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アイデンティティ


 抱っこして保健室に戻る。


 部屋に戻るより近かった。


 スカーをベッドに下ろして話をする。


「そういや、遠くに出かけた時は何をやらかしてきたんだ?」


「やらかしてないもん! ちょっとだけ男の人を煽ったら襲われそうになったけど……」


「はあ?」


「こうやって、ひらひらーって」


 少し股を開いたスカーがスカートの生地で仰ぐ。


 チラチラと見えそうで見えない。


「そりゃ怒るわ」


「リュウキはエッチな気分にならないの?」


「もうスカーの全部を楽しんでるから、この程度じゃな」


「えへへ……」


 照れてるスカーも周りの人は知らないんだよな。


 特別な可愛さがある。


 喋ろうとするとスカーが咳き込んで血を吐く。


「抑えてたのに、出ちゃった」


 布で拭きながらぽつりと呟く。


「血は不味いよ……」


 瞳を潤ませて俺を見てる、スカーにとって血が出るってのは嫌なイベントなんだな。


「分かったよ」


「分かるわけないよ」


「血が出ると思ったら言ってくれ、キスしてやるよ」


「ほんと……?」


 涙がスカーの目をキラキラさせる。


「俺が飲んでやるよ」


「早く血を出したいな……」


 ちょっとニヤニヤしてくれてる。


「チョロいな」


「ちょろくていいもーん」


 しばらくするとカロンが入ってきた。


「男の人から話を聞きましたよ」


「そうか」


「スカーさんと話をしたいので出てもらってもいいですか?」


 二人だけの話もあるかもしれない。


「分かった」


 俺は部屋を出てフラフラ歩く。


 スカーと歩いた廊下を追いかけるように進む。


 どうしようもない気持ちになってくる。


 この温度が永遠に続く時が来るんだ。


 この寂しい時間が。


 俺は一人でもやってけると思ってたのに。


 もう一人の自分が居る日々に依存していたみたいで、視界が狭くなってくる。



 風で消えそうなロウソクを見ている気分だ。


 手持ちにライターがあれば火をつけたらいいってなる。


 なかったら、どうしようもなく絶望する。



 廊下の壁に寄りかかって顔を隠す。


 誰にも気づかれないように、涙で視界を汚した。


 流れた涙を拭って来た道を帰る。


 ずっとスカーと話してたい。


 話せなくても、見ていたい。


 たった数分なのに、戻ってくると話は終わっていた。


「……もう良いのか」


「小さな話でしたから」


 カロンはそう言って廊下に出ていく。


 気遣い、してくれたのかな。


「カロンちゃんから聞いたよー、スカーが居ない時、落ち込んでたんだってー?」


 してくれてなかった。


「そうだ」


「リュウキもかわいいね、きてきて」


 近づくとスカーが俺の頭に手を伸ばす。


「よしよし、えらい子えらい子」


「……」


「スカーは眠いから寝るね!」


 ベッドに横になると毛布を被って目を閉じる。


「おやすみー」


「ああ」


 目を閉じたスカーの顔。


 優しく頭を撫でるくらいなら、大丈夫かな。


 ずっと見ていると日が落ちてきた。


 窓が暗くなり、天井の明かりが光る。


「……はっ!」


 スカーがガバッと飛び起きる。


 見ていた俺は何事かと離れた。


「どうしたんだ」


「あれ、リュウキ」


「夢でも見てるのか?」


「見てたんだよー、リュウキに抱きついたのにいい所で覚めちゃった」


 ……スカーの隣に座ってみる。


「ぎゅー!」


 スカーが抱きついてきた。


「夢が覚めて良かったな」


「えへへ……しあわせ」


 スリスリしていたスカーが咳き込む。


「でる、かも」


 受け止めようと振り返って唇を重ねる。


 コンコンと口の中でむせて、粘性の液体が勢い良く俺の口に注ぎ込まれる。


 変な味がする液体を飲み込んで、スカーの口内に舌を差し込む。


 不味い味が残らないようにスっと離れた。


「まずく、ない!」


「良かったな」


「えへへ」


 スカーと寄り添って数日が経った。


 スカーが血を吐く量は増えてきて、飲んでいくうちに魔道アームの光が増えていった。


 スカーの魔力が俺の体に蓄積されている。


「嬉しそうなリュウキも好きだよ」


「バレちまったか」


「いいことあったの?」


「あったよ」


 また咳き込んだスカーの血を飲む。


 この血が俺のアイデンティティな気がしてくる。


「やっぱり、血が足りなくなってきたか?」


 最近、血を吐いた後のスカーは笑顔で居てくれない。


 落ち込むとは違うし、神妙な顔つきをするんだ。


「……本当はリュウキのことがだいきらい」


「えっ?」


「魔力がないから、スカーの下位互換で役にも立たない」


「何言って」


 ボロボロとスカーの尖った言葉が溢れてくる。


「女の子の気持ちもわかってない」


「えっちも本当に仕方なくしてあげただけで」


「抱っこは単なる移動用の手段なのに調子に乗っておしり触ってくるのも、きらい」


「だいっきらいだから、さっさと、死んで、リュウキとお別れ、したいよ……!」


 ポロポロとスカーの目から涙が溢れてくる。


 嘘なのは簡単に分かった。


 俺のダメージが減るように、嫌われようとしてくれた配慮。


 スカーは、優しいな。


「本当なら、笑えよ?」


 強く抱きしめて、俺は涙を隠した。


「えへ、へ」


「……嬉しそうだな」

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最強美少女ギルドに入った俺の初仕事は貰った剣を100億にすること!(クリア報酬→追放)
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