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水と油

 久我家うちのお袋と柊家むこうのお袋さんは俺らが生まれる前からの付き合いらしく、とても仲がいい。

 お互いが結婚してからも家も近くにするように示し合わせて今に至るようだ。もはや親友とかそんなレベルを超えている。

 なお、父親の方はというと、


「久我。俺はいつもこの時間は録画したドラマを見ると決めている。どくんだ」

「知らねえよ。うちじゃテレビの使用権は早い者勝ちなんだよ」

「ここは俺の家だ。ここのルールに従ってもらう」

「わかったってうるせえなバブバブメガネ」

「なんだと?」

「あん?」


 顔を合わせたらまずケンカを始めるいわゆる犬猿の仲だ。毎回こんな感じなので、周りもその光景を当たり前のように受け入れている。

 ていうか、何で俺は親父と一緒に柊家に来てるんだっけか?


***


 久我家と柊家では不定期にとあるイベントが起こる。母親同士と娘同士がどちらかの家に集まって男水入らずの話し合いをするのだ。

 当然、男子禁制なので俺と涼太、互いの父親は参加する事が出来ない。それどころか、開催場所になった方の家には男共は立ち入ることすら許されない。終わった後に何の話をしていたかも話してくれない。

 俺と涼太はそのイベントを女子会と呼んでいる。女子会と言うには女子が半分しかいないが。

 その女子会が今日、我が家で突然開催するというお触れが入り、俺と親父は渋々家を出ていく羽目になった。やるならやるで、せめて事前に取り決めておいてほしい。


 さて、こんな時俺は基本、涼太相手に暇潰すために柊家に行くことが多い。親父は適当にどこかブラついている事が多い。しかし今日は違った。


「なんか今日はどっか行くのだりーわ。俺も柊家あっち行って時間潰す」


 深く考えた様子もなく、そんなことを言って俺に付いてくる。珍しい事もあるもんだと思いながらインターフォンを押すと、柊家の親父さんが出てきた。

 

「冬士郎くんか。ゆっくりしていきなさい」

「失礼します」

「家内と娘がそちらに行っているようですまないね」

「大丈夫です。お互い様なんで」


 気を使ってくれているのはわかるけど、やっぱりこの人は少し苦手だな。パッと見の威圧感ももちろんだけど、友達の父親っていうだけでなんか遠慮してしまう。


「私には構わずにくつろいでくれたまえ」

「あ、はい。失礼しま」

「フッフーウ! 相変わらず高そうなソファじゃねえかおい!」


 親父はリビングに着くなり、ハイテンションでソファにダイビングして横になる。親父さんの顔色が一気に変わった。


「久我。うちのソファを乱暴に扱うな。埃が舞うだろ」

「あーわりぃわりぃ。次から気をつけるわ」

「その言葉は今ので何度目だと思っている? いい加減、改善する努力をしろ」

「ういー」


 適当な返事をすると、テレビを付けてバラエティを見始める。他人の家とは思えないくつろぎ方だ。


「久我。俺はいつもこの時間は録画した平日のドラマを見ると決めている。どくんだ」

「知らねえよ。うちじゃテレビの使用権は早い者勝ちなんだよ」

「ここは俺の家だ。ここのルールに従ってもらう」

「わかったってうるせえなバブバブメガネ」

「なんだと?」

「あん?」


 あーもう、いつもこうだ。こうなったらこの二人は止まらない。


「うわ、おっちゃんがこっちに来るのって珍しいな。どういう風の吹き回しだよ」


 騒ぎを聞きつけたのか、二階から涼太が降りてくる。


「よう涼太。このメガネが俺にテレビ見させてくれねえんだよ。けちだよな」

「はいはい、ケンカなら二人でやっといてくれよ。トシ兄二階行こうぜ二階」

「ん、ああ」


 とりあえず、涼太に促されるまま二階へと行くことにする。


***


「そろそろ昼飯の時間か。母さんまだ帰ってこねえのかよ」

「俺も腹減ったな。女子会はまだ終わらないのか?」

「あ、今ライン来た」

「なんて?」

「・・・・・・長引くから昼飯四人で食べとけって」


 ・・・・・・あの二人と同席か。うちの親父とこっちの親父さんの仲の悪さ知ってて言ってるんだろうか。


「とりあえず下に降りるか。それから考えよう」


 一階へと降りるなり、リビングから親父さんが顔を出した。


「二人とも丁度良かった。これから私がカレーを作るんだが、冬士郎くんも良かったらどうだ

?」

「え、いいんですか? それじゃお言葉に甘えさせていただきます。あ、手伝いましょうか?」

「大丈夫だ。遠慮せずにリビングで待っていてくれたまえ」

「メガネー! 俺大盛りー!!」

「お前は少しでもいいから遠慮を覚えろ」


 ソファの上には相変わらずだらけている親父の姿が。テレビの使用権は結局取り返せなかったようだ。

 

「涼太、なんでこの二人はあんなに仲が悪いんだ?」

「んなもん俺が知るかよ。単純にめちゃくちゃ馬が合わねえんだろ」

「確か学生の頃の付き合いとは聞いていたけど、その時からずっとこんなんなのか?」

「マジかよ。だとしたら飽きずにようやるわホント」


 それからしばらくテレビを見ながら待っていると、親父さんがカレーを作り終えた。

 席に座り、カレーを眺める。親父さんの作る料理は初めて食べるが、とてもおいしそうだ。


「こんな物ですまないが食べてくれ」

「いえいえ、いただきます」


 カレーを食べようとスプーンを手にしたその時、


「おいおい! ホイップクリームが乗ってねえじゃねえか! まったく気が利かねえな!」


 親父がどこからかホイップクリームのチューブを取り出し、カレーにぶちまける。おいしそうなカレーの臭いが一瞬で消し飛び、あっまい香りに満たされた。

 おいおいおい! 何してんだこのアホ親父! ほら見ろ、親父さんのこめかみに血管が浮かび上がって来てるぞ!


「・・・・・・冬士郎くん。この男はいつもカレーをこうやって食べているのかね?」

「は、はい。カレーに限らず色々な料理にかけて食ってます。この間はポテチにいちごシロップをかけていました。す、すみません」

「いや、いいんだ。夏葉さんも苦労しているんだろうな・・・・・・おい久我、一旦そのゲテモノを食すのをやめろ」

「んだよ」

「お前一人がその犬の糞を食うのは構わない・・・・・・だがこの匂いが他の三人の料理に移るだろう。もう少し周りの事を考えて・・・・・・食べるのをやめて話を聞け」

「やめろって父さん。おっちゃんがそんな説教ろくに聞くわけねえだろ」

「いいや我慢ならん! 今日こそはこいつの性根を叩き出す!」


 食事中なのにまた始まってしまった。涼太は涼しい顔で食事を再開する。お、お願いだからゆっくり食べさせてくれ!

 

むさくるしい男達の見苦しい争いしか書いてねえな。

次回は打って変わって女子会(女子半分)なのでお楽しみに。


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― 新着の感想 ―
[一言] 父親はっちゃけすぎやろやば
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