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地獄へは行きたくない!

 結局、困惑しながらも四人で部屋に荷物は置いた。当然妙な空気になっている。元凶である紫藤先輩を除いて。

 やっぱおかしいって。こんな思春期真っ盛りの男女が一緒の部屋って。笠井なんかめちゃくちゃ顔赤くしてパニくってるし、綾乃は何故か笑みが止まらなくて怖いし。今紫藤先輩が二人に弁明している所だ。

 こんなことなら、作中一番の常識人であるこの俺が先輩の代わりに予約を取っておくべきだった。それだったらこんな空気にならずに済んだのに。どうすりゃいいんだ。

 いたたまれなくなり、腹を割って話せる奴に相談しようと電話をかける事にした。


「もしもし、んだよトシ兄」

「涼太、大変だ。綾乃達と一緒の部屋に泊まる事になっちまった。どうすればいい?」

「は? 一緒の部屋? 何、乱パでもすんの?」

「馬鹿お前! んなことするわけないだろ! ドスケベ鬼畜乱交パーティだなんて!」

「ドスケベとか言ってねえよ。どうするっつったってな。せっかくなんだし誰か夜這いでもすればいんじゃね?」

「エロ本の読み過ぎだ馬鹿! 万年発情期のお前に相談したのが間違いだった!」

「一方的に相談ふっかけてきてそれはねえだろ。 ん、代われ? ほらパス」

 

 ん? パス? あ、しまった。四六時中涼太のそばにいる奴っていったら……


「もしもーしお兄ちゃーん?」

「ぎゃああああ春花!」

「人の声聞いてぎゃあはないでしょぎゃあは」


 まずい! 俺は二人っきりの状態で綾乃を押し倒した前科がある! 

 そんな奴と女子が同じ部屋で寝泊まり……何もしないって信用してくれるわけがない!

 綾乃を押し倒してから一年間、ろくに口を利いてくれなかったあの地獄は二度と味わいたくない!


「お前の言いたいことは分かる。俺、廊下で寝とくから」

「はずいから絶対やめて。やったら一年無視る」

「いやあああああ!」

「まあ落ち着いてってお兄ちゃん。もう今さら仕方ないよ。綾姉ちゃんも真優ちゃんもきっと仕方ないって受け入れてくれるよ」

「は、春花……!」

「夜這いしたらぶっ殺すからね?」

「はい」


 ぶっ殺すっつったよこの子。ここまで念を押されるとなると、やっぱ相当警戒してんだな。


「あ、そうだ。綾姉ちゃんに代わって。ちょっと話したいから」

「ん、わかった」


***


「もしもーし! 春ちゃーん!」

「状況はお兄ちゃんから聞いたよ。綾姉ちゃん大丈夫かなって思って」

「うん、キュンキュンする!」

「一ミリも大丈夫じゃなさそう」

「だ、大丈夫よ春ちゃん! 心配しなくても寝込みを襲われる覚悟は出来てるわ!」

「出来てるわじゃなくて。綾姉ちゃんさ、二人きりならともかく、真優ちゃんとか紫藤って先輩と一緒の部屋で襲われたいの?」

「む、無理ー! 恥ずかしい!」

「でしょ? 次、真優ちゃんに変わって」


***


「も、もしもし! 春花ちゃん!? わ、私もう何がなんだか!」

「大丈夫だって。お兄ちゃんには釘刺しといたから寝込みを襲われはしないと思うよ」

「そ、そんなわけないよ! こんな状況で男の人が何もしないわけないよ! 本で読んだもん!」

「何それ? そんな内容涼太のエロ本ぐらいでしか読んだことないけど。まあいいや、万が一何かされたら言ってね?」

「え、あ、うん」


***


 行き来しまくっていた俺のスマホが帰ってきた。

 

「えっと、その、改めてごめん」


 頬を掻きながら申し訳なさそうに先輩が謝った。


「大丈夫ですよ先輩。私は冬士郎がそんな事をする人じゃないって信じてますから」

「わ、私も大丈夫です!」

「ありがとう。素人くんも二人の期待に答えて発情しないように気を付けるんだぞ」

「しませんよ! そんな事したら妹にまた一年無視られます!」


 その後、その日はを部屋でゆっくりと過ごす。途中、美味しい夕食を食べたり、トランプやったりしたり、とりとめのない話をしたりして楽しい時間を過ごした。部屋についてのごたごたは合ったが、そんなのは俺が何もしなければいい話なのだ。


「あれ、もうこんな時間か。そろそろ寝ようか」


 気付いたらもう深夜の一時に差し掛かろうとしていた。あっという間だ。


「布団の間取り位置どうする?」

「あ、俺押し入れで寝ますんで三人で決めておいて下さい」

「お、押し入れですか?」

「なんならふすまに板を打ち付けて出てこれないようにしといてくれれば」

「そんなゾンビ対抗策みたいな」

「ダメよ冬士郎。そんな隔離するようなこと私が認めないわ」


 真剣な表情の綾乃が俺の申し入れを却下してきた。


「そうだよ素人くん。その事については皆信頼してるって言ったじゃないか」

「先輩……! 綾乃……!」

「素人くんが女の子に手を出す度胸が無い事は前に私の家に泊まりに来た時に証明されてるし」

「せ、先輩……」

「え、ちょ、待ってください! 冬士郎先輩、紫藤先輩の家に泊まったんですか!?」

「ん、ああ。台風で帰れなくなってやむなく」

「ははは、心配しなくても真優くんの考えているような事はしてないよ」

「な、何も考えていません!」

「まあそれはそれとしてだ。話がそれたな。布団の位置だけど……」


 それからの話し合いの結果、入り口から順番に俺、綾乃、笠井、紫藤先輩の順番の横並びで寝ることになった。


「それじゃ、電気消すよー!」


 消灯される。消灯と同時に隣の綾乃がこっちに囁いてきた。


「冬士郎、何か久しぶりな気がしない? こうやって一緒に寝るのって」

「確かに懐かしいよな。昔は四人で集まって寝てはこっそり夜更かしとかしまくってたよな」

「途中で親にバレて鬼に食われるぞって脅されたりしたものね」

「うちのお袋とそっちの親父さんこそが鬼だったよなあ」

「ふふっ、そうね」

「さて、明日も早いしもう寝るか」

「うん、おやすみ」


 さっさと寝てしまおう。俺が何もしなければつつがなく終わるんだから。

 

 

春花お疲れ様です。

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