柊涼太は報いを受ける
短い休憩時間を終えて、勉強を再開する。葉山が「まだゲームしたいよー!」とか言いながら綾乃に引きずられて来たのが面白かった。
しかしまあ、なんだかんだ再開したらしたで、葉山はしっかりと勉強を始める。今の自分じゃ、テストの点がヤバイことになるのは自覚しているのだろう。俺も引き続き、綾乃の丁寧な教えを受けながら数学対策を始めていく。
それはそうと、勉強中に綾乃がちょいちょい自分のベッドに視線を送っていたのが気になった。やっぱり、異性の俺が寝てしまったのはマズかったか? いや、ちゃんと本人の了承は得た筈だ。俺は悪くない。多分。
***
「お疲れ様ー!」
午後六時、予定していた勉強会は終了した。
「疲れたよー綾乃ちゃん、クタクタで動けないー」
「何言ってるの、これから帰らなきゃいけないでしょ」
「だったらお泊まりする!」
「今日は日曜日じゃない。明日着ていく制服も持ってきていないんだし帰った方がいいわよ」
「お腹空いて力が出ないよー」
「そんなこともあろうかと、お母さんに二人の夕食を作るように頼んでたの」
「わーい! 綾乃ちゃんだーい好き!!」
葉山が満面の笑みで綾乃に抱き付いた。抱き付かれた綾乃も驚きはしたが、満更でも無さそうだった。
一階に降りて、リビングに顔を出す。
「あらあら、ごめんね奏美ちゃん、まだご飯は出来てないのよー。もう少し待ってねー」
「いーえ! 手伝います!」
「あらあら、ありがとねー助かるわー」
綾乃と葉山がキッチンへと料理の手伝いをしにいった。俺も参加しようとしたが、人が多すぎては動きづらくなり、逆に遅くなってしまうということで待っていろと言われる。
テレビを眺めるのも良かったが、折角だし涼太の部屋に行ってみる事にした。
コンコンとノックをしてから中に入る。昔からの付き合いなんだし、ノックなんていらないような気もするが、一応健全な男子高校生の部屋だ。万が一、シコってたりしたら男同士でも普通に気まずい。
奴はさも当然かのようにゲームをしていた。隣の部屋では一生懸命勉強やっていたというのになんて奴だ。
「何だ、トシ兄か」
「巨乳の先輩じゃなくて残念だったな」
「ホントにさ、ちょっと期待して損したわ」
正直だなコイツ、俺相手に今さら隠し事なんてしないだろうが。
「あーあ、マジで席が隣のトシ兄が羨ましい。どーせ横目でチラチラ見てんだろ?」
「見てねえよ、俺はお前ほどの巨乳フェチじゃねえんだよ」
嘘である。実はたまに見てる。さすがに毎日って訳ではないが。
「うちのクラスにはあれほどのサイズいねえからなあ。皆、来年にはあれぐらい成長しねえかなあ」
「程々のサイズも悪くないだろ」
「いや、やっぱ胸はでけえ方がいいって」
「それは否定しねえけど」
「だろ? おっぱいにはロマンが詰まってんだ。ロマンは多い方がいいだろうが」
涼太の巨乳論は正直な話、聞いてて飽きない。女子が端から見たら気持ち悪いだろうが、男同士の下ネタトークなんてそんなもんである。男二人の会話ぐらい好きにさせて欲しい。
「それに比べて、俺の隣は……」
「春花がどうした」
「現在、ロマンもへったくれもない上に、未来にも期待できねえ。可哀想だよホント」
「おい涼太、あまり春花の事を悪く言うな。あいつ努力してんだぞ。牛乳滅茶苦茶飲んでんだぞ」
「牛乳飲んででっかくなるって都市伝説じゃねえの? 知らねえけど」
「マジかよ、今度教えておいてやった方がいいか?」
「トシ兄からは言わない方がいいんじゃねえかな」
確かに、死ねって言われて口を利いてくれなくなるかもしれない。それほどにあいつは気にしているのだ。
「ま、どんだけ頑張っても葉山おっぱいサイズは到底無理だな」
葉山おっぱいて。こいつ葉山の事そんな風に呼んでたの?
涼太がそう言った瞬間、部屋の扉が勢いよく開かれた。綾乃だ。話を聞いていたのか、怒った顔をしていた。
「女の子のデリケートな悩みに対して随分楽しそうね涼太。それはそうと冬士郎、ご飯出来たわよ」
「お、おう」
「あ、飯出来た? 俺も行くわ」
「駄目、奏美が帰るまで食べさせないわ」
「ええ……」
悲しそうな目をした涼太を尻目に俺は綾乃と共に階段を降りていく。少しは反省するといいが。
リビングの食卓には、しっかりと焼かれた魚料理が並べられていた。既に涼太の分は並べられていなかったのがなんとも悲しい。
***
「綾乃ちゃん、今日は本当にありがとー! じゃあねー!」
「ありがとな、これでテストはどうにかなりそうだ」
「いいのよ二人とも、それじゃまた学校でね」
冬士郎と奏美の二人が私の家を後にするのを見届けた。今日はなんだかんだあったけど楽しかったな。テストの度にこうやって皆で集まってワイワイ勉強するのもいいかもしれない。
さて。
家に帰っていく冬士郎の後ろ姿をしっかりと見届けた後、すぐさま自分の部屋へと向かおうと階段を駆け上がる。まだベッドには冬士郎の温もりが残っている筈!
途中、今にも死にそうな顔をしてお腹を空かせている涼太の脇を通る。男の子だから仕方がないとはいえ、私の友人を下卑た目で見ていた罰よ。ざまあないわ。あと、春ちゃんを馬鹿にしたのも絶対許さない。
今は愚弟の事を気にかけている場合じゃない。冬士郎の温もり冬士郎の温もり冬士郎の温もり……!!
「冬士郎の温もり!!」
扉を勢いよく開けてベッドにダイビング! よかった! まだ暖かい! 僅かながら残った冬士郎の温もりを全身で堪能しながら枕にも顔を埋める。
はあ、生きててよかった。このシーツ、一生洗わないでおこうかな!
そして、勢いのまま高らかに叫ぶ。
「冬士郎大好きー!!」
***
あー美味い。空腹は最大の調味料とはよく言ったもんだ。なんか上からアホな声が聞こえてきたけど、気にしない。
「あらあら、綾乃ったら大きな声でそんなこと言うなんて若いわねー」
「いつもの事だろ」
「これでしっかりと自分の気持ちを伝える事が出来たら一番いいんだけどねー」
一生無理だな。トシ兄が寝てたベッドの布団にくるまって大いに満足しているような奴だ。この目で見てなくても今何してるのかぐらいは手に取るように分かる。
こうなったら、俺がトシ兄に「姉ちゃんトシ兄の事好きだよ」ってチクるしかないかもしれない。トシ兄だってアホの事は嫌いじゃない筈だし。
「涼太、余計な事しちゃダメよー。乙女の問題に首なんか突っ込んだらお小遣い減らすからねー」
何でこのあらあらババア心読んでんだ。夕飯を食いながら心の中で舌打ちをする。
たくさんの感想や誤字報告ありがとうございます。助けられてばかりで申し訳ないです。これからも頑張っていこうと思います。




