保健室の妖怪
これは俺がお前らと同じくらいの、そう、高校生の頃の話だ。その時のクラスメイトにめっちゃうざい奴がいたんだ。“めっちゃうざい奴”じゃなげえな……そうだな、ここでは“クソメガネ”って呼ぶことにすっか。
そのクソメガネは事あるごとに俺に文句を垂れてきやがったんだよ。
「久我、授業中にそんな物を食べるな。皆の気が散るだろ」
みたいな感じの事。俺はただ、いちごパフェに蜂蜜とあんこを乗せて食ってただけなのによ。
そいつはいわゆるユートーセーの生徒会長って奴で周りからも一目置かれてたんだ。でも俺はどうしても気に入らない。
何故かっつーと、クソメガネの野郎は俺の豪華な昼飯にケチ付けやがったんだ!
「久我、そんな犬の餌を学校で食うな。甘いものと甘いものを組み合わせればさらに美味しくなると思っているのか」
こんなこと言われたから俺はカッチーンと来たね。舐められたままじゃ終わらねえ……ただじゃ帰さねえぜ!
何するかなんて決まってる! 奴にこの俺特製の“アルティメットダークデスゴッドいちごパフェ”を食わせてやるんだ! あのクソメガネだって一口食えばこの蜂蜜とチョコといちごとあんこの絶妙なハーモニーを理解できる筈だ!
その日の放課後、奴にアルティメットダークデスゴッドいちごパフェを食わせるために探し回った。あいつ、確か今日は生徒会長の仕事があるとか言ってやがったし、帰ってねえ筈なんだがな。
お、やっと見つけた。ん? なんか隣に誰かいる。
あの乳でかくて安産型でエロい女の子は確か……副会長だ。幼馴染の夏葉とめっちゃ仲いいから何度か顔を合わせた事がある。
そんなことより、今はあのメガネに用があるんだ。声をかけようとしたら、メガネがフラついた。
「あらあら? 会長、一体どうしたの~? 大丈夫~?」
「う……だ、大丈夫だ。ただの睡眠不足だ。勉強のしすぎだな……」
「無理はよくないわよ~。近くに保健室あるし休んだらどうかしら~?」
「心配しなくても大丈夫だ」
そう言いつつフラついてる。明らかに無理をしてやがるな。
「おーいメガネー。お前なんか体調悪そうだな」
「なんだ久我か、何の用だ?」
「これ食えよ。授業中お前がバカにした俺様特製のパフェ! きっと体調もよくなるぜ!」
「そんな物食べたらさらに悪くなる。さっさと帰れ」
「てめえいいから食えっつってんだろうが!」
「ぐあああああ!!」
メガネを廊下に押し倒し、奴の口にアルティメット以下略をねじ込んだ。抵抗されたが無理やりねじ込む。あまりにも美味しいみたいで涙を流している。
「ダメよ~秋太郎くん。そんなもの無理やり食べさせたら死んでしまうわ~」
「大丈夫だっての! これ食えばむしろ健康になれるにちがいねえからよ!」
「それは秋太郎くんだけだと思うの~。皆が皆、強靭な胃袋をしているわけじゃないのよ~。夏葉からも糖尿病になるからって止められてるでしょ~」
副会長の忠告を聞き流しつつ、メガネを見る。動かねえと思ったら気絶しちまったようだ。
「あらら、大変だわ~! 会長が動かなくなっちゃったわ~!」
「美味すぎての気絶じゃねえの?」
「そんなわけないでしょ~! ほら、近くに保健室あるから一緒に運ばないと~」
「えーだる」
「秋太郎くんにも責任はあるわよ~文句言わずに運ぶ!」
叱られた。母ちゃんかっての。仕方なく、動かないメガネを保健室へと運ぶ。保健室の先生はいない。とりあえずメガネをベッドに寝転がした。
「私、心配だから会長の事見守っておくわ~」
「よくそこまでこいつの面倒見てられるわ」
「だって放っとけないもの~。私が付いててあげなきゃ~」
「そう? じゃあ俺帰るわ」
「もう、秋太郎くんてば~」
そのまま昇降口へと歩いてる途中、ふと思い出す。アルティメット以下略の味の感想聞いてねえわ。俺としたことが、そのためにわざわざ探し回って食わせたんじゃねえか!
きっと奴は『とても美味しかったです。今までバカにして申し訳ありませんでした。舎弟にしてください』みたいな事を言うにちがいねえ! 保健室へUターン、今すぐ戻って叩き起こしてやるぜ!
「……ん? ふ、副会長! 俺が寝ている間に何を!」
「あらあら~起きたの~? 無事でよかったわ~」
「いくらなんでもこの状態は男として恥ずかしすぎる!」
何だ? 何やってんだ? ドアちょっと開けてこっそり確認してみると、
クソメガネが副会長に膝枕されていた。
「会長は頑張りすぎなのよ~。学校はもちろん、家でもずっと勉強しているんでしょう? 少しは自分の事甘やかしてもいいと思うの~」
「な、何だこの感覚は? 膝枕されているだけなのに体中から疲労やストレスが消えていく……! この膝から離れられない!」
「急いで離れる事はないわ~。ゆっくり休んでからでいいのよ~」
「うっ、ふぐう……」
情けねえ声が聞こえてきた。何かやべえ光景を見てる気がする。
あ。
クソメガネと目が合った。
奴は俺を見ると、幸せそうな顔から一転、目を見開きながら顔が真っ青になっていった。
その姿は正に妖怪だった。
「ぎゃあああああ! 妖怪バブバブメガネだああああ!」
みっともなく泣き喚きながらその場から逃げ出した。後ろからは妖怪が何かを言いながら追いかけてくる。振り返らずにひたすら逃げ続けた。その日は怖くて部活終わりの夏葉に泣きついて帰った。
その日から俺は呪われてしまった。クラスは離れねえわ席近いわで奴はすぐ近くにいる。
その呪いは高校を卒業しても続いていた。夏葉と付き合い始めた俺だが、ダブルデートとか言ってバブメガネと千紗乃っちまで付いてきちまう……!
さすがに俺らが結婚すれば離れられると思っていた……しかし奴はそれでも付いてきた。夏葉と千紗乃っちの仲の良さを甘くみていた! 家が隣になるなんて!
俺は一生……この呪いから逃れられない……。
まあ何が言いてえかっつーとだな。
涼太、お前は赤ちゃんプレイで産まれたんだ。
***
「あああああああああああっっ!!!」
「ぎゃはははは! どうだ春花、俺の取っておきの怪談は! 涼太の奴泡吹いて気絶したぜ!」
「怪談じゃないよね」
「いいから感想を言えっての!」
「千紗ママの事エロい目で見てたのマジキモくて鳥肌立った」
「おいおいそこじゃねえだろ!」
「久我ぁっ! 嫌な予感がして来てみれば、子供達になんて話をしているんだ!」
「やべっ、妖怪バブバブメガネが我が家に攻め込んできた!」
「誰が妖怪だ殺すぞ! 今すぐにその口を開かないようにしてやる!」
「上等だゴラ! 今こそこの呪いを断ち切ってやるぜ!」
また始まった。はーだる。やるんだったら部屋から出てってくんないかなあ。
多分、この呪いは一生解ける事はないでしょうねえ。
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