今までにない治療法
「でさ、どうすんの? どうやってそのトシニウムってのを摂取させんの?」
「一番手っ取り早いのはトシ兄本人を連れてくる事だけどな……まだ風邪治ってねえの?」
「どうなんだろ? 少なくとも私達が家出る時はまだ寝てたよ」
「どちらにせよ、無理矢理叩き起こす訳にもいかねえよな。こいつはどうだ?」
こんな時のために用意しておいたトシ兄の写真を取り出し、寝ている姉ちゃんの顔に押し付けてみた。
「ううん……えへへ……」
「にやけながらうなされてやがる。これじゃダメだな。もっとトシ兄成分強い物じゃねえと……」
「例えば?」
「何か匂いの強めの奴……脱ぎ立てパンツでも嗅げば治るんじゃね?」
「それで復活したとして、乙女としては即死なんだけど」
「やってみる価値はあるだろうが。
つーわけで春花、取ってこい」
「何を?」
「トシ兄の脱ぎ立てパンツ」
露骨に嫌そうな顔をしてきた。そりゃそうか。しかし、手っ取り早く終わらせるにはそれが一番だ。仕方ねえ事なんだよ。
「何でそんな汚いの私に持ってこさせんの?」
「今トシ兄寝てんだろ? こっそり部屋入って脱がせばいいんだよ」
「ホントに何言ってんの?」
「万が一起こしちまったとしても『お兄ちゃん、パンツちょーだい♪』ってお願いすればいいんじゃね? ワンチャンくれるかもよ」
「死んでも言いたくないし、それで渡す方も渡す方なんだけど」
うーん、我が儘な奴だな。
「とにかく絶対やだ! 兄妹でそんなことするなんてえげつない絵面になるじゃん! 涼太が行けば!?」
「もっとえげつない絵面になるだろうが! お前が行けよ!」
「やーだー!」
一向に春花は折れない。これ以外に方法はねえものか。
「うう……落ち着いて二人とも。ケンカしないで……」
さっきまでうなされていた姉ちゃんがしんどそうに体を起こした。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「大丈夫よ春ちゃん。何の話してたの?」
「綾姉ちゃんにお兄ちゃんのパンツ嗅がせたらうんぬんかんぬん」
「と、冬士郎のパンツ!? そ、それは危険なアイテムね……うふふ」
「おい、こいつこのまま永遠に眠らせようぜ」
「涼太やめてって。話が進まない。とにかく、綾姉ちゃんは今は寝てようね」
春花が優しく寝させようとしたが、姉ちゃんは首を振った。
「いいの。私、今日行かなきゃいけない所あるから」
「あ……お兄ちゃんのお見舞い?」
「うん! 昨日我慢した分、今日はじっくりと世話してあげるの!」
「ダメだって! こんな熱で、しかもさっきからフラフラだし!」
「でもよ春花。トシ兄の顔直接見ればトシニウム摂れて元気になるだろ?」
「こんな状態じゃ、向こうに行くなんて無理だって!」
「だ、大丈夫……向こうにさえ行ってしまえば……げほっ、げほっ」
姉ちゃんが激しく咳き込むと、布団に血が付着した。血を見た春花の顔がみるみる青ざめていく。
「わわわ! どうしよう涼太! 綾姉ちゃんホントにダメかもしんない! どうしよう!」
「あーもう、泣くなって! 落ち着け!」
「ていうか、この病気はお兄ちゃんと会っていないのと関係あんの!? いくらなんでもこの症状はおかしいって!」
「姉ちゃんは普通の体してねえんだよ! だから最初から脱ぎ立てパンツ持ってくりゃ良かったんだよ!」
「げほっ、げほっ!」
「ああ、ごめんね綾姉ちゃん……私がわがまま言ってお兄ちゃんのパンツ持ってこればこんな事には……」
「だ、大丈夫……私はこんなことで……うっ」
「綾姉ちゃん?」
姉ちゃんはゆっくりと目を閉じる。春花が声をかけても反応を示さない。
そして、そのまま、目を覚ます事は永遠に無かった……。
「綾乃ー! 無事かー!」
「キャー! 冬士郎!」
突然、ドアを蹴り開けてトシ兄が入り込んでくるのと同時に、姉ちゃんが飛び起きる。
「あり? トシ兄風邪はどうしたよ」
「さっき起きて熱計ったら下がってた! 十分な睡眠が効いたんだな!
そんなことより聞いたぞ綾乃! お前風邪引いたんだって!? 大丈夫か!」
「え、えっと……」
「珍しいよな。お前風邪引くの今日で初めてじゃないか?」
「お、覚えててくれてた」
「覚えてる覚えてる。でこ出してみろよ。熱計るから」
そう言ってトシ兄は姉ちゃんの額に手を当てる。さっきまで死にかけていた姉ちゃんの顔色がみるみる回復していくのが目に見えた。マジでどんな体してんだこいつ。
「うーん、熱は下がってるみたいだけど無理は良くないな。今日一日は休んでおいた方がいいな」
「うん……」
「安心しろ! さっきお袋さんにお前を看病してくれって頼まれたんだ。今日一日、俺が何でも世話してやるぜ!」
「な、な、何でも!?」
姉ちゃんの顔を覗いてみる。これはこれは、完全にキュンキュンしてらっしゃる。
「あー、お兄ちゃん。一人で任せていい?」
「ん、任せろ。ここから先は俺が面倒見るから!」
「じゃあお願い。行こ、涼太」
「ん」
そのまま流れるように二人でおれの部屋へと向かうと、春花が大きくため息をついた。
「……心配して損した。何か疲れた」
「言ったろ? 姉ちゃんは普通じゃねえって」
「そうだった……疲れた。ここで寝る」
そう言って、俺のベッドに寝転がった。
「俺も無駄に早起きして寝みぃし寝る。おら、もっと奥の方に詰めろって」
「……え、あ、うん」
姉ちゃんはトシ兄に任せて寝よ寝よ。
つーか姉ちゃん、トシ兄いなかったらどうやっていくんだろう。あ、寝みぃ、寝よ。
「涼太、最後にひとつ聞いていい?」
「何だよ」
「お兄ちゃんに距離置かれてた一年間、綾姉ちゃんどうやって生きてきたの?」
「そりゃお前、俺が時々そっち行ってパンツ取ってきてだな」
「あ、綾姉ちゃんのアホー!」
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