奴が来た
勉強会は物凄くスラスラ進んでいた。基本、私達二人は授業をしっかりと聞いていて、お互いに分からない所があっても、すんなりと頭に入ってくる。
「真優ちゃん、そこの計算式間違ってるよ」
「あ、ホントだ。ありがとう春花ちゃん。あ、春花ちゃん、そこの問題はこの方法で解いた方が早いよ」
「気付かなかった! すごいよ真優ちゃん! このまま二人で百点取れるよ!」
こ、これが本物の勉強会……! 途中でスマホいじったり、エロ本読み始めたりするどっかの馬鹿とやるのとは全く違う! 物凄くためになっている!
中間テストの時は大変だった。テストの三日前くらいに涼太が助けを求めてきたから。普段から真面目にやっておけば、苦労せずに済むのに。
一方、綾姉ちゃんは授業内容を一回聞くだけで全て理解できるチート能力を持っている。同じ姉弟なのに、何でこんなに差が出るんだろ?
そんなこんなであっという間に時間が過ぎて、午後の三時になっていた。
「真優ちゃん、ちょっと休憩にしようよ」
「あれ? もうこんな時間なんだ。言われてみれば、疲れちゃった」
「待ってて、一階からとっておきのおやつ持ってくるから!」
「わあ! ありがとう!」
真優ちゃんを部屋に待たせて、一階に降りる。冷蔵庫の中には私の大好物であるお菓子がとってある。
その名も『いちごシュークリーム』! 近所のケーキ屋で最近売り始めた物だ。ふわっふわの生地の中にいちごのクリームがたっぷりとつまっていて、あまーいいちごの味が口いっぱいに広がってすごく美味しい。
是非とも真優ちゃんにも食べてもらおうと買い置きをしていた物だ。
自然と笑みが溢れてしまう。好きなお菓子を友達と食べるのが物凄く楽しみだった!
「お待たせ、いちごシュークリームー!」
思わず、高校生らしからぬ声を出して冷蔵庫を開けた!
無かった。確かに取っておいた筈のいちごシュークリームの姿がない。
代わりに、何か紙が置いてあった。こう書いてある。
『中身のいちごクリームがスゲーふわっとろでうまかった。思わず、中身を隅々まで舐め回してしまった程にスゲーうまかった。やっぱ、甘いものは最高だったわ。以上の点から、期待を込めて星5 BY GOD FATHER』
即座に丸めてゴミ箱に投げ捨てる。大した語彙力もない癖にレビュー風に書いてるのが余計に腹立つ。
ああ、もう。折角、真優ちゃんと食べようと思って取っておいたのに……。
無いものは仕方ない。あの糖尿はママに言い付けて始末してもらうとして、今は真優ちゃんに謝ろう。
―――ピンポーン
誰か来た。
玄関の扉を開ける。
「はーい?」
「春花、ヘルプ。勉強わかんね」
来客の姿を確認し、即座に扉を勢いよく閉めて、鍵をかける。
さあ、部屋に戻ろう。階段に足をかけたその時、鍵をかけていた筈の玄関が開かれた。
「待てやおい。閉め出すことねえだろ」
植木鉢の下に隠しておいた我が家の合鍵を人差し指で回しながら文句を垂れてくる。そりゃ、幼馴染なんだし、それぐらい知ってて当然なんだけど。
「何でよりによって今来んの? 普段ならともかく、今日は真優ちゃん来てるんだけど」
「笠井来てんのかよ。丁度いいわ。二人に勉強見てもらえば期末は乗り越えられる」
「綾姉ちゃんに教えてもらえばいいじゃん。今、家にいるんでしょ?」
「今しがた姉ちゃんから逃げてきた所なんだよ。受験の時みてえなスパルタ授業は受けたくねえからな」
あのスパルタが無ければ、今頃涼太は空高よりも学力の低い所に行っていただろう。それはちょっと寂しい……じゃなくて。
「逃げてきたって言ったって、こんな所じゃすぐに見つかるでしょ」
「その心配はねえ。姉ちゃんにトシ兄の写真を投げつけて来たからな。写真に気を取られて二時間ぐらいは時間を稼げる筈だぜ」
あ、綾姉ちゃん……それでいいの?
「何にせよ今日はダメ! 私だけならともかく、真優ちゃんの邪魔になっちゃうし!」
「まあ、落ち着けよ。これ見ろよ」
涼太はさっきから手に持っていた紙袋を見せつけてきた。こ、これは……!
「いちごシュークリームだあ! 何で!?」
「大方、おっちゃんが食い尽くしている頃かと思ってよ。買ってきてやった」
さっすが涼太! 私の事ちゃんと分かってる!
いや、落ち着こう。食べ物に釣られちゃダメだ。
「私がそんなので心を許すと……」
「いらねーなら持って帰る」
「あ、待って! とりあえず、真優ちゃんに事情を話して許可を貰ってからだから!」
「おう、分かった」
いちごシュークリームの誘惑には逆らえない。そのまま、涼太と階段を上がっていく途中であることに気が付く。
涼太の持ち物についてだ。教科書類、ノート、エロ本、いちごシュークリームの紙袋……待てや。
「涼太! 何こんなもん持っていこうとしてんの!?」
涼太からエロ本を取り上げる。表紙には、巨乳の女子高生がブラウスのボタンを開けて、谷間を強調させている写真が載せられていた。
「んだよ。別に春花の部屋にエロ本持ち込むのは珍しいことじゃねえだろ」
「違うって! 真優ちゃんいるんだよ真優ちゃん! こんなの見たら顔赤くして卒倒するって! ほら、早く戻してきて!」
「戻すっつったって家には姉ちゃんが……そうだ」
涼太はすぐさま、お兄ちゃんの部屋へとノックも無しにズカズカと入り込んでいく。
「トシ兄、しばらくこれ預かっててくんね?」
「はあ? 何でお前のエロ本なんざ預かんなきゃいけないんだよ」
「サンキュー、あとで取りに行くわ」
「あ、おい! まあいいか。邪魔になる訳でもないし。あとで取りに来いよ」
よし、これで真優ちゃんを脅かすエロ本の脅威は去った。
問題は涼太自身。もし、真優ちゃんの妨害をしようものなら、すぐに追い出す覚悟は出来ている。
「さて、とりあえず提出用のノートを写さねえとな。五教科分」
……私、何でこんなの好きになっちゃったんだろ。
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