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夏風邪は馬鹿が引く

 今日は夏休み初日。今日やることはもう既に決めている。

 テスト中に溜まった鬱憤を晴らすため、一日中部屋に引き込もってゲームしてやる! 色々溜まってるんだよなあ。

 さらに! 冷房をガンガン効かしてぐうたらしてやる! 贅沢三昧だ! フッフー!


「ちょっと冬士郎」


 お袋がノックもなしに部屋に入ってくる。


「何だよ。俺は今日ぐうたらするって決めたんだよ。邪魔しないでくれよ」

「別に夏休み初日からぐうたらするのはいいけど、あまり冷房強くしちゃダメよ。それと夜寝る時、付けっぱなしで腹出して寝るのはやめときなさいよ。風邪引くから」

「わかってるわかってる」

「春花も冷房の強すぎには気を付けなさいよー!」

「はーい、ママ」


 やれやれ、いつまでもガキじゃないんだからいちいち注意しなくてもいいのに。

 大体、夏なんかに風邪なんて引くわけないだろ。夏風邪は馬鹿が引くっていうけど、俺は馬鹿じゃないから大丈夫だな!

 今日は夜通しで眠気のピーク来るまでゲームしてやるぜ! フッフー!


***


「はあ? トシ兄が風邪?」


 朝、やたら早い時間に春花に起こされて、トシ兄の事について知らされた。


「うん、なんか昨日、夜通しでゲームしてる途中でクーラー消さずに寝落ちしちゃったんだって」

「はっはー、夏風邪は馬鹿が引くって本当だったんだな」

「あれだけママに言われてたのに……情けない……」


 夏休みの最初が風邪で潰れるなんて、幸先わりぃな。

 まあ、何日が寝てれば治るだろ。しばらく向こう行くのはよすか。


「話は聞かせてもらったわ!」

「うっわ、姉ちゃん……」


 ぜってー来ると思ったよこの女。盗み聞きしてやがったな。


「冬士郎が風邪を引いちゃうなんて……うかうかしていられない! 幼馴染として、お見舞いに行ってあげなくちゃ! そして甘やかしてあげるの!」

「好きな奴が風邪引いてんのにテンションたけーなおい」

「とにかく行ってくる!」

「待った。綾姉ちゃんストップ。おすわり!」


 春花の制止と共に、姉ちゃんがへたりとその場に座り込んだ。犬かてめえは。


「春ちゃんなーに?」

「お見舞いに行く事自体は全然構わないんだけど、今日はやめといた方がいいよ」

「な、何で!?」

「なんかね、お兄ちゃんやたらしんどそうにしてたよ。起きて誰かと話しているだけで死にそうなんだって。綾姉ちゃんに移しちゃったったらあれだし」

「大丈夫! 冬士郎の寝顔を見てるだけでも満足だし! それに私、風邪なんて引いたことないもん!」

「馬鹿は風邪引かねえっていうからな……ぐあああああ! 噛むな噛むな!」

「ダメだって綾姉ちゃん。今日はホントにきつそうにしてるし、万が一移った時の事も考えないと。その代わり、明日に行ってあげて?」


 姉ちゃんはガキみたいに頬を膨らませるが、渋々納得したようで頷いた。


「わ、わかった! 超行きたいけど、今日は我慢する! 冬士郎に迷惑かけたくないし!」

「よしよし、わかってくれてよかったよかった」


 春花に頭を撫でられた忠犬は幸せそうな顔をして大人しくなる。

 全く朝っぱらからうるせえこった。明日もハイテンションでお見舞いの準備するのが目に見えてるな。めんどくせえなおい。


 しかし、その日の姉ちゃんはいつもと比べて様子がおかしかった。いや、様子がおかしいのはいつもの事だけど、トシ兄のお見舞いに今すぐ行けないのが我慢ならないようで、床に転がってじたばたしたり、時折トシ兄の名前を呟いたりしてる。禁断症状かな?


 えーと、昨日のトシ兄は一日中引き込もってて、その次の日の今日は風邪で会えていない。計二日姉ちゃんはトシ兄の顔を見れてねえのか。

 ま、明日までの辛抱だ。今の姉ちゃんも見てる分には笑えるし、ゲラゲラ笑ってやるか。

 ……また噛まれた。


***


「おい春花! カモン! 大変だ大変だ!」


 珍しく朝早く起きると、とある問題が起きていた。急いでこの状況を春花に知らせるため、久我家に入り込み、春花の部屋へと向かう。


 そのままの勢いで春花の部屋のドアを蹴り開ける。


「うわ、ちょっと涼太、ノックくらいしてよ」


 パジャマから着替えていたみたいだ。相変わらずガキの頃から変わらねえ体付きで。

 んなことはどうでもいい。そのまま春花の手を掴む


「大変だっての! 早く来い! 姉ちゃんが……姉ちゃんが……」

「ちょい待ち! 先に着替えさせて!」

「姉ちゃんがぶっ倒れた!」

「ええ?」

 

 着替えを済ませた春花を姉ちゃんの部屋へと連れていく。そこには、布団を被って辛そうにうなされている姉ちゃんの姿があった。

 母さんが丁寧に看病しているが、一向によくならないみたいだ。


「あらあら、春ちゃんいらっしゃい~。ごめんね、今日の綾乃、珍しく風邪引いちゃったみたいで」

「珍しくっていうか、私の知る限りじゃ初めてじゃないかな? 大丈夫なの?」


 春花が姉ちゃんの額に手を当てると、すぐに離した。


「あっつ! すごい熱じゃん! マジでなんなの!?」

「そうなの~。このまま熱が引かないようなら、病院にも行かなくちゃいけないわね~」

「あ、だから一階でおじちゃんがテンパってたんだ。『綾乃はどうなってしまうんだ!』って」

「あらあら、あの人ったら相変わらず変わらないわね~。少し落ち着かせてくるわ。二人とも、綾乃の事頼める?」

「いいよ。ここは任せて」

 

 母さんが部屋を後にし、残ったのは俺と春花と死にかけの姉ちゃんだ。


「とはいえ、私達で何が出来るかな? よく考えたら、看病の知識なんてないし……原因もわからないし」

「いや、姉ちゃんが、こんなんなってる原因は分かってる。トシニウム不足だ」

「トシニウムって何?」

「ほら、姉ちゃんこの二日間トシ兄と顔すら合わせてなかったろ? そのせいで、トシニウムの摂取量が足りなくなってこんなんなったんだ。それしか方法は考えられねえ」

「なるほど、うん、トシニウムって何?」

「トシニウムはトシニウムだっての。姉ちゃんにとって重要な栄養素でトシ兄と会う以外補給できねえ奴」

「そんなお馴染みの奴みたいな言い方されても」

「無責任な奴だな。昨日、お前がお見舞いに行きたがってた姉ちゃんを無理矢理引き止めたからこうなっちまったんだぞ!」

「えー、私のせい?」

「このまま症状が悪化したらトシ兄の事しか考えられない頭になっちまう。どうにかしねえと」

「それ普段とあんま変わんなくない?」

「とにかくだ。このままじゃ姉ちゃんがやべえ。何でもいいからトシニウムを摂取させるんだ!」


 こうして、俺ら二人の奮闘が始まる。




 皆さんも、体調には気を付けて。


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