表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/63

春花と真優の勉強会

 七月に入り、夏だということで本格的に暑くなってきた。私も含めた全員が夏服だ。


 私は夏服が大嫌い。何故ならコンプレックスである自分の幼い体型がより目立ち、「着痩せするタイプ」という言い訳が出来なくなるから。

 普段から綾姉ちゃんのすごいスタイルを間近で見ていると、尚更だ。


 その綾姉ちゃんに高校の夏服姿を見せた時は、


「超可愛い! やっぱり春ちゃんはサイコーだわ! スーパーデラックスキューティーだわ!」


 と言われながら頬擦りされた。

 綾姉ちゃんの好きな物は二つある。一つはうちのお兄ちゃん。これは今更説明するまでもない。もう一つは年下の女の子。私だけではなく、バイト先で仲良くなったという真優ちゃんにもセクハラを働いているらしい。


 ちなみに、綾姉ちゃんと同時に家から出てきた涼太は私の体を見て鼻で笑ってきた。腹立つ。

 即座に綾姉ちゃんが強烈なローキックを食らわして、その日の涼太は足を引き摺りながら登校せざるを得なくなっていたけど。


「もう期末テストか……早いね春花ちゃん」


 試験範囲の書かれたプリントを眺めながら、前の席の真優ちゃんは言った。


「そーなんだよね。でも、これさえ終わったらあとは夏休みだよ! がんばろ真優ちゃん!」

「うん!」


 学生の夏休み前最後の難関の期末テスト。難しいだろうけど、これさえ凌げれば、夏休みが待っている。


 中間テストは惜しかった。私は学年で二位。一位は真優ちゃんだ。涼太? 下から数えた方が早かったのは覚えてる。

 真優ちゃんは基本的には優等生だ。授業中に寝ているのも見たことないし、分からない所があった時、一緒に先生に聞きに行く事も多い。

 頑なに金髪やスカートの裾を直さないのも、それらの行動で帳消しにされているんじゃないかと思えてくる。


「そういえば真優ちゃん、お兄ちゃんと一緒のバイトしてて何か進展はあった?」

「え!?」


 真優ちゃんの顔が真っ赤になっていく。そのまま、プリントで顔を隠しながら小さく答えた。


「ま、まだ……何も……」

「それじゃダメだよ。綾姉ちゃんに盗られちゃうよ?」

「そ、それは分かっているんだけど……」


 どういうわけか、うちのお兄ちゃんはモテる。現在、幼馴染である綾姉ちゃんと私の友達である真優ちゃんを惚れさせている。

 しかも、二人とも、お兄ちゃんと同じバイト先だ。いつか修羅場にならないといいけど。

 あれ? この場合、私はどっちを応援すればいいんだろ? 長年、一緒に過ごしてきた綾姉ちゃん? それとも、高校で初めて出来た友達の真優ちゃん?

 こんなのどっちも頑張って欲しいとしかいえないじゃん。無責任なことを言っているのは分かってるけど。


「そうだ真優ちゃん! 今度の休みに私ん家で勉強会しようよ!」

「え!? は、春花ちゃんの家で!?」

「うん、私達二人で分からない所を教えあえば、二人とも満点も夢じゃないし」

「そ、それはそうかもしれないけど! だって、春花ちゃんの家ってことは、その、く、久我先輩が!」

「そうだね、お兄ちゃんいるね。来る? 来ない? どっち?」

「い、行くよ! あわわ、何着ていこう……」


 そういうことで、真優ちゃんと私ん家で勉強会をすることになった。

 

***


 そして、あっという間に土曜日がやってくる。


「お兄ちゃん、前にも言ったけど、今日は真優ちゃんが来るからね。えーと、その、しっかりしてね」

「おう、分かってる。邪魔にならないように部屋に引きこもってる。二人だけでしっかり楽しんでおくんだぞ」

「あ、いや、別にお兄ちゃんの存在が恥ずかしいから姿見せないでって言ってるわけじゃないから。全然部屋から出ても構わないし」

「俺に気を使うな春花。中学の時、グレていた俺のせいで家に友達を呼べなかった時期があっただろ」

「それはあったけど……」

「その分、今の笠井との時間を大切にするんだぞ。俺との約束だ!」


 そう言って、お兄ちゃんは自分の部屋に引きこもった。相当、中学の時の責任を感じているみたい。

 うーん、真優ちゃん来たら顔ぐらい見せてあげてくれないかな。


―――ピンポーン


 お、来たかな? 玄関まで降りて、ドアを開けてみる。

 うん、真優ちゃんだ。


「は、春花ちゃん! き、来たよ!」

「うん、いらっしゃい! そんなソワソワしないで早く入っていいよ!」

「そ、そうだね! お邪魔します!」


 真優ちゃんは一歩一歩慎重に足を進める。お兄ちゃんの住む家に来る事だけでこんなに緊張しちゃうんだ。


「真優ちゃん、落ち着いて。ゆっくりでいいからね?」

「う、うん! ごめんね! ははは……」


 そのまま、一緒に階段を上がって、私の部屋へと向かう。

 その途中、


「あ、えっと、久我先輩に挨拶しておいた方がいいかな?」


 私の部屋の隣にある扉を見て聞いてきた。後押ししてあげよう。


「うん、いいと思うよ」

「わ、わかった!」


 そのまま、真優ちゃんは部屋の扉をノックしようとした。

 が、


「な、何て言えばいいんだろう? 全然考えてなかった」

「だから落ち着いてって。何も緊張することないってば」

「わ、わざわざノックしておいて話題を用意してなかったら気の効かない奴だと思われたり……」

「お兄ちゃんはそんな事思うようなのじゃないってば。もう私が呼ぶよ?」

「あ、いや、大丈夫! 私がする!」


 ようやく、真優ちゃんがノックを始める。

 すぐにお兄ちゃんが顔を出した。


「お、来たか笠井、春花の事よろしく頼むな」

「は、はい! きょ、今日はよろしくお願いします!」

「おいおい、よろしくお願いするのはこっちだ。これからも仲良くしてやってくれよ」

「も、勿論です!」


 一通りの挨拶を終えた真優ちゃんを私の部屋へと通し、真ん中に置いたテーブルに座らせた。


「真優ちゃん、ガチガチだったね……バイト先でもそんな感じなの?」

「は、恥ずかしながら……。まだまだ慣れそうにないよ……」

「そんなんじゃ、本当に綾姉ちゃんに盗られちゃうよ?」

「それはそうなんだけど……」


 勇気がないのは綾姉ちゃんもなんだけど。

 ぶっちゃけ、真優ちゃんみたいな可愛い子が告白すれば、あんな兄はワンパン出来る。それは間違いない。


「ま、今日の所は仕方がないか。勉強会始めよっか」

「うん、そうだね」


 どうなってしまうんだろうか分からないまま、勉強会を始めることにした。

 恋する女の子の気持ちは、私にも分からない事はない筈なんだけど、うまいアドバイスが出てこない。


 マジで私、どっちを応援すればいいんだろ。






面白いと思ったらブクマや感想を頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] これは主人公と幼馴染みを中心にしたラブコメですよね [一言] 最近ハーレム成分が強いような幼馴染みちゃんの押しが弱いのかな・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ