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柊綾乃も働きたい

 今日も学校が終わり、そのままミドリヤへと向かう。今日も久我先輩と同じ時間帯だ。最初は大変だと感じた仕事も、次第に慣れ始めてきた。


 ……それでも、接客は相変わらずぎこちないし、慌てた結果、他の店員さんに迷惑をかけてしまう事がある。頑張らないと。


 従業員用の裏口を通り、制服に着替えるために、そのまま女性用の更衣室の扉を開けた。


「やあ真優君、おはよう」


 更衣室には紫藤先輩がいた。既に制服に着替えており、今から出勤なんだろうな。

 お辞儀をしながら、挨拶を返す。


「お、おはようございま……!?」


 驚きのあまり、“す”まで言い切れなかった。更衣室にいたのは紫藤先輩だけではなかった。


 別に、女性の従業員は紫藤先輩だけではなく、パートのおばさん達も一定数いる。しかし今、この更衣室にいたもう一人は……!


「あ、笠井さんおはよう! 今日からよろしくね!」


 長い黒髪の見覚えのある姿。柊綾乃先輩だった! ど、どうして柊先輩がここに!?


「なんだ。二人は知り合いだったのか。それじゃ、自己紹介の必要はないかな?」

「あ、あの……どうして柊先輩が……?」

「どうしても何も、彼女には今日からここで働いてもらうことになったんだ。最近、新しいバイトの子がよく入ってくるなあ」

「そうなの! 小さい頃からお世話になっていて、強い思い入れがあるから昔から働いてみたかったの!」

「そ、そうですか……」


 ぜ、絶対嘘だ! 本当の目的は久我先輩と一緒に働きたかったからとかそんなのだ!


「おっと、時間だ。真優君、着替え終わったら売り場頼むよ。私は先に行っているからね」

「は、はい……」

「綾乃君は素人君……ああ、冬士郎君から研修を受けてくれ」

「はい!」


 紫藤先輩に見えないように、背中に回した手で小さくガッツポーズしたのが見えた。


 そのまま、紫藤先輩は売り場へと向かっていった。更衣室には私と柊先輩が残される。

 

「よーし! 早速着替えて頑張っちゃお! 冬士郎にいいとこ見せて惚れさせる……間違えた! 社会に貢献するためにね!」

「そ、そうですね……頑張りましょう……」


 柊先輩はそのまま着ていた服を脱ぎ始めた。初めて見た時から思っていたけど、スタイルいいなぁ……。胸も大きいし、足もスラッとしているし……。

 私も別に小さいわけじゃないと思うんだけど……。


***


 着替え終わり、柊先輩と共に更衣室を出る。部屋を出てすぐ、店内へと向かっていく久我先輩の姿を捉えた。


「久我せんぱ」

「冬士郎!」


 私より先に柊先輩が声をかける。

 振り向いた久我先輩は柊先輩を見て目を丸くした。


「え、綾乃? 何でお前がここに? しかもその格好は……」

「驚いたでしょ。私もここでバイトすることにしたの」

「マジかよ、今日来るっていう新人って綾乃か。聞いてないんだけど」

「サプライズよサプライズ」


 一見冷静に見えるけど、柊先輩、嬉しいんだろうなぁ……。

 正直な話、私もバイト先に久我先輩がいた時、心の底から嬉しく思った。同じ学校というだけではあきたらず、バイト先まで同じになるなんて、神様が与えた運命としか思えなかった。


「そっか、新人研修やるから裏来い裏。笠井はいつも通りの品出し頼む」

「は、はい」

「よし、行くぞ綾乃」

「そうね、行きましょう」


 柊先輩は久我先輩の後ろを静かにスキップしながらついていった。自制心すごいなぁ……。


***


 数時間後、柊先輩がレジ打ちを始めた。端的に言えば、柊先輩はとてもすごい人だった。

 ついさっき教えてもらっただけなのに、もうレジの仕組みを把握し、初心者とは思えない速さでお客さんの列を捌いていった。しっかりと笑顔で、ハッキリとした声で接客をしていっている。


「すごい……」


 思わず呟く。


「ホント、すげえよなあいつ。昔から敵わねえわ」

「く、久我先輩!?」

「あいつさ、昔から何でも出来るんだよ。難しいことでもすぐに理解して難なくこなすし、俺もよく助けられたんだ」

「昔から……ですか」

「ああ、それに比べたら俺は特にこれといった才能もねえし、周りに迷惑かけてばかりだったからな。情けない」

「そ、そんなことないです! 久我先輩は私みたいなポンコツでも優しくしてくれますし……その、頼りがいがありますし!」

「そう言われると助かるわ。サンキューな」

 

 く、久我先輩に感謝された! なんと勿体無きお言葉!

 あわわ、大丈夫かな私、顔赤くなってないかな!?


「それにしても、改めてすごいです。柊先輩、私なんかよりも学習能力がすごくて……」

「笠井、あいつと比べたら駄目だ。そんなに自分を卑下すんなって。お前の頑張りは俺がよーく知ってる。だから自信持て、な?」

「は、はい! 頑張ります!」


 そうだ、私は自信をつけなきゃならない! たとえこの職場に恋敵がいても、挫けるわけにはいかない!


***


「いやーお疲れ様だ綾乃くんに真優くん! 二人ともいい働きっぷりだったよ!」

「はい、ありがとうございます!」

「さっき、店長も滅茶苦茶褒めてたよ。有能なバイトが二人も入ってくれて助かるって!」

「そ、そんな! 有能だなんて……」

「ありがとうございます! これからも冬士郎のため……じゃなくて、お店のために頑張ります!」


 仕事が終わり、更衣室で着替えながら私、柊先輩、紫藤先輩で話をしていた。


「まさか、素人君に続いて、空崎高の生徒がこんなに集まってくるだなんて思わなかったよ。そうだ、今度、皆で何処かに遊びに行かないかな? 素人君も誘ってさ!」

「「はい、絶対行きます!」」


 柊先輩と綺麗にかぶる。く、久我先輩と遊びに……? ど、どうしよう、何着ていこうかな……?


***


 やがて、着替え終わり、更衣室を出る。出てすぐに久我先輩がいた。


「と、冬士郎? どうしたの? も、もしかして私を」

「ああ、綾乃? 悪いけど先に帰っててくれ」

「ん? 何か用事でもあるの?」

「ああ」


 返事した久我先輩は、なんと、私の腕を掴んだ! て、手大きい!


「笠井を家まで送っていく」


 そ、そうだった! 帰る時間が一緒になった日は送ってくれるって話だった! 嬉しい! 嬉しいけど! 今この状況で!


 恐る恐る後ろを振り返ると、無表情の柊先輩と、新しいおもちゃを見つけた子供のような顔をした紫藤先輩が私を見ている。


 た、助けて下さい神様!


 




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