川口中のクーガー
中学の時の俺は一言で言うとグレていた。元からこうだった訳ではなく、元々は普通の生徒だったはずなのにだ。
中学二年生の時に俺は夏休みデビューというものを覚え、金髪に染め、ピアスを決め込んで登校。当然、教師達の指導が入ったが反抗して無視を決め込む。それから素行は悪化していき、学校はサボりがちになり、因縁つけてきた他校の生徒との喧嘩に明け暮れる日々が続いていた。学校内で俺は悪い意味で有名人になっていった。
当時は本当に何がしたかったのか、自分でもよくわからない。ただイキりたかっただけなんだと思う。
しかし、そんなある日、俺は中学三年で過ちに気付き、更正することが出来た。周りの人間に迷惑をかけていたことを自覚したのだ。
そんな話を聞き終えた右京はと言うと、
「ギャハハハハ!!! お前よくこんなダッセエ髪で外歩けたな! 格好いいと思ってたのかよ! だから同中の柊を見たら当時の記憶が蘇っちまうんだな!」
やっぱこいつに話をしたのは間違いだったのかもしれない。
「とーしろー君ねー、異名持ってたんだよ異名!」
「何!? どんなの!?」
「“川口中のクーガー”!」
「クーガーって何だよ! 訳わかんねえ!」
確かネコ科の肉食動物のピューマの別名だったような気がする。誰だこんな異名付けたの。
「じゃあこれからお前の事クーガーって呼ぶわ! よろしく頼むぜクーガー」
「やめろ馬鹿野郎、ぶっ殺すぞ」
「おおこわこわ、たまに口悪くなるのって元ヤンだった名残だったんだなー」
「私もさっき怒鳴られた!超傷ついた!」
「嘘つけ葉山、まるで意に介して無かったじゃねえか」
チャイムが鳴り、先生がやってくる。次は現代文か。まあ寝ることは無いだろう。
「また後で話そうぜクーガー」
「いい加減に黙ってろ右京」
***
結局、俺の今日の休み時間は右京と葉山が俺の中学の頃の黒歴史について花を咲かせて終わった。
全くもって腹立つ二人だ。そんなに俺の金髪は似合ってなかったのか。
しかし、あの二人は一つ勘違いをしている。あの二人は俺が柊を見て悶絶する理由が中学の時のイキリっぷりを思い出すからだと思っているのだ。
実の所、俺が今一番苦しんでいる黒歴史は中学の時不良だった事自体ではないのだ。勿論、あの時の行いに悔いはないと言ったら嘘にはなるし、暴露されたら普通に恥ずかしいが、そんなことは俺の本当の黒歴史に比べれば些細な事だ。それに気付かれなくてよかった。
そんな事を考えながら歩いていた帰り道、後ろから俺をつけている気配を感じて振り返る。
「「あ」」
十メートルくらい後ろに柊がいた。しまった、昨日あれほど警戒しなければと思っていた所なのに!
「ぐ、偶然! せっかくだからまた一緒に帰らない?」
「……」
すぐに目線を逸らして頷く。
「嫌だ近付くな」とは言えなかった。俺の勝手な都合でこいつにそんな事を言ったら俺は救いようのない屑に成り果ててしまう。
それだけは嫌だった。
「春ちゃんが言ってたけど昨日、白目剥いて寝てたって? 何があったの?」
「……何もねえよ」
「いや、白目剥くなんて普通じゃないし」
「そんな時だってあるだろ」
「あるかなあ……」
前だけ向いて話し続ける。話すだけなら何の問題もない。問題は顔を見てしまうことだ。
「ね、ねえ冬士郎? 聞きたいことがあるんだけど……」
「何だよ」
「何でこっち見て話してくれないの?」
聞かれた。この場合どう答えるべきだ? 向こうは俺の本当の黒歴史をよく知っている。なんせ当事者だからだ。
その時の事を思い出すからだと言ったら柊はどう思う?
「べ、別に何もねえよ」
「嘘、何か私に隠しているから目を合わせてくれないんでしょ。原因は何?」
お前だお前。そんなことは口が裂けても言えないが。
「イヤ、ホント大したことじゃねえんだ。柊が気にすることじゃねえ」
「ちゃんとこっち見て話して」
「……」
拒否は出来なかった。こいつには大きな借りがあったから。
綺麗な黒髪、整った顔立ち、そして真っ直ぐとこちらを見る目。つくづく昔から変わらないなと思う。
これ以上、何でもないで通すのは難しいだろう。
「言えない」
「……何かはあるってこと?」
「ああ、でもお前には言いたくない」
家が見えてきたので、柊から逃げるようにして家に入り込み、速攻で自分の部屋に向かってベッドに座り込んだ。
「何で俺はあいつにあんなことをしてしまったんだ? あんなことがあったのに何で普通に接してくるんだよ……」
頭をかきむしりながら、先程見た柊の顔が鮮明に浮かび、本当に思い出したくない中学三年の出来事を思い出した。
***
中学二年において、俺がグレて、学校をサボりがちになり、喧嘩に明け暮れたのは先程話した通りである。当時の先生達がそんな俺を更正させようと奮闘したが、あろうことか、俺はそんな先生達を拒絶し、好き勝手に過ごしてきた。
やがて、荒れ続ける俺に先生達は何も言わなくなった。諦められたのだろう。当時は鬱陶しい存在がいなくなったと歓喜し、これで好き勝手に出来るとしか思っていなかった。
そんな道を踏み外しまくっていた俺を更正させようとしたのが柊綾乃だった。当時から優等生であり、授業をサボりまくっているせいで成績が落ちている俺を見ていてもたってもいられなくなったのか、俺の家で勉強を教えると言い出したのだ。
当然、俺はそんな柊を無視しようとしたが、妹の春花や柊の弟の涼太の介入により思うように動けず、無理矢理勉強を教えられていた。
柊が俺に勉強を教え始め、二ヶ月が経った頃、中学三年の六月の事だった。他校の生徒と決闘の予定があったので、出掛けようとしていた時の事である。
外出の準備を整えている時、柊が部屋にやって来た。
「冬士郎、何処行くの? 勉強しないと」
「うっせえよ、喧嘩しに行くんだよ喧嘩。邪魔すんなって」
「やめて、もうそんなことしないで。怪我してからじゃ遅いし」
俺は鬱陶しく感じていた。無理矢理したくもない勉強をさせられていた日々を思い出してフラストレーションが溜まっていたのだ。
「毎度毎度うぜえっつってんだよ。俺に構ってねえで一人で勉強してろよ優等生様が」
「優等生とかそんなの関係ない! 今の冬士郎はとても危なっかしくて放っとけないの! いつか大怪我しそうで心配で心配で……」
柊の言葉を無視して部屋を出ようとしたが、腕を掴まれた。
「お願いだから、勉強はいいから喧嘩だけはやめて! 昔の冬士郎に戻ってよ……」
ここで、俺の堪忍袋の緒が切れた。
「うるせえっつってんだよ!」
「きゃっ!?」
柊の細い腕を掴んでベッドに押し倒し、抵抗できないように押さえつける。
「これ以上邪魔すんなクソアマ。犯すぞ」
「え?」
「意味わかんねえなら分かりやすく言ってやるよ」
そして、怒鳴り付ける。
「このまま手始めに(自主規制)してそんで無理矢理(自主規制)させて次に(自主規制)した後、俺の(自主規制)をお前の(自主規制)に(自主規制)するっつってんだよ!」
馬鹿でかい声で放送禁止用語の連発。それも女の子を押し倒しながら目の前で。
これが柊の顔を見る度に鮮明に蘇る黒歴史である。死にたい、
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