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久我冬士郎は映画を見たい

「なあ右京、映画見に行かね映画」


 中間テストの答案が返ってきて、皆が一喜一憂を一通り終わらせた後、前の席の右京に尋ねてみる。

 苦手だった数学は60点。まあ及第点だ。綾乃のサポートが無かったら、もっと低かったに違いない。

 ちなみに、綾乃は当然のように学年一位を取っていた。しかも、オール百点。マジで頭いいなあいつ……。

 隣の葉山も「赤点無しなんて初めてだー!」と非常に喜んでいた。もう少し頑張った方がいいのでは、と思う。


「おう冬士郎、何か見たいもんでもあるのか?」

「ああ、来週の土曜日に公開されるんだ。楽しみで楽しみで堪らないんだ」

「なんて映画だよ」

「デスサバイバル9!」


 見たい映画の名前を言ったら、右京は目線を逸らしながら「ああ……あれか」と呟く。


「何だよ、その顔は」

「あれの一作目さ、お前に薦められたから見てみたんだよ」

「そうか、面白かっただろ?」


 デスサバイバルシリーズの一作目の内容を思い出す。平和だった日本に突如人を食うゾンビが出現し、噛みつく事でゾンビウィルスに感染、主人公はゾンビから逃げながら事の真相を探っていくという物語だ。


「いや、何だろう。あれ、ツッコミ所が多すぎて訳がわからなくて……」

「そうか? どの辺が?」

「えっとな……まずゾンビいるだろ?」

「いるな、それがどうした?」

「何であいつら、喋りながら武器持って襲ってくんの?」


 デスサバイバルのゾンビは右京の言う通り、普通に喋る。

「生き残り見つけたぜヒャッハー!」と言いながら木製バットを振り回しながら襲いかかってくるのだ。超怖い。


「別にゾンビが喋ってもいいだろ」

「いや、喋りながら武器振り回すってゾンビじゃなくていいだろ。確か、人間に噛み付くシーンすら無かったぞ」

「噛み付くシーンなんて子供が真似したらヤバイし……」

「ゾンビ映画でそれ言ったらダメだろ。他にも言いたい事はいくらでもあるんだよ」

「言ってみろよ、ケチの付け方によっちゃ、ファンとしてただじゃおかねえ」

「主人公の太郎いるじゃん? あいつ、ゾンビ達と戦いながら、最終的にウィルスを撒き散らした元凶と対峙するじゃん?」

「まさに決戦って感じで盛り上がるシーンだよな!」

「その戦いの途中でさ……何で太郎、魔法使って戦い始めたの?」


 デスサバイバルシリーズの主人公である太郎、元凶との戦いの最中、突然魔法を使って戦い出すのだ。ラスボスが必死に拳銃を撃ちまくっても、「こんな豆鉄砲は俺には効かない!」と言って全て無効化するのだ。

 超格好いい。屈指の名シーンだと思うのに右京にはそれが分からないのか。

 ちなみに、何で太郎が世界観ガン無視の魔法を使うことが出来たのかというのは今のところ、全く説明されていない。まあ格好いいし、大した問題じゃないだろう。


「予想出来ない展開でびっくりしただろ?」

「予想出来るわけねえだろ。ラスボスに対するとどめが首絞めだったし、混乱しかしなかったわ。魔法使って派手に倒せや!」

「そんなに気に入らなかったか……」

「それと、最後のシーン。これが一番言いたかった! ラスボスを倒した後、死んだ人達は帰ってこないってうちひしがれるだろ?」

「ああ……悲しいシーンだよな」

「何で次の瞬間、唐突に神様が降臨して全員生き返らせてくれるんだよ!」

「全員助かって良かったよなぁ!!」

「ゾンビ物としてはやっちゃダメなご都合主義だろ! いや、そもそもゾンビ物として怪しいけどよ!」

 

 デスサバイバル1の結末は全員生き返ってハッピーエンド、太郎は無事に世界を救った英雄としてモテモテになりました。という終わり方だ。涙抜きでは語れないな!


「おい、何で泣いてるんだ。何も感動する要素ねえぞ」

「2も見ろ2も! 感動出来るから!」

「2か……またゾンビ出てくんの?」

「いや、全く? 太郎が受験ストレスで四苦八苦する話だ」

「デスサバイバル要素はどこ行った? 見ねえから結末だけ教えてくれよ」

「全然勉強していなかったから、最終的に受験には落ちるんだけど、同情した神様が降臨して無事に合格させてくれるんだ! 泣けるだろ?」

「いや神様甘過ぎだろ! 受験生舐めてんのか!」

「とにかく、9見に行くぞ9!」

「絶対嫌だ! つーか、何で9まで出てんだよそのクソ映画!」


***


 結局、右京には最後まで拒否された。以前に涼太にも薦めた事があったが、


「クソつまんなかった。死ねよ」


 という感想だけ貰った。あの映画の素晴らしさが分からないとは。

 とりあえず、その時は奴をしめて事なきを得た。やれやれ。


 他の友達も誘っては見たが、全員似たような事をのたまって断られた。

 この分じゃ、葉山や綾乃、笠井辺りを誘ったとしても断られるだろう。正直、女の子向けじゃないし。

 うーん、仕方がない。一人で行くか。

 思えば、デスサバイバルシリーズを誰かと見に行けた試しがない。皆、俺が進めた一作目を見て拒絶しているのだ。

 そんなにクソなのだろうか? 俺の感性がおかしいのか……?


「やあ素人君、帰りかい?」

「冬士郎です」


 反射的に返事しつつ、振り返る。紫藤先輩だ。バイト先の制服とはまた印象が違う学校の制服だ。


「うかない顔をしているね、どうしたんだい? 頼りある先輩が何でも聞いてあげよう」

「先輩……友達を映画に誘ったら、あんなクソ映画の続編見たくねえよって言われて拒否されたんです」

「それはきついな。気持ちはよーく分かるぞ素人君、私も今日、友人達に映画の誘いを拒絶されたところだ」

「先輩もですか……ちなみに、何の映画見に行くんです?」

「来週公開のデスサバイバル9という映画なんだが……」

「一緒に見に行きましょう、先輩!」


 思わず先輩の腕をガッチリ掴む。


「まさか素人君もデスサバイバルシリーズを!?」

「はい!!」

「よし行こう! 来週の公開日に見に行こう!」


 同士がいた! デスサバイバルシリーズを見に行こうとしている同士が!

 見たか右京、俺の感性はおかしくない! 結構身近にファンがいたぞこの野郎!


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