表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/63

ずっと四人で

久しぶりの冬士郎視点です。

「じゃあねー四人とも! ばいばーい!」


 用事を済ませ、帰り道が違う葉山とは別れる。俺達はいつもの四人で帰る形となった。


「そういえば、この四人で下校するって久しぶりな気がするな」

「確かに。中学の時以来だったような気がする。涼太なんてバスケ部だから尚更時間合わないし」

「予定あろうが無かろうが、無理して時間合わす事ねえだろ。いつまでもガキじゃねえんだしよ」

「何言ってるの涼太!」


 突然、綾乃が大きく声を張り上げた。


「んだよ姉ちゃん。急にでけえ声出しやがって」

「だって! せっかく四人揃っての下校なのに否定的な事言って……」

「だー悪かった! 悪かったよ! 四人でいられて俺は幸せだよ!」


 速攻で涼太が折れたかと思うと、綾乃は嬉しそうに頷く。


「私も今超幸せよ!」

「あ、そうだ。私、涼太にいちごシュークリームおごってもらえるんだった。ケーキ屋に寄り道していい?」

「え、今日? マジかよ足りるか?」


 涼太が明らかに嫌そうな顔をする。


「私はもちろんいい! 冬士郎は?」

「俺も全然待ってて構わないけど」

「よし! それにしても、何で涼太がおごる事になったの? 何かあったの?」

「何言ってんだ姉ちゃん。日頃の感謝を込めてサービスするのは人として当然の努めだろ」

「さては涼太! 奏美の胸をガン見していた事についての口封じね!」

「み、見てねえし! そうだろトシ兄! 見てねえって言ってくれよ!」

「観念しろよ涼太。俺がそれを言った所で綾乃をそう簡単に誤魔化せるわけないだろ」

「いや姉ちゃんはトシ兄の言うことを疑わねえよ。だって姉ちゃんにとってトシ兄の言うことは全て正し」

「ダ、ダメよ涼太! それ以上は言っちゃダメー!」


***


「それじゃ、私達はいちごシュークリーム買ってくるから。二人はここで待ってて」


 春花が涼太を連れてケーキ屋の中に入っていくのを見届け、綾乃へと振り向いた。


「なあ綾乃。テストどうだったよ。俺、数学分からないとこ結構あったんだよな」

「私は今回も大丈夫。満点よ」

「すげえな。俺とお前って何でこんなに差があるのかね」

「そ、そんなに悲観しないで! 冬士郎も順調に伸びてきているし! 受験までまだまだ時間あるし!」


 受験、か。そんなこと全然視野に入れてなかったな。志望校なんて全然決めてないし。

 まあ、今さらテストの事を嘆いたところでだな。明後日からは夏休みだ。


「……この一学期は色々あったな」

「え?」

「ほら、一年程疎遠だったお前と和解して元通りの関係になれたり、笠井と出会ったり、しかもお前や笠井俺のとこのバイト先に来たり……」

「確かに。本当に色々あったわね」

「そんで最後はお前が告られるなんてな。そういや、何でお前彼氏作らねえの? お前なら選び放題だろ」

「そ、そ、そ、そ、それは……」


 綾乃があわあわと手を降って答える。


「べ、勉強に集中したいからよ!」

「へー、やっぱそういう心構えを持ってるから成績良いんだな」

「……今の嘘」

「え?」


 さっきまであわあわしていた綾乃が自分の頬を叩き、真剣な表情になる。


「ねえ冬士郎。小学二年生の頃、私が全然家の外に出なかった時期覚えてる?」

「何だよ急に」

「いいからいいから。覚えてる?」

「そりゃ覚えてるけど」

「良かった! 覚えててくれて!」


 綾乃が心の底から嬉しそうな顔を向けてきた。


「あの時の私、学校の体育の授業で他の皆の足を引っ張っちゃてさ。『綾乃ちゃんと一緒のチームになったら負けちゃうから組みたくない』って言われちゃったの」

「覚えてる。それからお前、俺が外で遊ぼうぜって言ってもなかなか出てこなかったよな」

「うん。一緒に遊んで迷惑かけて冬士郎や春ちゃんにまで嫌われたくなかったし」


 あの時の綾乃は人と関わるのを避けていた。学校でも暗い顔をしていたのをよく覚えている。


「ある日、冬士郎が家に上がり込んで私に何を言ってくれたか覚えてる?」

「……そこまでは覚えてねえな」

「もう! 冬士郎ったら!」


 綾乃が頬を膨らませながらも続きを話す。


「その時ね。『お前含めた四人で遊ばないとまったく楽しくないから早く行こう』って言ってくれたの。私、今でも覚えてる」


 うっすらと言った記憶はある。それを言った瞬間、嫌がっていた綾乃の顔がみるみる変わっていった気がしたな。


「そのことが彼氏を作らない理由と何の関係があるんだ?」

「うん、私ね。冬士郎に春ちゃん、それに涼太と一緒に過ごしている時間が一番幸せな時間なの。冬士郎が遊ぼうって言ってくれたあの時からずっっっっっと!」

「だから彼氏を作って俺達との時間を削りたくないってことか?」

「……うん。そういう事。なんて、ちょっと子供っぽいかな」


 四人でいる間が一番幸せ……か。

 そう思った矢先、春花と涼太がケーキ屋から出てきた。


「いちごシュークリーム♪ いちごシュークリーム♪」

「金ねえ。小遣い日までどうしよ……だいたいお前買いすぎだろ。この量一人で食うのかよ」

「そんなの四人で分けて食べるに決まってんじゃん」


 大事そうに袋を持っている春花の隣で涼太が顔を青くしていた。

 これも昔からよく見てきた光景だった。


「綾乃。俺もさ、さっきまで四人で帰りながら笑って話したりしながら思ったんだよ」

「ん? 何を思ったの?」

「何、大した事じゃないんだけどな」


「この四人で一生離れずに過ごしていけたらいいなあって改めて思っただけだよ」


 …………。

 ???


 綾乃が目を丸くし、何も言わずにこちらを見ている。そして、そのまま。


 ―――ブシュウウッ!


 鼻血を吹き出してぶっ倒れた!


「ああああああああ! 急に何言ってんのボケ念仁! 綾姉ちゃんが倒れちゃったじゃん!」

「え……俺、何か悪いこと言った?」

「おい鼻血止まらねえんだけど! 早く家に運ぼうぜ家に! 一緒に担げボケ念仁!」

「お前らさっきからボケ念仁ボケ念仁って何なんだよ!」


***


 ああ。私の鼻から血が流れているのが分かる。止めることなんて出来ない。


 冬士郎が……冬士郎が一生ずっとにいたいって言ってくれた! 『死ぬまではもちろん、墓の中でも一緒だぜ☆』って言ってくれた! 言ったっけ? うん、言った言った!


 決めた! 私、冬士郎に告白する! 決行日は8月31日……その日は……その日は特別な日!


 すなわち、冬士郎の誕生日! もう今のままの関係じゃいられない! 大きな一歩を踏み出すのよ綾乃! 待ってて冬士郎!

綾乃さんに会心の一撃が決まりました。


面白いと思ったらブクマや感想を頂けると嬉しいです。大きな励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 名前冬なのに夏が誕生日なんですね意外
[一言] 頑張れ綾乃ちゃん!! 血圧大丈夫かな?
[気になる点] ハッピーエンドになりますか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ