睡眠ハプニング
なんとか冬士郎の隣を確保することが出来たわ。このまま寝たフリをして皆が寝入るのを待たないと。
どうしてかというと単純な話。無防備な冬士郎の寝床に潜り込んで色んな事をするのー! 冬士郎は昔から一度寝付いたらうるさくしてもなかなか起きないから大丈夫!
冬士郎はこの状況で女の子に手を出すような穢れた心は持ってない。故に向こうからは期待出来ない………だから私から襲いかかるのー!
あんなことやこんなこと……キャー! これ以上はノクターンノベルズ向けの表現になってしまうわ!
でへへ、他の二人にバレないようにすると考えると……何かに目覚めそう。キュンキュンする。落ち着くのよ私、行動は他の皆が寝静まるのを待ってから……。
あれ? なんだか急激に眠気が襲ってきた? おかしいわ。確かに昼間の移動時間で体力は使っているけれど……それにしても強い睡魔! 抗えない! 一体何が起こっているの!?
わかった! 冬士郎の隣であるこの場所が私にとっての最高の安眠場所だと体が認識してしまっているんだわ! 将来、同じ部屋で一緒に寝るようになっても不眠になることはないわね! わーい! ZZzz……
***
寝る直前、涼太からラインが届いてきた。こんなタイミングに何だと開いてみた所、URLが貼られていた。考えなしにタップしてみると、
『手違いで女子と同じ部屋になってしまった! 何も起こらない筈もなく……』
とかいう題名のアダルトビデオへアクセス! 何促してんだあの馬鹿! 帰ってたら目に物を見せてやらねえと!
忘れろ俺! 寝ろ! 寝るんだ!
……。
眠れない。余計なことを考えるなってクソ童貞! さっさと寝ろよクソ童貞! 自分で言ってて悲しくなってきた。
隣の綾乃はすうすうと寝息を立てていた。結構寝付きいいな。
「うーん、むにゃ、トイレトイレ……」
一番向こう側で寝ていた布団から紫藤先輩が出てきた。そのまま、大きな欠伸をしながら部屋の入り口近くのトイレへと入っていった。
それと同時に、また涼太からURL。どうやらさっきのAVのシリーズ一覧を送ってきたようだ。うわ、シリーズ20作もあんの? どんだけ人気シリーズなんだよ。あいつマジしめるか。
そう決意した時、急に布団の中に冷たい空気が入ってくる。布団が浮き上がった? え?
「ねむーいねたーい」
トイレを済ませて戻ってきた先輩が布団を持ち上げたようだ。な、何で?
そのまま、当たり前のように俺の布団に入ってきた!
「ちょっ、先輩何してんですか! ここ俺の布団ですよ!」
「むにゃむにゃ……」
俺の声なんてまるで聞いてない。そのまま目を閉じて寝ようとしていらっしゃる!
「先輩起きてー! 布団間違えてますよー! おーい!」
隣の綾乃を起こさないように小声で起こそうとするが、何も反応がない! そ、速攻で寝付いたってのかよ!
「むにゃー……んー」
寝返りを打ってこちらに体を向けてくる! 近い近い! 浴衣はだけてるって! 胸元はだけてる! ダメだって! 見るな見るな!
こんな光景他の二人に見られたら……
『キャー! 冬士郎のケダモノ! 私信じてたのに!』
『さ、最低……! 二度と私に近付かないでください!』
とかなんとか誤解されてこんな感じの事言われるに決まってる! そしてその誤解が春花にまで伝わって……一生無視られる! どうにかしねえと!
つっても、紫藤先輩はこのまま起きてくれそうにないし……そうだ! 俺の方が空いている先輩の布団に寝に行けばいいんだ! 先輩の布団はここから一番遠い所の布団だ。女子三人を起こさないようにゆっくりと行けばいい。
そうと決まれば即行動! 出来る限り音を出さないように布団からゆっくりと脱出する。
「むにー……このゼロ・パープルウィステリアにひれ伏せー」
涎を垂らしながらそんな寝言を呟いている。どんな夢見てんだ? ゼロなんとか? どっかで聞いたような。
とにかく今は先輩の布団に向かわないと! 皆を起こさないようにゆっくりとゆっくりと……
綾乃の頭のそばを歩き抜こうとした瞬間、急に右足が急に持ち上がらなくなった!
「ぐあああ! 何だ!」
右足が痺れたのか? 違う、足首を何かに掴まれている? 幽霊かなんかか?
恐る恐る右足を見てみると、
「綾乃?」
俺の右足首を掴んでいる手は綾乃の布団から伸びていた。
「何だ起きてたのか。おいおい、ふざけてるならやめてくれ」
「うーん、むにゃむにゃ……でへへ……」
どうやら寝ているようだ。寝相で人の足首掴むか普通。とにかくこの手を外させてっと……かった! 全然離さねえ!
「一体どっからこんな力が……ぐあああ!」
引き剥がすのに難儀していると、突然綾乃の布団に引きずり込まれてしまった!
「おい何してんだおい!」
「むにゃ~……うふふ」
一瞬ふざけてイタズラしているのかと思ったが、本当に寝ぼけているだけのようだが……
まずい! この状況、さっきと大して変わらないじゃねえか! こんな所を万が一他の二人に見られたら……絶対誤解される! 今すぐ逃げ出さねえと!
「ダーメッ! 離れちゃダメー!」
「ぐあああっ!」
「えへへ……」
綾乃の拘束力が思いの外強く、頭まで布団の中に引きずり込まれてしまった!
きっと俺の事を春花か笠井と間違えているに違いない! 助けてえ!
「ほらーむぎゅー」
突然、顔全体に柔らかい感触が……この感触はまさか……ヤバイヤバイ!
これはダメだって! 子供の頃と比べて随分と成長したなあ……じゃなくて!
「よしよーし……むにゃにゃ」
なんか頭撫でてくるし! 寝ぼけながらも母親譲りの強烈な母性を発揮してやがる! い、息苦しい……このままじゃここで寝てしまう! 急いで脱出しないと!
「うおおおおおっっ!!」
火事場の馬鹿力! 綾乃の拘束をなんとか振りほどく事に成功した。
とりあえず、新鮮な空気が吸いたい。顔だけでも布団の外に出さねえと!
「ぷはぁ……はぁはぁ……あ、暑かった……死ぬかと思った……」
よし、このまま綾乃の布団から脱出して……
あ。
綾乃の左隣で寝ている筈の笠井とバッチリ目が合った。
「と、冬士郎先輩? 一体そんな所で何を……?」
「違うぞ笠井。お前が思ってるような事はしていない」
「や、やっぱりこんな状況でその……我慢出来なくて……?」
「ちっがーう! むしろ俺がピンチなんだよ!」
「だ、大丈夫です! 春花ちゃんに言い付けたりしませんから!」
「だから違うんだって!」
すぐにその場から離れず、必死に弁解してしまったのがいけなかった。
「ダメー! 逃げるのイヤー!」
逃がすまいと綾乃が俺の体を引っ張ってくる。まずい! このままじゃまた引きずり込まれる!
「助けてくれ笠井! 俺を引っ張ってくれ!」
「えっ?」
「綾乃が俺のことを春花かお前と勘違いしてるんだよ! 早く!」
「わ、わ、分かりました!」
精一杯伸ばした俺の手を笠井が掴み、引っ張ってくれている。が、綾乃程の力は無く、次第に俺は綾乃の方へ引っ張られていく。
「このままじゃ綾乃の胸元で一晩過ごすことになっちまう! 頑張ってくれえ!」
「え!? そ、そんなのダメです! 綾乃先輩に渡すくらいなら私が!」
急に笠井の引っ張る力が強くなったおかげで次第に笠井側へと体が向かう。
そして一瞬、綾乃の手が緩んだのを感じた。
「今だ! 思いっきり引っ張れ!」
「はい! こっちに来てください!」
「あー逃げたー!」
無事、引き剥がす事に成功し、笠井の布団へと避難完了。
た、助かった……。
「いなーい……寝るぅ……」
俺を見失った綾乃は諦めがついたのかまたすぐに寝息を立て始めた。
「マジで助かったよ笠井。これで朝起きて悲鳴を上げられる事もないだろうし」
「……」
「綾乃って寝ぼけたらあんなんになるんだな……知らなかった……」
「……」
「どうした笠井」
「あ、えと……その」
顔を覗くと、笠井の顔がものすごく赤くなっていた。湯気まで立っている。
「悪い! こんな狭い場所で二人でいたら暑いよな! すぐ出ていくから!」
「そ、そういうわけじゃ……」
急いですぐそばの最初に紫藤先輩が寝ていた布団へと向かう。
つ、疲れた……これでようやく安心して寝れる……。
ものすごい睡魔。そのまま気絶するように寝てしまった。
***
と、冬士郎先輩が左隣で寝ている! こんな状況じゃ寝れるものも寝れないよ! 先輩の温もりがまだ残って……何考えてるの私! 変態さんじゃないんだから!
心臓の音が鳴り止まない。も、もしこのまま寝ちゃったら先輩、私に手を出したりしないかな? 先輩がそんな人じゃないのは分かってるけど……落ち着いて考えられない! どうしよう!
「んー真優ちゃん?」
「え?」
右隣の綾乃先輩が布団の間からこちらを覗いていた。また寝ぼけてるのかな?
「真優ちゃん……顔真っ赤にしてて可愛い……キュンキュンする」
「ええ?」
「こっち来て一緒に寝よー!」
「えっあの、ひゃあああああ!!」
私の体に思いっきり抱きついて自分の布団へと引っ張ってきた!
「むぎゅー! なでなでー」
むぐっ、や、柔らかい。こ、これは綾乃先輩の……
不思議と苦しくなかった。むしろ心地よい。さっきまでの心臓の鼓動なんて忘れるくらいの幸福感……
心の底から安心できる……暖かい……
そのまま意識が遠退いていった。
綾乃さんただのやべえ奴になってきたけど大丈夫かな?
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