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柊綾乃は抑えきれない

 きゅ、休憩時間を取った瞬間、奏美が涼太の部屋にいっちゃった! そのお陰で私は冬士郎と二人きりだ! ドキドキする!

 チラリと冬士郎の顔を見る。ああ、超格好いい。いつまでも見ていたい。誰にも渡したくない。

 あ、大きな欠伸をした! 何この可愛い静物画! 私の前でそんな気の抜けた欠伸をするだなんて!


「なあ綾乃」

「な、何!?」


 ま、まさかこの二人きりの状況にかこつけて告白!? キャー!


「休憩時間終わるまで寝てていいか?」

「あーうん」


 確かに、今の冬士郎は非常に眠そうだ。このままじゃ休憩時間が終わった後の勉強に差し支えてしまうだろう。


「私に構わずぐっすり寝てて。その代わり、後でちゃんと勉強してね」

「勿論だ、悪いな」


 そして冬士郎はその場で座りながら目を閉じる。座りながらだと寝辛そうだなあ。

 何も考えずに提案してみる。


「と、冬士郎? な、なんなら私のベッド使ってもいいけど……」


 な、何言ってるの私! 幼馴染とはいえ、男の子に私のベッドに寝かせるなんて……!

 ほら、冬士郎も少し困惑してるし! ああ可愛い。


「いやいや何言ってるんだお前は。いくらなんでもそれは」

「ほ、ほら! 前に私が冬士郎の家に泊まった時も私が冬士郎のベッドで勝手に寝かせてもらったじゃない? そのお詫びとして……ね? それでチャラにしてもらえたらなーって」


 あのベッドはとてもいい匂いがした。布団全体に冬士郎の温もりを感じ、今までに経験したことがないレベルで熟睡が出来た程だ。

 な、何考えているの私! これじゃまるで私、とてつもないレベルの変態じゃない!


「何だ、あの時の事まだ気にしてたのか。そこまで言うんなら使わせてもらうわ」

「う、うん!」


 やったー! これで私のベッドにあの温もりが再び! 


「じゃあお休み。色々悪いな綾乃」

「全然いい、ちょっとやそっとじゃ起きないくらいバクスイしてても大丈夫!」

「ん、サンキューな」


 冬士郎は私のベッドに寝転がり、そのまま布団を体にかけて目を閉じる。

 それからしばらくすると、冬士郎は小さな寝息を立て始めた。どうやら無事に寝れたようだ。


 さて。


 すぐさまスマホのカメラを起動させて画面に冬士郎の顔を写し出す。念のためにもう一度しっかりと寝ているか確認をしておこう。

 よし、大丈夫だ。すやすや寝ている。


 貴重な冬士郎の寝顔に向けてバーストバーストバーストォ! パシャシャシャシャ!! と五月蝿い音がなるけどそれでも冬士郎は目を覚ます気配はない。

 今度は少し角度を変えよう。よし、この角度ならまつ毛の大きさが強調されている。まさにベストアングル! この機会を逃すな柊綾乃! バーストバーストバーストォ!


 五分後、総枚数213枚。さすがにこれだけ撮影したら十分かな。

 後でしっかりと現像して秘密のアルバムを作ろうかな……スマホの待ち受けにするのもいいかも!

 だ、だから何考えているの私! それじゃまるで、変態ストーカーじゃない!


 それにしても、可愛いくも格好いい寝顔ね。視界に入れるだけでキュンキュンする。顔を近付けても起きる気配は全くない。

 あ、涎が垂れている。こんなだらしないところも可愛いくてキュンキュンする! 愚弟りょうたが昼寝する時の涎とは偉い違いだ。涼太のはきったないのよねえ。


 …………………。


 ちょっとくらいなら……いいかな?

 口から垂れて顎に差し掛かった涎を見て生唾を飲み込む。ちょっとだけ、ちょっとだけちょっとだけちょっとだけ!

 冬士郎の涎を採取しようと恐る恐る人差し指を伸ばして近付けていく。顔に当たったらバレるかな? いや、きっと大丈夫! あれだけ至近距離でバーストバーストバーストォ! してもバレなかったんだしきっと大丈夫!


 待って、いくらなんでもそれはヤバすぎない? 人としてどうかと思うのよねコレ。私はまだ正常だ。今なら考え直せる。これ以上は道を踏み外してしまう!

 ああ、私の中の天使と悪魔が囁いてくる。


『駄目です。これ以上人の道を外れてはいけません!』

『やっちまえよ! どうせバレやしねえよ。欲望に素直になれや!』


 ああ、私はどうすればいいの! どっちの声に耳を傾けるべきなの!


『あなたがやろうとしていることはほぼ犯罪です。もし、そんな下劣な行いをしたら天の裁きが下るでしょう』

『知るか! 自分に正直になれ!』

『黙りなさい! そんな欲望は抑えるべき物なのです!』

 

 うっさいわねこの天使。悪魔に力を送り込み、天使を瞬殺させた。私の中で説教臭いことしてほしくないわね。


 さて、天使じゃまもいなくなったことだし、実行実行!

 止まっていた指を再び動かし出した。よし、あともう少し! 焦って勢いをつけてはダメよ私! 失敗したら全てが台無しになる!

 あとはどうにかする五センチ……四センチ……三センチ……二センチ……一センチ! もう私は止まらない! もう抑えきれない!


「はい、どっこいしょー!」


 突然、扉を勢いよく蹴り開けて涼太が入ってきた。

 涼太は寝ている冬士郎の涎に手を伸ばしている私を見て冷ややかな視線を送ってくる。

 落ち着くのよ私。冷静に対処するのよ。


「何かしら涼太」

「何かしらじゃねえよボケが。よく今の現場を見られて冷静にいられるなおい。一応、見に来といて正解だったわ」

「待って、涼太は誤解してる。私は決して涎を指先につけて容器に移して密封保管して一生大切にするとか考えていないわ」

「うっわ、そこまでやろうとしていたのかよ。てっきり舐めて満足して終わりかと思ったわ」

「ああ、それもいいかも……じゃなくて、なんて下品な発想をするのかしらこの子は。親の顔が見てみたい」

「下降りろや。いつでも見れるわ変態が」


 ドン引きしている顔を隠そうともしない涼太。邪魔ね。


「どーしたのりょーた君? 急に部屋飛び出して」


 隣の部屋から奏美の声が聞こえてきた。まずい、もし涼太が奏美にこの状況を伝えたらどうなるか!

 涼太はニヤリと笑ったかと思うと返事をしようと口を開きかける。


「実はッスね、うちの姉ちゃんが」

「机の引き出しの奥のエッチな本、バラすわよ」

「何でもないッス」


 以前、本人に内緒で春ちゃんと一緒に涼太の部屋を漁ったことがある。漁り始めて十秒も経たないうちに春ちゃんが「ここにあると思った」と言いながら見つけた物だ。さすが春ちゃん、よく分かっている。

 あの本には巨乳の女の子ばかり載っていた。男の子だから仕方がないとはいえ、女の子にエッチな本を見られるのは嫌な筈だ。


「ふわあ……よく寝たよく寝た。ん? 何だお前ら。なんかあったのか?」


 冬士郎が目を覚まして睨み合っている私達姉弟を見つめて尋ねた。


「「なんでもない」」


 二人ともそう言うしか無かった。

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