粗大兄は朴念仁
影山達と別れ、自宅に辿り着く。そのまま、リビングのソファに転がり込んだ。
それにしても、屋上に呼び出されて舎弟にしてくださいって言われるとは夢にも思わなかった。それも女の子にだ。
ずっと忘れたいと思っていた過去の自分に憧れの感情を持たれるというのはなんだか複雑な気持ちだ。
さて、クッションクッション。大きく息を吸い、クッションに顔をうずめ、
「ああああああああああああ!!!」
と絶叫する。
学校で笠井と過去の自分について話している時からずっと溜まっていた羞恥心を発散する。
鮮明に思い出した! 当時の俺何やってたんだ! 確か、俺の視界でイチャイチャしてるカップルに嫉妬して、因縁付けたりしてた! なんて奴だ!
金髪にした理由はぶっちゃけモテると思っていたからである。それなのに全くモテなかった俺は……俺は……! 他人に八つ当たりして発散していた! 最低のゴミクズ野郎だ!
「あーおかえりお兄ちゃん」
二階から春花が降りてきて、キッチンの冷蔵庫を漁り始める。さっきの絶叫は聞こえていた筈なのに何事も無かったかのようにしている辺り、もう聞き慣れているのだろう。
「春花……ちょっと聞いてくれよ」
「やだ」
冷蔵庫から引っ張り出した牛乳を飲みながら即答で拒否されたが、めげずに続ける。
「俺さ、最低のゴミクズ野郎なんだよ」
「うん、知ってる」
「モテなかったばっかりに他人に八つ当たりして迷惑をかけてばっかりだった! 死にたい死にたい死にたい! 当時の俺を殴りたい!」
「私は今のお兄ちゃんを殴りたいけどね」
「そん時の俺に憧れてくれるのは別に悪い気はしないんだけどさー! それでも思い出すと結構辛いんだよこれさ!」
「え? 憧れる? お兄ちゃんに?」
適当に聞き流していた春花が興味を示してきた。
「ああ、今日屋上に呼び出されて憧れていたから舎弟にしてくださいって言われたんだよ」
「へー、物好きもいたもんだね」
「その子さ、俺に影響されて今年入学する時に金髪にしちゃったらしいんだよ。もう立派な素行不良だよ。これ、俺が悪いの?」
「え? その子一年? しかも金髪?」
「そうだけど」
「……ねえお兄ちゃん、その子の名前、笠井真優って名前だったりしない?」
「合ってるぞ、知ってるのか?」
「私と同じクラス! 席私の前! 友達! そういうことか! 前にお兄ちゃんの事聞かれたけどそういうことだったかー!」
一人で騒いだかと思うと、春花は俺を睨み付けてくる。
「お兄ちゃん、真優ちゃんの事押し倒したりしないでね」
「そんなことしないって」
「もしそんなことしたら私、お兄ちゃんの事、今度こそ殺すから」
「だからしないって言ってるだろ!」
今度こそって何? 今まで俺の事何回か殺そうとしてたの?
そのまま春花は牛乳二杯目に突入、そんなに飲んだら腹タプタプになるだろうに。
そんなに飲む理由はまあ知ってはいるけど、それにしても限度がある。兄として、しっかり注意しなくてはならない。それと同時に慰めも必要だ。
「春花、そんなに飲むなよ勿体無いだろ。胸小さくても気にするな。小さいのが好きな人も一定数いるから無理して頑張らなくてもいいんだぞ」
「死ね粗大兄」
「はい、すんません」
慰め方を間違えた。リビングの居心地が一気に悪くなったので二階の自室に緊急避難。それから春花は三日ほど口を利いてくれなかった。
***
一年C組の教室に辿り着き、しばらくすると真優ちゃんが登校してきた。目立つ金髪だからすぐに分かる。
「おはよ真優ちゃん、昨日、うちのに告ったってホント?」
「こ、告った!? ち、違うよ春花ちゃん! しゃ、舎弟にしてもらいに行ったんだって!」
真優ちゃんは顔を真っ赤にして両手を振った。可愛い。
真優ちゃんは見た目によらずとても大人しい。最初、席が近くなった時はチャラチャラした見た目で色々進んでそうだなって印象だったけど、話してみると全然違った。人と話すのが苦手らしく、最初は私相手でもどこかぎこちない話し方だったけど、今は普通に会話が出来るようになった。とてもいい子だ。
何でそんな子がうちの粗大兄の事が好きになったのかは定かじゃないけど、何か事情があるんだろう。
「舎弟でも何でもいいけど、ちゃんと気持ちはしっかりと伝えといた方がいいよ。あいつ朴念仁だから絶対気がつかないし」
綾乃姉ちゃんの恋心にも何年も気が付かない程だし。
「む、無理だよお……私にそんな勇気ないよお……」
顔を赤らめてか細い声で答える。綾乃姉ちゃんと似たような事言ってる。
そんなのでよく高校デビュー決め込んで金髪にしたなあと率直に思った。
あ、涼太が欠伸しながらやって来た。あいつに粗大兄と真優ちゃんの関係が知られたら面倒だ。この話終わり!
「そうだ真優ちゃん、中間テストの勉強してる?」
「うん大丈夫。最初だけあってあまり難しくなさそうだし」
「そうだよね、まず赤点なんて有り得ないよね」
そう言いながら左隣の赤点キングを見つめた。どうせテストの時期が近付いても家で勉強なんてしていないんだろうな。何で綾乃姉ちゃんはあんなに優秀なのにこっちはこんなんなんだろ? バスケとゲームにしか興味がないからだろうか。
朝礼の予鈴が鳴り、担任の奥田先生が教室にやってくる。
「さて、皆中間テストに向けて勉強してるか? 頑張れよー」
……隣から「え、中間近いの?」って台詞が聞こえてきた。予定日すら把握してなかったのかよ。
そして、「勉強教えてくれよ」とアイコンタクトされたが、「自分でやれ」とアイコンタクトを返して無視を決め込む。こいつの赤点祭りが高校でも見れるのは楽しみでもある。
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