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あきらめないもん

 私と涼太は赤ちゃんの頃からずっと一緒だ。私達の両親は学生の頃から母親同士の仲がとても良かったらしく、結婚してもなお、家を近くにするように示し合わせていたらしい。

父親同士は昔から仲が悪いけど。


 近くにいるのが当たり前になり、一緒に過ごしていくと、お互いの考えていることが分かってくるようになって、アイコンタクトだけである程度の会話が成立するレベルまでになっていった。理屈がどうこうじゃなくて、長い間、一緒にいた故に培った勘がそうさせているんだと思う。


 ただ、あまりにも一緒にいすぎたせいで、涼太の事は家族同然の存在となっていた。恋愛感情なんて全くなかったもん。


 中学生になっても、特にお互いの関係は変わらなかった。綾姉ちゃんの恋煩いを半ば呆れながら見守りつつ、いつも通りの日常を過ごしていた。

 私と涼太の間柄について、周りから、「カップルというより、倦怠期の夫婦」と言われたことがある。その時は鼻で笑って聞き流していた


 けど、私が中一の二学期を迎えた時、大きな変化が起きた。

 お兄ちゃんがグレてしまった。

 夏休みの間、頻繁にどこかへと出掛けていた間に何かがあったんだろう。とにかく、グレて金髪にし、喧嘩に明け暮れたらしい。


 お兄ちゃんの悪評が学校中に知れ渡るにつれ、その影響が私にも飛び火する。

 不良の妹の私を周りが避け始めた。お兄ちゃんの巻き起こすトラブルは冗談にならない程まで悪化していったせいだ。

 それを見かねた綾姉ちゃんは更正させるために本格的な行動を開始。それでも、すぐに元通りにはならない。皆が私を避ける日々は続いていく。


 そんな中、何も変わらずにいつも通りに接してくるのが涼太。

 涼太からすれば気を遣って起こした行動ではないんだろうけど、それが大きな支えになったのは事実。

 私は少しずつ、惹かれていった。


 やがて、お兄ちゃんは綾姉ちゃんを押し倒しやがったりしたものの、見事に更正。私に対する周りの対応は少しずつだったけど元に戻っていった。

 ほとぼりが冷めて、涼太への想いを自覚する。


 どうしよう。この想いを涼太に打ち明けるべきか。でも、もしフラれてしまったらどうしよう。そうなったら、以前の幼馴染の間柄には戻れなくなってしまうかもしれない。それだったら、綾姉ちゃんとお兄ちゃんみたいな関係性を続けていくのが一番いいかもしれない……。


 なんて事は一切思わなかったので、中学卒業と同時に告白する事にした。

 行動すれば、例え失敗しても何かを変えられる。綾姉ちゃんみたいにずっと抱え込むくらいなら、行動するに限る。


 早速、普段通りに涼太の部屋へと行って、実行に移る。


「私ね、涼太が好き。えっと、その、高校からは付き合わない?」


 涼太は目をしばらくぱちぱちさせた後、返事を返してくる。


「……わりぃ。お前の事、そういう目で見れない」


 ぐっと涙をこらえて、小さな声で聞き返す。


「……私の何が駄目なの?」

「……えっとな」

「正直に答えてよ」


 涼太は非常に言いづらそうに答える。


「……胸」


 その場で滅茶苦茶に泣いた。

 貧乳についてはちょいちょいいじられてはいたけど、いざフラれる理由にされると悔しくて悔しくて、とても耐えられなかった。


「バカ涼太! エロ! スケベ! 変態! おっぱい星人! 将来の夢AV男優! おっぱいで窒息して死んじゃえ!」


 そのまま、涙や鼻水をみっともなく出しながら、急いで部屋を出て階段を駆け下りる。


 ちょうど同じタイミングで、綾姉ちゃんが高校から帰ってきていた。


「春ちゃん!? 一体どうしたの!?」

「何でもないもん! ほっといてよ!」

「落ち着いて春ちゃん! ゆっくり深呼吸して! 何があったか話してくれる? 絶対に一人じゃ溜め込んじゃダメ!」


 綾姉ちゃんに優しく抱きしめられる。私の鼻水が服についても全く気にする様子はない。そのおかげか、少し落ち着いてきた。

 綾姉ちゃんは慈愛に満ちた顔で優しく頭を撫でてくれた。


「どーお? 落ち着いた? 何があったの?」

「……涼太にフラれちゃった。貧乳は無理だって」

「絶対に許さない。あの愚弟風情が春ちゃんみたいな完璧美少女をフるだなんて……! ただでさえ、最近冬士郎とお話しできていなくてストレス溜まっているのに……! 春ちゃんを悲しませた罪は重いわよ!」


 さっきまで慈愛に満ちていた顔がみるみる鬼の形相に変わっていく。


「一生消えることのない恐怖というものを思い知らせてあげるわ! 覚悟しなさい涼太!」


 ラスボスみたいな事を言いながら、涼太の部屋へと向かっていった。


 ああ、どうしよう。覚悟をしていなかった訳じゃないけど、やっぱりつらいなあ。これからどうやって涼太と接して行けばいいのかな。

 もう頭ぐちゃぐちゃで何も考えられない。つらい、つらい、つらい。


 こんなことなら、告白なんてしなければ良かったのかもしれない。


 そのまま、流れるようにリビングにて、涼太と綾姉ちゃんのママの膝元で泣き崩れる。千紗乃ママは優しく慰めてくれた。

 ああ、私も千紗乃ママみたいなでっかいおっぱいがあったらフラれずに済んだのかな。私の知る限りじゃ最胸さいきょうだし。


「ぎゃあああああああ! やめてくれ姉ちゃん! それ以上は本当にやめてくれ!」


 上で何が起こってるんだろ。殺されてなきゃいいけど。


***


 三十分後、綾姉ちゃんが涼太を連れてきた。なんでか申し訳なさそうだった。

 涼太は死んだ目でぼんやりと遠くを眺めている。相当酷い目にあったんだろうな。


「ごめん、春ちゃん。私やり過ぎちゃった」


 手を合わせて申し訳なさそうに頭を下げる綾姉ちゃん。

 

「大丈夫。もう泣きやんだもん。これからの事についてしっかり話し合うよ。おーい、涼太」

「……」

「涼太?」

「ん、あー春花? 来てたのか」


 来てたのか? 来たも何も、一時間くらい前から来てて、一回も帰ってないけど。


「その、ごめんね。急に言われて涼太もびっくりしたよね。私も酷いこと言っちゃったし」

「……?」


 涼太は不思議そうな顔をしたまま聞いてきた。


「何の話だよ?」

「え?」

「ごめん、春ちゃん! 私が徹底的に恐怖や絶望を与えてしまったせいなの!」

「ど、どういう事?」

「涼太、ここ数時間の記憶が失くなっちゃった!」

「……はあ?」


 いやいや、何をどうやったら、三十分足らずで人の記憶を消し飛ばせるの? マジであの部屋でどんな惨劇が起こったの?


「は? マジかよ? 確かに何かポッカリ空いてるような……」


 涼太は違和感を感じているようだ。うん、嘘をついてるわけじゃないみたい。


 その失くなっちゃった記憶って、私の告白も含まれてるの? あれだけ思いきったのに無かったことにされちゃったの?

 そ、そんなのやだ! それだったら、もう一度告白して……。


 告白したって、またフラれるだけじゃん。


 もう一回、あんな悲しい思いをしなきゃいけないの? そんなの……耐えられない。


 何これ。告白してもフラれるし、だからって、このまま何もしなかったら、何も進展することなく、ずっと幼馴染のまんまじゃん。


 詰んでるじゃん、これ。


 ……………。


 あきらめるもんか。

 もう、方法はひとつしかない。

 こうなったら、逆に向こうに惚れさせてやる。高校生の間に綾姉ちゃんみたいなナイスバディに成長してやるもん。

 今の子供っぽい性格も変えなきゃ。もっと大人っぽく冷静にならなきゃ!


 そして、今度は向こうから告らせてやる。私は絶対にあきらめないもん。


「全然状況が読めねえんだけど」

「覚悟しといて涼太」

「何が?」

「色々!」


 こうして、私の闘いは始まった。

 絶対に惚れさせてやる!


***


「グスッ、おかえり春花。また柊家むこうに行ってたのか?」

「うん。お兄ちゃん、最近行ってないみたいだけど、どうしたの? 綾姉ちゃんが心配してたよ」

「い、色々あるんだよ。グスッ」

「ていうか何で泣いてんの?」

「ん、ああ。デスサバイバル8のラストシーンに心打たれてな……気になるか? 気になるよな!」

「全然」

「そうか気になるか! 主人公の太郎がラストシーンで花子に告白するんだけどな、フラれてしまうんだよ。けどな、神様が降臨して花子の記憶を消してくれたんだよ! 神様の便利っぷりがマジで泣けてさあ。俺も嫌な記憶を消せる力が欲し」

「死ね押し倒し粗大ゴミ!」

「ああああああああああああああ!!!」


 このタイミングで記憶消したいとか言うな! ホンット最悪! 牛乳飲も牛乳!





 綾乃の手にかかれば、弟の記憶を飛ばすくらい訳ありません。何でも出来る天才ですから。



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