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超かっけえあの人

 その日は中学二年の夏休み真っ盛りの八月。家にいるのも退屈だったので、なんとなく外をブラブラしていた。コンビニで買ったゴリゴリ君を食べ歩きながら呟く。


「人生、暇だなあ……」


 ただただ退屈だった。

 このまま、平凡に生きて平凡な死に方すんのかな。つーか、結婚できんのかな俺。するとしたら誰になるんだろ。


 綾乃の奴は何やっても完璧にこなすし、モテてるらしい。それに引き換え、俺は平凡で特徴のない男。家近いだけで比べられまくってめっちゃ差感じる。マジ平凡つらいわー苦痛だわー。


 あーあ、昔は超強い力を身につけて世界を救って皆からもてはやされる英雄になりたいと思ってのにな。

 自分の父親が実は超強い伝説の英雄だったり、そのうちめちゃくちゃかっけえ必殺技を身につけて熱い戦いを繰り広げたりするのを期待していたのにな。所詮は子供の幻想か。


 とにかく刺激が欲しい。漫画やラノベみてえな非日常起きねえかな。

 異世界でチート無双とかしてちやほやされてえな。


 そんなことをこの間、涼太に愚痴ってみると、


『刺激? 恋愛すりゃいんじゃねーの? 優良物件なら結構近くに転がってるかもしれねえよ? それも万年発情期の奴が』


 とかなんとか、訳の分からない事を言っていた。万年発情期がその辺転がってたら嫌だわ。


 恋愛かー。まだ考えてないな。俺が今求めているのは少年漫画みたいな熱いバトルだ。ま、こんな現代の日本でそんなことが出来るわけねえけど。


 ゴリゴリ君を食べ終わって棒をゴミ箱に投げ捨てる。考えたって仕方がない。帰るか……。


「ん?」


 足を止めた。ぼんやりしていたから気付かなかったけど、前方にこの日本では一際目立つ金髪の誰かが歩いていたのだ。後ろ姿じゃ男か女か分からない。


 超かっけえ。金髪なんて生で初めて見たわ。地毛か? それとも染めてんのか? どちらにせよ、他の奴とは違う! って感じのオーラだ。


 ん? 大通りを外れて狭い路地の方に入ってったぞ。こんな人気のない所に入って何処に向かうんだ?

 分かったぞ! きっと一般には知られていない秘密のアジトの入り口があるんだ! この人かっけえから絶対そうだ! 何のアジトかは知らねえけど超気になる! つけろつけろ!


 金髪の人にバレないように背中を追いかけていく。

 五分くらいすると、開けた場所に出た。どうやら空き地のようだ。

 空き地には既に誰かいた。それも二人。先程までストーキング……じゃねえや。尾行していた金髪の人にやたら図体のでかいハゲがいた。

 おっと、バレたら面倒な事になりそうだ。壁からこっそりと様子を窺うことにしよう。

 先に口を開いたのは金髪だった。


「やあ、待たせたね」

「待たせすぎだてめえ! 約束の時間より二時間遅れてんぞコラ! こちとら三十分前からずっと待機してたんだぞ!」

「それくらい誤差だろ誤差。ハゲ山くんは細かいなあ」

「ハゲ山じゃねえ影山だ!」

「え、でもこの間私に絡んできた君の舎弟くん達はハゲ山の奴って呼んでたけど」

「あ、あいつら俺のいねえ所で……! まあそれはいい! 今日は俺の舎弟をいじめてくれたお礼参りをさせてもらうぜ!」

「先に私にカツアゲしてきたのは向こう側なんだけどなー。ふわぁ……」


 金髪の人はやれやれと言いたげに欠伸をした。超かっけえ……! 絶対つええだろこの人。


 それにしても向こう側のハゲは如何にも弱そうだ。何だろう、こう、初登場してから次に出るまで半年かかってそうな奴だ。


「おっと! やり合う前にお前の名前を教えてもらおうか!」

「私の? うーん、あまり本名は言いたくないな……学校にバレたら内申に響くし……」

「ええ……ちっさ……不良しといて内申気にしてんのかよ」

「そりゃ気にするさ。この金髪だって変装用のカツラなんだし」

「それは聞きたくなかった!」

「仕方がないな。私の名前を教えてやろう」


 そのまま目を見開き、告げる!


「私の名は『ゼロ・パープルウィステリア』だ!」


 俺の中で雷が落ちた。

 ゼロ・パープルウィステリア……?何だよその日本人とは思えない名前……! 超かっけえ……!

 わ、分かったぞ! この人はきっと異世界人なんだ! 転移してきたんだ転移! かっこよすぎだろマジで……!


「明らかな偽名じゃねえか! ふざけた事言うのも大概にしろよ! 小学生でももっとマシな名前考えるわ!」

「何!? 一晩かけて考えた名前なんだぞ! それを侮辱するのは許さない!」

「お、やる気か!? やってやるぜこの野郎!」

 

***


 勝負は一瞬だった。ハゲの方が地面に突っ伏して倒れていた。

 何が起こったのかは速すぎて見えなかった……! す、すげえ……! これが生で見る戦い……!

 

「ふっ、やれやれだ。さっさと帰ってデスサバイバルのブルーレイでも見よう」


 物陰に隠れていた俺には気付かず、ゼロは帰っていく。

 マジでかっこよかった。痺れる……! 


 お、俺もああいう風になれるかな? このまま何も成さずに生きていくよりも派手な事をして名を残してみたいな………!


 そうだな、まずは金髪にして、それからとにかく喧嘩売りまくって実力つけて……よし、俺はあの人みたいな不良になる!


 テンション上がってきた! 必殺技も考えるか! うーん、そうだ! ダークデスゴッドナックルってのはどうだ!?

 我ながら超かっけえ! ふっふー! 俺の天下が始まるぜ!


***


「そ、それからは……ぐは……馬鹿みたいに喧嘩しまくって……何か喧嘩の才能が開花して……いつの間にか恐れられる存在になって……周りに迷惑をかけまくって……」

「…………」

「ホント俺ってばゴミクズで……粗大ゴミで……」


 話してる最中、どれだけ吐血しただろう。死にたい。

 しかも話している相手はよりにもよっていじり魔・紫藤玲衣先輩である。このままじゃからかわれて傷口がポッカリと……!


「うん、素人くん。もういいよ話さなくて。はい、これあげる。缶バッジ」

「え、もういいんですか」

「うん、ごめん。傷口広げるような事聞いて」

「や、やった……! ありがとうございます!」

「いいよいいよ。ホントごめん。色々と。あ、そうだ。五万までならいつでも貸すから。他にも困ったことがあったら何でも相談に乗るから」


 紫藤先輩がやたら優しい。血を吐きまくっている俺に気を使ってくれている。な、何か裏があるんじゃないか……?


「か、風邪でも引いたんですか?」

「健康だよ健康。うん、ごめんマジで」

「なんか今日めっちゃ謝りますね。どうかしたんですか?」

「あ、いや、大丈夫大丈夫、気にしないでくれ。ほら、さっきのハゲ山くんはもうとっくに向こうに行ったぞ。早く帰った方がいいんじゃないか?」

「あ、はい」


 先輩に背中を押されて、急いで帰路に着く。

 缶バッジのためとはいえ、喋ってしまった。あの時の自分は思い出したくもない!


 あの金髪は今どこで何をやっているんだろうか。今日もどこかで喧嘩してんのかな。

 ああああああああ!! 枕枕! 今日も顔を埋めたい!


ゼロさんの金髪は冬士郎へ、冬士郎の金髪は笠井さんへと脈々と受け継がれていくのでした。


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