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柊綾乃はキュンキュンする

 一体誰なのこの子は!? こんな場所に冬士郎を呼び出して何をするつもり!?

 いや、考えるまでもないわね、わざわざこんな所に呼び出したということは……やることは決まっている。告白よ。


 見たところ、一年生みたいだけど、こんなチャラチャラした小娘が冬士郎に告白するだなんて片腹痛いわ。


「あなた、冬士郎になんて言ったの?」


 念のために確認しておく。返事によっては私はこの子を粛清しなければならない。

 告白というものは、長年少しずつ積み重ねてきた絆がある程度達してからするのが当然なの! 昔、漫画で読んだから間違いないわ!


「え、えっと……その……」


 金髪の子は言い淀む。この子……見た目の割に気が弱そうね。


「早く答えて!」

「ひっ!?」

「やめろ綾乃、笠井は俺の舎弟にしてもらいたくて呼び出したんだよ」

「舎弟? 冬士郎の?」


 再び笠井と呼ばれていた金髪の子に目をやる。舎弟になりたいだなんて本当かしら? いや、私には分かる。この子、本当は自分の想いを冬士郎に告白しようとしたけど、いざ対面すると緊張してしまい、別の要望でお茶を濁そうとしたってところかしら?


 ふふん、自分で言うのもなんだけど、私は頭はいい方なの。これくらいの推測はお手のものよ。


「それで? 舎弟にするっていうのは了承したの?」

「しねえよ、俺は喧嘩はやめたんだ。止めてくれたお前を裏切りたくないし」


 わ、私を裏切りたくないって言ってくれた! どうしよう、心臓がキュンキュンする!!

 おっと、落ち着け私。春ちゃんが言うには私は冬士郎が関わると普段よりも“ほんの少し”知能指数が低下してしまうらしい。気を引き絞めていかないと!


 私の恋路を邪魔する笠井さんをそのまま放置する事は出来ないわ!


「その代わりに友達になろうって提案していたところなんだよ」

「と、友達!」


 そのまま親睦を深めていってやがては告白するって算段ね!


「そ、そんなことはダメ! 会ったばかりの子と友達だなんて……」

「どうしたんだよ綾乃、別に友達くらいいいだろ」

「だってだって……怪しいとか思わないの!? 初対面で舎弟だなんて何か考えているに違いないわ!」


 あれ、何でだろう。考えが上手くまとまらない。さっき裏切りたくないって言われた余韻がまだ残ってるみたい。

 と、とにかく今は冬士郎にこの子に対して不信感を抱かせるようにしなきゃ……!


「落ち着けって綾乃、この子はそんな悪い子じゃねえよ」


 と、冬士郎がパニクってる私の肩に手を置いた! 手大きい! 温もりが伝わってくる! 滅茶苦茶キュンキュンする!


「これ以上後輩を困らすような事を言うなよ。先輩として情けねえだろ」


 そう言いながら困った表情を見せてくる冬士郎。何その顔超可愛い! 心臓がバクバクと高鳴ってる! もう駄目、私は今超幸せ! 


 お、落ち着くのよ私。心の中で深呼吸! よし、冷静になった。私は正気だ。

 確かに、冬士郎の言い分は一理、いや百里、いや万里ある。冬士郎の言うことに間違いなんて一切ない。もう一度確認する。私は正気だ。

 ああ、私はなんて酷い先輩なの! この子は純粋に舎弟になりたかっただけなのに、私はそれの邪魔をしようとしてしまった!

 穴があったら入りたい!


「笠井さん!」

「は、はい!!」


 私は笠井さんの両肩を掴み、頭を下げた。そのまま耳打ちする。


「ごめんなさい、私はあなたの事を誤解してた。冬士郎に近付いて告白しようとする恋敵だと思い込んでいた。本当にごめんなさい」

「え、そ、そんな! 私は……」

「何も言わなくていい! 悪いのは全て私なのよ! 私はアホ丸出しのアホ女なのよ!」

「そ、そこまで言わなくても……」


 み、見た目とは裏腹になんて謙虚な子なの! なんというギャップ萌え! 思えば、春ちゃん以外に初めて出来た後輩! そう思うとキュンキュンする!


「おい綾乃、お前本当にどうしたんだよ?」


 キャー冬士郎! そんな心配そうな顔で見つめてこないでキュンキュンするから! もうダメ! 耐えられない!


「じゃあね二人とも! また今度!」


 そのまま屋上を後にして階段を駆け降りる。こんな顔冬士郎に見せられない!


***


「……何だったんだあいつは」


 何がしたかったのか、綾乃は引っ掻き回すだけ引っ掻き回し、急いでと帰っていった。


「悪いな笠井、俺の幼馴染が変なとこ見せちまって」

「いえ、そんな! 大丈夫です……あの……ひとつ良いですか?」

「何だよ言ってみろ」

「そ、その、久我先輩と柊先輩は付き合ってるんですか!?」

「いや? 別に付き合ってねえけど?」

「ほ、本当ですか!!」


 笠井の顔が一気に明るくなる。さっきまで泣きそうだったのが嘘みたいだ。

 ふと時計を見ると、午後五時を回っている。そろそろ帰るか。


「笠井、俺そろそろ帰るけど良かったら一緒に帰らないか?」

「は、はい!」


 そのまま笠井と共に昇降口まで降りる。


「お、久我じゃねえか! どうしたんだその子?」


 既に靴を履いて帰ろうとしていた影山がこちらに振り向いた。


「聞いてくれよ影山、この子、笠井真優っていうんだけど舎弟にしてくれって頼まれたんだ」

「舎弟!? 一匹狼だったお前がとうとう仲間を……」

「いや舎弟としてはとらねえって。友達になろうって事で手を打った」

「そうか……」


 影山は残念そうな顔をする。そんなに俺が喧嘩をしない事が残念なのか。ふと笠井を見ると、怯えきった表情で影山を見ていた。そりゃ確かにこいつの見た目は怖いし。


「俺は影山剛介! 久我と同じ二年だ、よろしく頼むぜ!」

「か、笠井真優です! よろしくお願いします!!」

「そうだ久我、ライン交換してくれよ」

「お前と交換すると喧嘩しようぜばっか言ってきそうで嫌なんだけど」

「そんなこと言うなって!」


 結構鬱陶しかったので渋々交換する。余計なこと送ってこなければいいが。


「あ、あの、先輩……」


 笠井がスマホを手に持って何やら言いたそうだった。何が言いたいかはなんとなく分かる。


「ラインだろ? ほらよ」

「あ、ありがとうございます!」


 俺のスマホに映ったQRコードを嬉しそうに読み取る。そんな笠井を意味深な表情で見つめる影山が気になった。女の子をそんな顔で見るな、ただの不審者にしか見えないだろ。


***


 く、久我先輩と一緒に帰ることになった! どうすればいいんだろう。まさかラインまでもらえるだなんて……。

 私なんかがこんな幸せな目にあっていいのかな? 柊先輩は明らかに久我先輩の事が好きみたいだし……あんなに美人でスタイルもいいしきっと家でもしっかりしていて、弟の涼太君からも尊敬されているんだろうな。


「なあ笠井ちゃん」


 先程出会ったばかりの影山先輩が耳打ちをしてくる。どうしよう、恐喝でもされるのかな?


「笠井ちゃんさ、久我の事が好きなんだろ?」

「ふぇっ!? な、何で……ど、どうして分かったんですか!?」

「どうしてって、見れば分かるぜ。これに気付かないとは久我の奴、相当鈍感だぜ?」


 影山先輩は前で歩いている久我先輩を見て笑う。

 わ、私って客観的に見たらそんな風に見えてたの!?


「い、言わないで下さいお願いします!」

「言わねえよ、俺がそんな事する奴に見えるのかよ」

「す、すみません!」

「別に謝らなくてもいいって」


 い、いい人だ! 見た目は怖いのに! 人は見かけによらないってのは本当だったんだ!


「ま、とにかく自分に自信を持って頑張れよ! 俺は応援してるぜ!」


 ウインクをしながら親指を立ててくれた。

 

 自分に自信を……か。そうだ、私は変わると決めたんだ。影山先輩も応援してくれてるし、頑張らなきゃ!



 



たくさんの感想や誤字報告ありがとうございます。これからも頑張っていきたいと思います、

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