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忘れられないあの本

笠井さん視点です。

「行ってきまーす」


 夏休みが始まってまだ数日、昼過ぎに家を出た。向かい先はバイト先ではなく、春花ちゃんの家……冬士郎先輩の家でもある。

 夏休みが始まる前に、春花ちゃんと一緒に宿題を協力して終わらせようという計画を立てていて、そのために今向かっている所だ。期末テストの勉強の時にも一緒にしたけど、一人でやるよりも誰かと相談しながらやった方がスラスラと頭に入るし、何よりも楽しい。この日を待ち望んでいた。

 それにも関わらず、最近の私の頭の中は勉強とは別のことでいっぱいになってしまっていた。それはこの前、偶然目にしてしまったその、えっと、涼太くんの持ってたえっちな本。

 目を通したのはほんの数ページだったけど、恥ずかしながらあの手の知識に乏しい私にとってはとても衝撃的な内容だった。あの日は帰った後、まったく寝れなかったし。

 あれから、ふとした時に本の内容が脳裏によぎるようになった。なっちゃった! 忘れようといつも以上に勉強をして期末は乗り越えたけど、全然頭から離れない。

 だ、ダメだって私ってば! 今日は春花ちゃんと宿題を進めるんだって! とにかく忘れないと! あ、でも冬士郎先輩が隣の部屋にいるんだった。また緊張してきた!


 そんなことを考えているうちに春花ちゃんの家に着いていた。インターフォンを押してしばらくすると春花ちゃんが出てきた。


「こんにちは春花ちゃん。今日もよろしく!」

「うん、入って入って!」


 春花ちゃんに促されるまま、お邪魔させてもらおうとすると、


「ふわーあ……何お前ら、もう宿題すんの? 早くね?」


 当たり前のように二階から涼太くんが大きな欠伸をしながら降りてくる。ホント仲良いんだな……。


「涼太も早めにしといたら? なんなら後で教えてあげよっか」

「ん、頼むわ。宿題の範囲すら知らねえけど」

「そっから教えんのー?まあいいや、あとでね」


 涼太くんと別れ、部屋へと向かう。


「ははは、本当に仲良いよね二人って」

「ん、まーね。物心付いた時からずっと一緒にいればね」

「も、もしかして付き合ったりまではいってないよね?」

「いってないいってない。一回告ったけどフラれたし」

「そ、そっか……」


 しばらくして、ハッと我に返る。


「こ、告白したの!?」

「え、うん。だって好きだし」

「初めて聞いたよ! 春花ちゃんも特にそんな話しなかったし……」

「だって聞かれてないし……」

「綾乃先輩みたいにデレデレじゃないし!」

「綾姉ちゃんが死ぬほど分かりやすいだけだし」

「う……」


 言葉に詰まってしまう。春花ちゃん、告白なんて度胸ありすぎだよ。

 でも、断られちゃったんだ……変なこと思い出させちゃったな……。


「ごめん春花ちゃん、私……」

「いいっていいって。私、まだ諦めたわけじゃないもん。いつか巨乳になって見返してやるんだもん」

「きょ、巨乳?」

「そうそう聞いてよ。涼太ってば私が貧乳だから女として見れないって振ったんだよ? どう思う?」

「ええ……最低……」

「でしょ? でも、好きな人が巨乳好きなら仕方ないじゃん? 好みの大きさになるまで頑張るしかないよ」


 笑い事のように話しているけど、本心では無理している事が伝わってくる。強いな……私だったら絶対耐えられない。

 そのまま春花ちゃんの部屋へと入れてもらう。

 ん? 床に何か落ちてる。本?


『巨乳後輩の誘惑~学校より先に童貞を卒業させられた件~』


 こ、これは……! 以前に少しだけ読んだあのえっちな本だ! 何でこんな所に! 犯人はもう分かっているけど!


「うっわあ、涼太忘れて帰ったな。何やってんだか」


 春花ちゃんはえっちな本を拾い上げると、パラパラと流し読みし始めた。その時の目はものすごく冷めた物だった。こ、怖い。


「ふーんだ。何が巨乳だっての」


 そのまま、部屋のゴミ箱に勢いよく投げつける。


「か、返さなくていいの?」

「いいもん。巨乳のエロ本なんてこの世から根絶しちゃえばいいんだ」


 春花ちゃんは機嫌を悪くしながらも宿題の準備を始めていく。私も取りかからなきゃ。


 数分後……


 ……おかしいな? 集中出来ない。正直な話、原因はちゃんと分かってる。ゴミ箱の中のえっちな本だ。

 わ、私のバカ! 友達の家に来ておいて、えっちな本が気になっちゃうなんてありえないって! 集中しなきゃ、集中しなきゃ、集中しなきゃ!


「真優ちゃんどうしたの? 何かさっきからそわそわしてない?」

「だ、大丈夫! 決して続きが読みたいとかそういう訳じゃないから!」

「え、続き? 何の?」

「何でもない!」


 正直に白状します。私はあの本の続きが気になってしまっています。

 積極的な後輩が男の先輩を押し倒してあんな事やこんな事をして……それからどのような生活を送っていくのか……気になる!

 だからって、『私はこのえっちな本が読みたい』とか言ったら……絶対に軽蔑されちゃう! 痴女だと思われちゃう!


「うおーい春花。いんのか?」


 突然、ノックもなしに男の人が扉を開けて顔を出してきた! だ、誰!?


「ちょ、パパ……じゃなくてお父さん来ないでってば! 友達来てるんだって」

「んだよー、ちょっと聞きにきただけじゃねえか」

「何を!?」

「俺の新開発したイチゴシロップかけたポテチ食わね? ほら、友達も一緒に」

「そんなゲテモノ持ってこないで!」

「ゲテモノとは何だゲテモノって! 娘が反抗期になった! 辛い!」

「早く降りてってば……てか格好!」


 よく見ると、春花ちゃんのお父さんは下にズボンを履いておらず、トランクスだけだった!


「ひゃあああああああああ!!??」

「何で友達来てる時にそんな格好してんの!?」

「え、だってあちーし」

「マジありえない! 出てけー! この糖尿バカ!」

 

 そのまま、春花ちゃんはお父さんの体を押しながら部屋を出て行く。


「ママー! パパが真優ちゃんに変なもん見せた! そっちに連れてく!」

「任せて春花! その男に地獄を見せてあげるわ!」

「げげっ!」


 じ、地獄って……パワフルなお母さんだなあ……。お父さんはそのまま一階へと連行されていった。


 ……。


 今、この部屋には私しかいない。

 つ、つまり……これはチャンス!?

 いやいやいや! 何考えてるの私! 駄目だってば! いくら気になるとはいえ、あのえっちな本をこれ以上読んだら元には戻れない気がする!

 でも、こんな機会は二度とないし……!


 どうしようどうしようどうしよう!


 ……。


 私は、手を伸ばしてしまう。ゴミ箱の中のえっちな本へと。


***


「あー頑張った! お疲れ真優ちゃん!」


 夕焼けの時間になり、今日の勉強は終了した。


「うん。今日は色々と勉強になったよ」

「途中で変な邪魔入っちゃったけど忘れてね! ばいばい!」

「うん、今日はありがとね真優ちゃん」

「真優ちゃん、これからもうちの春花と仲良くしてあげてね」

「はい、もちろんです」


 お母さんにも別れの挨拶をしておく。優しそうな人だな。とても昼間に地獄と言ってた人とは思えない。

 でも、今日は冬士郎先輩とは会えなかったな……同級生の友達と遊びに行っているらしいけど、一目で良いから会いたかったな……。


「ただいま!」


 帰路に着こうと玄関の扉に手をかけようとすると、冬士郎先輩が勢いよく中に入ってきた! び、びっくりした! どうしよう! 心の準備が!


「お、笠井来てたのか。春花と一緒に宿題でもやってたのか?」

「あ、え、えっと、そうです!」

「すげえな。俺、結構後半になってからやり始めるからな……そういえば春花、庭で親父が死んでたけどなんかあったのか?」

「別に何もない」

「そっか。笠井、勉強で分からない事があったら俺に聞けよ。分かる範囲なら教えてやるからな」

「せ、先輩から勉強……?」


 そ、そういえば、あのえっちな本の73ページでも男の先輩がヒロインを押し倒してこんな事を言ってたような……。


『先輩であるこの俺がしっかりと勉強を教えてやる。保健体育のなあっ!!』


「ひゃあああああああああああ!! だだだ駄目です! いくら何でも課程を飛ばしすぎてます!」

「え、駄目?」

「し、し、失礼します! ま、また今度!」


 あわわわ! 私ったら何言ってるのかな!? あのえっちな本をより綿密に目に焼き付けたばっかりに!

 パニックになって走りながら、あの本を読んだことを深く後悔しまくった。








 これはもう純粋だったあの頃には戻れませんね……


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