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水着褒めるとか恥ずかしい

 朝起きると、隣の布団で寝ていた筈の笠井が消えていた。一体何事かと思ったがすぐに綾乃と一緒に寝ているのが見つけた。綾乃の年下女の子好きには困ったものだ。


「ふぁ~あ、みんなおはよ。あれ? 何で私素人くんの布団で寝てるんだろ?」

「何でって覚えてないんですか? 先輩が寝ぼけて俺んとこに入ってきたんですよ! ちゃんとしてください」

「んー全然覚えてないや。なんか悪いねーホント」

「勘弁してくださいよ。昨日それで色々と大変だったんだから」

「色々? ま、まさか素人くん、無防備の私にえっちな事を!」

「先輩とは何もしてません!」

「私とは? ふふーん、他の二人には何かしたって事かな?」

「し、してません!」


 そうだ。俺は断じて手を出していない! 昨日、綾乃の布団に入ったのも綾乃側が引っ張ってきたからだ! 危うく柔らかい感触に包まれながら眠りそうになってしまったけど・・・


「その割には顔赤くなってるけど大丈夫かな?」

「何もないですって!」


 ダメだ。完全に先輩のペース。朝っぱらから相手にしていては体力が持たない。今日は海水浴でガッツリ遊ぶ予定なのだから体力は残しておかなければ。


「それより、あの二人はまだ起きないんですかね?」

「綾乃くんは起きてるみたいだね」

「え?」


 先輩の言う通り、綾乃は布団の中にいながらも目を開けていた。


「うふふ、すやすや寝ている真優ちゃんかわいい・・・ずっと眺めていたい・・・」


 笠井の頭を優しく撫でながらそんなことを言っている。さながら聖母の様だ。

 結局、笠井が起きたのはそれから一時間もあとの事だった。


※ ※ ※


「ほ、本当にごめんなさい! 一時間も寝坊してしまって!」


 今日起きてから、海水浴場の更衣室に向かうまで私は何回も何回も謝っていた。回数なんて覚えていない程に。


「いいんだよ真優くん。誰も責めてはいないんだからさ」

「そうよ真優ちゃん! かわいい寝顔で全部チャラだわ!」


 そう言いながら綾乃先輩は頭を撫でてくる。の、脳がとろけそう・・・油断していると意識が持っていかれそうだよ・・・

 そういえば、旅行前に春花ちゃんが言ってた。


「真優ちゃん、寝ぼけた綾姉ちゃんには気を付けてね。万が一布団の中に引きずり込まれようものならえげつない母性に当てられて耐性のない常人じゃダメ人間にされちゃうから!」


 冗談かと思っていたけどこういう事だったんだ。 休みの日でも遅く起きた事なんて無かったのに・・・


「まあそんな事より水着に着替えようか。素人くん待たせても悪いし」

「と、冬士郎が私の水着を待ってる・・・うふふ」

「綾乃くん鼻血出てるよ」


 そうだった! せっかく海に来たんだから水着に着替えなきゃ! この時のために勇気だして派手目なの買ったんだし!


「綾乃くんっておっぱい大きいよね。何カップ?」

「Fカップです! 冬士郎を射止めるために突き詰めて・・・じゃなかった。健康的な生活を突き詰めてきた結果です」

「悔しいなあ。私なんてEなんだよ。もう少し欲しいな」

「私も負けていられないんです。クラスの友達にGの子がいて・・・」


 ・・・この二人の前で? れ、レベルが違いすぎる!ほんの一、二年早く生まれるだけでこんなに差が出るなんて、これじゃ公開処刑もいいとこだよ! 

 

 落ち着こ真優! こ、こうなったらものすごく恥ずかしいけどあの手しか!


※※※


 さっさと着替えを済ました俺は女子達を待つためにビーチで待ちぼうけていた。

 なんか緊張する。普段、何人かの女の子と遊びに行くことなんてないし、水着の褒め方とかどう言えばいいんだろ。はずいんだけど。

 万が一、恥ずかしがる事を悟られたら、紫藤先輩にネタにされてまた新しい黒歴史が出来上がってしまう! それだけは絶対に嫌だ!

 漫画とかによく出てくる爽やかイケメンキャラを思い出そう。あいつら、爽やかなイケメン面で当たり前のように「水着、似合ってるよ(キラーン)」とか言って女の子の水着を褒めてるけどすごくないか? もし俺が同じこと言ったら・・・無理、顔のレベルが合っていない。それこそ黒歴史爆誕じゃないかよ。

 それにエロい目で見られてるとか思われたらどうしよう。綾乃や笠井の口から春花に「エロい目で見られた」なんて伝えられた日には・・・いやあああ!


「おーい素人くん、お待たせ」


 き、来た! 平常心だ平常心! あくまでもそんなので恥ずかしがりませんよってキャラで通すんだ。

 まず先頭を歩いてきたのが紫藤先輩、黒いビキニだった。なんというか先輩らしい。・・・以上。


「こらこら、秒で目を逸らさない。やっぱ女子の水着見るの恥ずかしいのかな?」

「そ、そんなことないですよ。立派な高校生ですから」

「はいはい、とりあえず私の事はいいから二人の水着は褒めてあげなよ」

「は、はい」

「お待たせ冬士郎!」


 次に駆け寄って来たのは綾乃だった。これまた本人の清楚なイメージにあった白色のビキニ。本人のスタイルもあって、早速周りの男共の視線を集めている。

 

「その、どうかしら?」

「ん、あ、えっと」

「ほら褒めて素人くん」


 こういう時のためにさっき復習しておいてよかった。


「みじゅぎ、似合ってるよ」

「ふふ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」

「綾乃くんまた鼻血出てるよ」


 この間の時といい、綾乃はこんなに暑いのが苦手だったっけか?

 それよりも噛んだ! 出来るだけ爽やかに褒めようと思ったのに噛んだ! 最悪だ! 今すぐ死にたい!


「素人くん素人くん砂浜に顔突っ込んでどうしたの?」

「冥府見えないかなと思って。あわよくばそのまま行けたら」

「まだ早いわ冬士郎! 死ぬ時は一緒よ! べ、別に特別な意味があるわけじゃなくてね?」


 綾乃にあっさりと引っ張り出される。うう、恥ずかしい。


「ほら次真優くん」


 また恥ずかしいセリフを言わなければいけないのか。つってもさすがに慣れてきた。

 周りの目を気にして更衣室から笠井が出てきた。顔真っ赤だし相当恥ずかしいんだろうな。本人の見た目とよく似合う赤い水着。


「笠井、水着似合ってるよ」

「ととと冬士郎先輩サンオイル塗ってくだしゃい! ちょ、直接!」


 顔真っ赤でサンオイルの容器渡されながら言われたセリフに言葉が出なかった。ただ一人、紫藤先輩だけが腹を抱えて笑っていた。


※※※


「いつもより静かで平和だと思ったら思い出したわ。あのキュンキュンバカがいねえからかー」

「うちも平和。黒歴史思い出した時の奇声とか聞こえてこないし」

「春花お前、さっきから何指で回して遊んでんの?」

「綾姉ちゃんが隠し持ってたマイクロビキニ」

「うっへえ、あのアホどこでこんなん手に入れたんだよ」

「これ持っていこうとしてたけど頑張って止めた」

「エロい目以前にもっと変な目で見られんだろ。家族がこんなん着てたら秒で自殺するわ」






 



 

 





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