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初めてのお見舞い

冬士郎視点です。

 まさか、自分の風邪を治した直後に看病する側になるとは思ってもいなかった。それも綾乃の。 

 俺の知る限りじゃ、今まで風邪を引いた事もないのに、これはただ事じゃない。

 さっきお袋さんから話を聞いた限りじゃ今までにないくらいひどい症状だと聞いて飛んで来た。が、熱もないし、顔色も良さげだし、全然元気そうじゃないか。

 

「綾乃、本当に大丈夫なんだな? 無理とかしてないな?」

「全然! むしろ、いつもより幸せな気分!」

「ならいいけどよ」


 ……本当にいつもより元気そうだ。もはや完治してるんじゃないのかってレベルで健康に見える。いや、油断したら駄目だ! 俺は油断して遅くまでゲームして冷房20度に設定したまま腹出して寝たから昨日地獄を見たんだから!


「私より冬士郎は大丈夫なの? 春ちゃんから結構つらそうにしてるっていうのは聞いたけど」

「ああ、マジで昨日はやばかったな……スマホいじる気すら起きねえし眠れねえしで三途の川が見えた気分だった。危うく遺言書を書きかける所だった」

「それは辛かったでしょ! なんてかわいそうなの……」

「話相手あんまいなくて寂しかったし、やっと寝れたと思ったらゾンビに襲われる夢だったし……」

「や、やっぱり私が昨日お見舞いに行って甘やか……じゃなかった。話かけてあげたらこんなことには!」

「ん? お前、見舞いに来る予定だったの?」


 綾乃は頷く。


「私、昨日ずっとずっと心配だったの! でもね、春ちゃんが移るから行っちゃだめって言うから……」

「そうだったのか……心配してくれてサンキューな。だったら俺はそのお返しにじっくりと看病してやるよ」

「キュンキュンする!」

「え?」

「い、いや何でも無い!」


 綾乃の否定と同時にお袋さんが部屋に入ってきた。昼飯の乗ったお盆を持っている。時計を見ると、すでに十二時を回っていた。もうこんな時間か。


「冬士郎くん、綾乃の調子はどう?」

「熱も下がったみたいだし、むしろ健康体ですよ」

「あらあら、これも冬士郎くんの看病のおかげかしらね~」

「お、お母さん!」

「はい、おかゆ作ったからゆっくりと食べてね~無理しちゃだめよ~。冬士郎くん、綾乃をお願いね~」

「はい、任せてください」

「あと涼太に春ちゃん~。もうお昼よ~。仲良く寝るのもいいけどもう起きなきゃ~」


 お盆をベッドのそばの机に置くと、お袋さんは部屋を出て行った。


「俺も腹減ったな。家で昼飯食べてえし一旦帰るわ」

「え……帰るの……? そ、そうだ! いたたたた!」


 突然、綾乃が頭を抱え出した。


「な、何だ! どうした綾乃!」

「突然の頭痛が……頭痛が痛い! これじゃ、お昼ご飯が食べられない! お腹空いたのに!」

「じゃあどうすれば……」

「あ、あーんして欲しいかな……」

「……え」


 あーんてあのあーん? 恋人同士でよくやると言われているあの行為? 恥ずかしすぎる! 無理無理無理!


「ひ、一人じゃどうにか出来ねえの?」

「むりー! 体がうまく動かないし!」

「う……」


 こ、このままじゃ綾乃が餓死してしまう! やるしかないのか……!

 スプーンでおかゆをすくっておそるおそる綾乃の口に近づけた。綾乃はやたらと嬉しそうに大きく口を開けてスプーンを口に含む。


「おいしい……」

「そ、そうか……さすがはお袋さんのおかゆだな……」

「キュンキュンする!」

「え」

「な、何でもない! も、もっと食べてみたい!」

「か、勘弁してくれよ! めっちゃはずいんだぞこれ!」

「だ、だめ?」


 物欲しそうな顔で見つめてくる。綾乃の奴、こんな顔すんの?


「し、仕方ないな」


 何故か断ることが出来なかった。そのままスプーンを綾乃の口へと運ぶ。

 結局、おかゆを全部食べ終わるまではいあーんは続いた。俺の苦労のかいあって、頭痛は治ったようだ。


「た、食べ終わったな……さすがに俺も腹減ったからいっぺん家に帰るわ」

「あ、私のお見舞いはもう大丈夫よ! いろんな意味でお腹いっぱいだし!」

「そうか? でも無理すんなよ。この間の熱中症で鼻血出しちまっただろ?」

「う、大丈夫大丈夫! それじゃまたね冬士郎!」

「おう、じゃあな」


 そのまま、家に帰って昼飯を食いながら思う。普段は大人っぽく振る舞っている綾乃だけど、風邪を引いた時はあんな弱みを見せるようになるんだな。

 いつもとは印象の違う綾乃を見れて何か得した気分だ。さーて、クーラーガンガンに効かしてゲームするか!


***


「聞いて涼太! 冬士郎がいなくなった今でもキュンキュンが止まらないのー!」

 

 昼飯食って部屋でゲームしてたらすっかり元気になった姉ちゃんが入ってきた。病み上がり早々うるせえなこいつ。


「出てってくんない?」

「やっぱり恋する乙女としてはお見舞いイベントは済ませておくべきだわ! キュンキュンした!」

「乙女は好きな奴の目の前で鼻血吹いたり、脱ぎ立てパンツで風邪治ったりしねえんだよ」

「改めて決めた! 私、冬士郎の誕生日に告白する!」

「……あのさ姉ちゃん。聞いていい?」

「なーに?」

「それほざくの今年で何回目?」


 初めては確か、姉ちゃんが小五の時だった。その年からこのアホは毎年誕生日告白宣言を宣っている。


「今年こそは告白するの! そして二学期からは冬士郎の恋人として順風満帆なスクールライフを送っていくの!」

「それ去年も一昨年もその前も聞いた」

「今から緊張してきちゃった! 部屋で告白の練習しなきゃ!」


 キャーキャー騒いだと思ったら、自分の部屋に帰っていった。毎年変わんねえな。これは今年も無理だな。

 万が一、恋のライバル的な存在がいたら、姉ちゃんも危機感を感じるんだろけど、トシ兄好きになる奴なんかそう都合良くいねえか。










 

 

果たして今年は大丈夫なのか。恋のライバル的存在一人いますけど、そっちはそっちでどうなのか?

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