいとかじゃ……その、確かに昨日は心地良かったですけど」
「よく聞いて。実は私、何を隠そう冬士郎の事が大好きなのー! キャー! 言っちゃった!」
「今まで隠し通せてたと思ってたんですか!?」
「ええーっ!? 気付いてたの!?」
「当然です!」
ず、ずっとバレないようにごまかしてきたのに! さすが真優ちゃん。かわいい上に賢いだなんて!
「おー言った言った。綾乃くんぶっちゃけたねー。
「紫藤先輩! 起きてたんですか!」
「そりゃあれだけ騒いでたらね。それよりも素人くん大丈夫? 起きてない?」
「大丈夫です! 冬士郎は一度寝たらなかなか起きないので! これが証拠です!」
「せ、先輩? この写真は?」
「何年もストックし続けてきた冬士郎の寝顔写真! 一度もバレたことないの!」
見せちゃった! 春ちゃん以外に見せたことなかった私の大事なコレクション!
「なるほど、その分ならこんな話してて大丈夫そうだね。そこまで大好きなんだったら告白とかしないのかな?」
「はい! 8月の31日が冬士郎の誕生日なんですけどその日に告白しようと考えてます!」
「えええっっ!?」
真優ちゃんがものすごく驚いた。ああ、かわいいわ!
「こ、告白するんですか!?」
「うん! 毎年恥ずかしくって言えずじまいだけど今年こそは……やっぱり恥ずかしー!」
「そ、そうなんですか……」
真優ちゃんが呟きながら冬士郎の方を見つめてる。
ピーンと来たわ。真優ちゃんは……真優ちゃんは!
「私と冬士郎の三人で川の字に寝たいのね!」
「ええっ!? 何ですか急に!」
「遠慮しないでいいのー! ほらこっちこっち!」
邪魔な襖を部屋の隅に投げ飛ばして冬士郎と私の布団の間にスペース確保! そのまま手早く真優ちゃんを寝かせてあげた。
「あ、あの! 朝起きた時になんて説明すれば」
「寝相でこうなったって押し通すわ!」
「そ、そんなはわわわわ」
真優ちゃんを優しく抱きしめながら冬士郎の寝顔を見つめる。
ああ、天国。もう逝ってもいいかも。
「おーい、二人共? あちゃー寝ちゃってるよ」
✳✳✳
「わあああっっ!! 何で笠井と綾乃がこんなとこで寝てんだ!」
「ふえ? はわわわっ! こ、これには深いわけが!」
「これは寝相よ冬士郎。私達あまり寝相がいい方じゃないから。ね、真優ちゃん!」
「はいそうです!」
「んー、バリケードどころか襖すら無くなってるけどその辺どう説明するのかな?」
「寝相の影響でどっか飛んでっちゃったのよ。ね、真優ちゃん!」
「そ、それはさすがに……そ、そのとおりです!」
「な、何だ寝言か……だったや仕方ないな!」
「ホントチョロいな素人くん」
……旅館の人にめちゃくちゃ怒られた。
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