名作映画を語り合う
待ちに待った休みがやって来た! 今日はデスサバイバル9の公開日だ! フッフゥー!
しかも、今日は初めてこのシリーズを誰かと見に行ける! 見終わった後に涙ながらに語り合えるのが今から楽しみだ。
鼻歌を歌いながら支度をしていると、春花が不思議そうな顔をして聞いてきた。
「どしたのお兄ちゃん? これからどっか行くの?」
「ああ、デスサバイバルシリーズの最新作を見に行くんだ! 前から楽しみにしてたんだよな!」
「デスサバイバル? ああ、あのゾンビ物か……」
前に春花に薦めた事があるが、春花は昔からホラーが苦手だ。結局、冒頭部分すら見ることなく、自分の部屋に帰ってしまった。
「しかもだ! 今回は涼太や右京とは違って、ちゃんと語り合える人と見に行くんだ!」
「誰? まさか綾姉ちゃん?」
「違う」
「もしかして……真優ちゃん!?」
「いや違う。紫藤先輩」
誰? と言いたげな視線を向けてくる。
「バイト先の先輩だ。空高三年生」
「へー、もしかしてだけど女の人じゃないよね?」
「いや、女の人だけど」
あれ、何だろう。春花の視線が急に冷たくなったような。
「なるほどねえ……お兄ちゃんはこれから色んな人を差し置いてその紫藤先輩とデートに行くわけなんだ……ていうか、デートでゾンビもの見るってどうなの?」
「違うぞ春花。デスサバイバル9はゾンビ物じゃない。恋愛ものなんだ」
「デスサバイバル要素はどこ行ったの? 何がどうあって一作目のゾンビパニックから恋愛ものになるの?」
「是非ともじっくりと話したいけど、そろそろ時間だ。行ってくる」
家を出る時、「この女誑しー!」という声が聞こえてきた。
俺と紫藤先輩はそんな関係じゃないんだけど。
***
家から自転車をこいで三十分。先輩と約束した時間の十五分前に到着した。
待ち合わせの場所に行ってみる。先輩の姿を探してキョロキョロして、ようやく見つける。
「遅かったじゃないか素人君! どれだけ待ったことか!」
「冬士郎です。遅いって……まだ約束した時間まで十分以上あるじゃないですか」
「私は楽しみすぎて一時間前からここにいたんだ! おかげで暇していたんだ! どうしてくれる!」
「さ、さすが先輩……! デスサバイバルシリーズに対する意気込みは半端じゃない……!」
「さて、こんな所で立ち話もなんだ。チケット買ってから中でゆっくり話そうじゃないか!」
そのまま、先輩と二人でチケットを買い、劇場内に入る。
あれ? おかしいな。客の数がやたら少ないな……人気シリーズの最新作だってのに……。
そんなことを先輩に言ってみると、
「やはり、一般受けはしないようだな……悲しいことだよ」
「いや、まだ初日ですよ? さすがに一週間もすれば人もたくさん来てランキングに乗りますよ!」
「確かに、素人君の言うことも一理あるな! 一週間後が楽しみだ!」
そう言いながら、ポップコーンを口に運ぶ紫藤先輩。
「先輩、デスサバイバルシリーズで何が一番好きですか?」
「私は6が好きだな。まさか太郎の生き別れの弟である次郎が“暗黒帝国ゼルネステルク”の皇帝だとは思わなかったよ」
「あーそれ、俺もびっくりしました。まさかあのゼルネステルクの皇帝だとは誰も予想できませんでしたよね」
「その次郎との最終決戦……あれは痺れたな」
「はい、まさか次郎の晩飯に毒を混ぜて毒殺だなんて……素晴らしい策略でしたよね。さすが太郎」
「その戦いでの犠牲者も神様が降臨して生き返らせてくれたしな。感動で涙が止まらなかったよ!」
「ですよねー! 俺もです!」
やっぱりハッピーエンドがナンバーワン! この良さが分からない右京や涼太は感性がずれているのだろう。あ、やべ、思い出すと涙が出てきた。
「素人君が好きなのは何かな?」
「俺は5が好きですね! まさか太郎の母親の友達のお隣さんの正体が“破壊兵器ディゴスルーク”を起動させる鍵だったなんて!」
「まさかあの母親の友達のお隣さんの正体があんなだったとは私も想像出来なかったよ」
「途中で太郎が石につまづいて死んだ時の絶望感やばかったですよね!」
「ああ! 神様が生き返らせてくれなきゃ世界が滅ぼされていたところだったよ!」
「太郎マジでかっけえ!」
すげえ、会話に花が咲いている! デスサバイバルシリーズをここまで語り合える人がいるだなんて……!
興味ある人が多いと思うので、軽く説明をしよう。“暗黒帝国ゼルネステルク”とは、いにしえの皇帝である木下孝弘が和歌山県に作り出した悪の帝国である。リストラにあって希望を失った大人達を集め、世界征服を企んでいるのだ。
一作目でゾンビウィルスをばらまいたのも暗黒帝国ゼルネステルクの仕業である。主人公の太郎とは因縁の関係というわけだ。
“破壊兵器ディゴスルーク”についても興味がある人がとても多いと思うので説明をしよう! この破壊兵器ディゴスルークは世界を破滅させる力を持つと言われている恐るべき兵器である。
太郎の家の物置に置かれていたのだが、太郎の母親の友人のお隣さんがひょんな事で触ると起動してしまう。
なんと、あの太郎の母親の友人のお隣さんが破壊兵器を起動させる鍵だったのだ! あれは強かった……途中で電池切れにならなかったら世界が滅ぼされるところだった……!
「おっと素人君、そろそろ始まるみたいだ」
「楽しみですね! あの太郎の恋は無事に成就するのか……!」
「あの格好良い太郎の事だ! 告白して一発OKに決まっているさ!」
「それもそうですね!」
スクリーンで映画泥棒が踊っている最中にしっかりと涙を拭くためのハンカチを用意しておく。
さあ来い! デスサバイバル9! 今作はどんな感動が待ち受けているのか……!
涼太をぶちこみたくなってきますね。
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