表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/100

空虚な時間


 もう泣くことしかできなかった。


「スカー、スカー……」


 その場から離れたくなくて、ずっと泣いていたら白衣の人に気づかれた。



「正しい処理は本人も望んでいます」


 アランデル症で死んだ人間は名前が書物に刻まれるという。


 スカーは凄いんだ。


「……はい」


 カロンが待つ部屋に戻って、毛布を被って時間を進める。


 泣いていたら、疲れて寝てしまっていた。


 カロンが起こしてくれたみたいで、雰囲気から悟ってくれたらしい。


 異世界の儀式を用いて、葬式のような出来事を横に流す。


 もう何も残ってない。


 スカーが居たら。


 スカーが居たら。


 そんな言葉ばかり流れる。


 それからの日々は記憶に残らないほど薄っぺらい。


 不意にクラス対抗戦を思い出した。


 なんでも願いが叶う。


 俺はこの可能性に希望を見出してトレーニングを重ねた。


 ガロードも手合わせをしてくれて、順調に強くなった。


 次のクラス替えで金髪ちゃんとガロードとは別になってしまった。


 終わったなって思っているとヘルが居た。


 本格的に終わった。


 テストという名の争いを超えながら、クラス対抗戦の代表選抜に望む。


 今回はアステル先生じゃないから、一体一で殺し合った上位五人が代表になる。


 俺は順調に勝ち上がって二位に食い込んだ。


「やるね!」


 ヘルが褒めてくれた。


 メンバーは俺とヘルとメーナス、他二人になった。


 スカーの血を飲んで魔力を蓄えたおかげで、魔力検査で上位にくい込んだ事もあり、ブーイングとかはなかった。


 クラス対抗戦は余裕で、ヘルが一人で終わらせてくれた。


 最後の勝者はその場で願いを宣言できる。


 それぞれが悩んでいるうちに、俺が叶えたい願いを言う。


『死んだ人間を生き返らせたい』


 帰ってきた返事は。


「それはできません」


 予想はしていたが、最悪の場合だった。


「……」


 叶えたい願いはもうなくなった。


「じゃあ叶えなくていい」


 驚きの声。


 俺は魔法空間から出て、廊下の壁に寄りかかる。


 もう生きる希望をなくしてしまった。


 これからずっと、スカーに会えないんだ。


 サラも居ないのに。


 ため息をついているとガロードが近づいてきた。


 決勝で戦ったんだ、願いのシーンを見ていたんだろう。


「大丈夫か?」


「そんなわけないだろ」


 死ぬ旅にでも出るか?


 闇の軍勢に殺されに行こう。


「……夜、この国を出ようと思う」


「朝にしとけ、あぶねえぞ?」


「いや、いいんだ」


 夜中まで寝た俺は静かに準備する。


 廊下で眠りこけていたアステル先生から、こっそりくすねた地図を右手に握る。


 スカーが最後まで持っていたセレスの木片を制服の内ポケットに入れて、サラの名前が刻まれた青い刀を腰につけた。


 キィッと音を立てるドアを抜けて、学園を出る。


 この街の匂いがする。


 思い出の匂いだ。


 地図を見て、ゲーテの方角に向かって歩く。


 ゲーテはカロンの地元で、闇の軍勢に占領されていると言っていた。


 救えるか分からないが、そこに向かって死ねばスカーがヨシヨシしてくれるかもしれない。


 ああ、命を無駄にするなって言われるかもな。


 城壁を超える為に魔力の糸を伸ばす。


 わずかな魔力で国を超える。


 魔力を掴むと体が上昇していき、壁を超えた先で一気に下降する。


 地面が近づいて手を離すと国の外に立っていた。


 ここから先、何があってもおかしくない。


 この辺は、木々が立っていてその先が山になってる。


 そこを超えたらゲーテみたいだ。


 俺はとにかく死に場所を求めて歩いた。


 自力で越えれないところは魔力の糸で。


 山の中を進むとモンスターに出会う。


「……」


 虎のような怪物。


 刀を抜かずに拳で対処する。


 飛び込んできた虎の攻撃を交わして鼻を殴ると大きく怯んで逃げていった。


 ミスったら死んでいた。別に死んでもよかった。


 山の頂点から降りながら、大きく見える街を確認する。


 手元の地図を見るとゲーテらしい。


 黒く染まっているのは闇の軍勢か。


 陽の光で明るくなっても気にしない。


 ゲーテの近くに来て、壁を超える為に糸を伸ばす。


 中に入ると真っ黒な鎧を来た存在が沢山居た。


 人間じゃない、闇に染まったやつだ。


 刀を抜いて背後から斬りかかる。


 クラス対抗戦に向けて本気で練習したおかげか、一撃で斬り伏せれる。


「殺せ殺せ!」


 気づいた他の闇が俺を取り囲む。


 放たれる闇のオーラを魔力の糸で瞬間移動することで避ける。


「なんだと」


 この戦術で何度も急襲していくといつの間にか壊滅させていた。


 サラの能力は最強だった。


 スカーの魔力がなければ成立しなかった。


 戦いが終わって刀を収めると周囲から村人っぽいのが出てくる。


「あなたが倒してくれたのですか」


「多分」


「ありがとう」


 褒められ、お礼と言って小さな食事を振舞ってくれた。


 これからゲーテは闇の軍勢から反抗できるように準備をするらしく、俺は別の闇を探しに旅に出た。


 死に場所を求めて闇から国を解放する。


 英雄気取りの行動を何度も繰り返した。


 喜びと咽び。何度も見て、反吐が出そうになる。


『止まれ、止まらなければ……この者は死ぬだろう』


 俺が突然武器を振るったことで、見せしめのように奴隷の人が殺されたりした。


 俺は確かに国を救ったかもしれないが、人は救えていない。


 死んだ方がマシだ。


『おにーちゃん、がんばってね!』


 外に出ようとすると、スカーに似た銀髪の幼女が俺を見上げていた。


 赤い目もそっくりで、撫でてみると嬉しそうな顔をする。


『ああ、がんばるよ』


 死んでもいいが、まだ死ねなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます!
最強美少女ギルドに入った俺の初仕事は貰った剣を100億にすること!(クリア報酬→追放)
連載中です!
気に入ってくれた方はブックマーク評価感想して頂けると嬉しいです!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ