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誰だって甘えたい

 リーダーとして責任を持って管理していた財布を失くし、途方に暮れる。


 辺りは日が沈み、真っ暗になっていた。携帯も持たずに家を出たため、親に連絡することも出来ない。


 しかも、人気のない郊外だったために、近くに大人もいない。


 幸い、綾乃がバスで通った道を記憶していたため、時間こそかかるが、歩いて帰ることは出来る。人のいる所に着いてしまえば、大人に助けを乞う事も出来る。


 しかし、春花が途中で泣き出してしまった。昼間に遊び回って体力が限界の上、春花は暗い所やお化けの類が嫌いだ。精神的にも辛かったのだろう。


 紆余曲折あり、綾乃の体力にも限界が来てしまった。子供ながらに相当歩いたと思う。

 皆、もう歩けなかった。もうダメかと思ったその時。


「……ここに……いたのか」


 息切れしていても誰の声か分かった。綾乃達の親父さんだった。

 俺達は心の底から安堵し、近くに止めてあった柊家の車に乗り込む。


 無事に家に帰って、親の顔を見て安心した。当たり前の存在がこんなに暖かいものだとは思いもしなかった。

 春花は泣き疲れて寝ていた。俺もすっかり疲れていたために、爆睡した。


 次の日、精神的に回復した俺達はお互いの両親に滅茶苦茶怒られた。主に俺と綾乃が。

 何故、子供だけで遠くに行く時に親に行き先を伝えなかったのか。携帯を忘れてしまった事など。

 特に綾乃の親父さんが特に怖かった。大きな声で「本当に心配したんだぞ!」と言われた事は忘れない。

 たっぷり怒られた後、綾乃のお袋さんの焼いたクッキーを頂き、優しく慰められた事もよく覚えている。


 以後、四人で遊びに行く時は綾乃が責任を持って色々管理するようになった。

 

***


 聞き慣れたスマホの通知音で反射的に目を開ける。どうやら、五分ほどうたた寝していたらしい。


 何であの時の夢を見てしまったのか。しかし、ダメージは少ない。

 俺がリーダーを気取っていた癖に財布を落としたのは黒歴史っちゃ黒歴史だが、それはそれでまだまだガキだったと割り切れるレベルだ。


 やれやれ、俺としたことがこの程度の過去で黒歴史と嘆くとは、我ながら片腹痛い。

 そういえば、スマホに通知が来ているんだった。涼太からだ。


『四人で迷子になった時のトシ兄、春花と一緒になって鼻水垂らして泣いてたよな』

「あああああああああああああああ!!!!!」


 古傷をほじくられ、枕に顔を埋める。誰かあの時の俺を殺してくれえ!


***


 家に逃げ帰ったトシ兄になんとなくトドメを刺しておいた。今頃、ベッドの上で絶叫している事だろう。


 あの時は色々大変だった。なかなか泣き止みそうにない春花とトシ兄を俺と姉ちゃんで必死に対応していた物だ。


 なお、姉ちゃん曰く「あの時の冬士郎超可愛かった!」との事。

 小学生の頃から頭の方は変わってねえらしい。


「……帰ってしまったか。もう少しゆっくりして行けば良かっただろうに」


 玄関の方を見つめてながら父さんが言う。

 姉ちゃんの想いはこのオッサンも気付いている。つーか、気付いていないのはあのボケ念仁くらいのものじゃねえかな。


「……せいよ」

「ん? どうしたんだ綾乃」

「冬士郎が家に帰ったのはお父さんがいきなり出てきたせいよ! それでびびらせちゃったんじゃない!」

「……私は別に彼を怯えさせようとして出てきたわけでは」

「ふんだ! お父さん大嫌い!」

「ええ……」


 そのまま姉ちゃんは自分の部屋へと戻っていった。

 何なんだホント。これが高校二年生の精神力か。理不尽ってレベルじゃねえな。


「……年頃の娘というのはよくわからないものだ。一体どう接すればいいのか」

「姉ちゃんの場合は特に面倒な部類だと思う」

「涼太、済まないが、席を外してくれないか」

「あーへいへい」


 だったら、部屋に戻ってモンハンでもやるか。


 うちの父親は見た目通り、物凄い厳しい。何事にも真面目に取り組み、他人以上に自分に厳しい。

 さらに、滅多な事で笑わない。テレビで芸人が面白いネタをやっていても、眉一つ動かさずに怖い目付きで見つめ続けている。おかげで笑えない空気が出てくることがままある。

 久我家むこうのおっちゃんとはまったく馬が合わず、滅茶苦茶仲が悪い。昔から犬猿の仲だとは聞いたけどよくわかんねえ。


 おっと、そういえば、台所には母さんがいた筈だ。つーことは……あれか?

 階段を上がらずにこっそり聞き耳を立ててみる。


「……母さん、頼みがある」

「あらあら~? 何かしら?」


 そのまま父さんは真面目な口調を崩さずに、


「膝枕からの耳掻きを要求する」


 と言った。


「あらあら、良いわよ~。まったく、あっくんはいつまでも立っても甘えん坊さんね~」


 うちの父親は何かストレスが溜まると、俺達姉弟の見えない所ですぐこんなことをする。

 初めて目撃してしまった時はあまりにも衝撃的でゲロったレベルだ。


「ああ……癒される。何もかも忘れられるな」

「あらあら、動いちゃダメよ~。痛くなっちゃうわよ~」

「ああ……このまま眠ってしまいたい」

「ダメよ~? 反対側が出来なくなっちゃうでしょ~」

「ああ、永眠する時もこの膝で迎えたいものだ」

「うふふ、白骨化しても膝枕してあげるから心配しなくていいわよ~」


 うげ~、聞いてらんねえな。さっさと上がるか。

 あのバブバブメガネとあらあらババアの奇跡のコラボレーションによって、俺ら姉弟は生み出されたわけだが、どうしてこうも似ていないのかが分からない。



 その日の夕飯、冷静になった姉ちゃんがバブバブメガネに謝っていた。

 メガネはただ一言、「気にする事はない」とだけ答える。昼間のバブバブモードが嘘みたいだ。あれを一度見たら、威厳の欠片なんかまったく感じられねえけど。

特徴的な父親にしようと思ったら、威厳もへったくれもないのが出来上がりました。


面白いと思ったり、続きが気になると思った方はブクマや感想を頂けると嬉しいです。

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