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アルカデリアン








 ステップで学園内を駆け抜けてスカーが鼻歌でリズムを取る。


 騒がしい音に耳をすませた。



『待ってくださーい!』



「待つか」


「だな」


 徒歩に切り替え、ドタバタ走るカロンを待つ。


「はあ、はぁ……」


「カロンちゃんおつかれ」


 スカーがカロンの肩をポンと叩く。


 外ではもう走る必要はないのだ。


「どうして、そんなに……急ぐんですか?」


「楽しみが逃げる前に楽しみたいからだよ」


 俺は変な奴に絡まれたくないからステップ踏んだけど、スカーはそれを分かってたんだろうか。


 いや、どっちでもいいか。


「楽しみは逃げませんが……」


「気持ちの問題だよ」



 そう言ってスカーは学園の方に向かって歩き始めた。



「おい、屋台はこっちだぞ」


「悪い悪い、こんがらがってたわ」



『あの……流通エリアはあっちです』




 カロンの後ろをついていくと高度な街だった雰囲気はガラッと変わる。


 周囲の屋根が空と陽を隠して重なっている。


 代わりに吊るされたランタンが優しい光を放つ。



『秘密基地みたいでワクワクするな!』



「そうですね! まずはどこに行きましょう?」


「悩むな〜」


 周囲を見渡し、美味しそうな匂いに鼻を鳴らす。


 肉の焼ける音は人々の賑わいに掻き消されている。


「ここなんかどうだっ!」


 スカーが指差したのは、白い髭を生やしたおっさんが右手に炎を宿して仁王立ちをしている小さな屋台。


 よく分からない文字でアルカデリアンという言葉が立て札に刻まれている。


「アルカデリアンですか!」


「アルカ……なに?」


「知らないんですか? 数種類の肉を串に刺して焼いた物です、母が特別な日にだけ作ってくれました」


 鳥串とかそんな部類?


「それに決まりだ!」


 俺も肉の気分だし、それでいいか。


 早歩きで向かうとスカーは指を三本立て「三つ!」と言った。


 食欲旺盛だな。



『肉の種類を聞かないとは珍しいねえ』



「聞いた方がいいのか?」


「嫌いな肉があったら抜くわけさ、お嬢ちゃんはないのかい?」


「食べたことがないからわからん」


 そりゃあ、異世界の嫌いな肉とか分かるわけないよな。


「本当かい……?」


「うん」


「二人はあるのかな?」


 カロンは「デザートの肉が無理です」と言った。


「俺も食ったことないからないよ」


「ないって本当? 嘘じゃない?」


「うん」


「今まで肉食べたことないってあんた達変わってるよ?」


 嘘ってこういう時に使うべきだったか?


 事実だけど変わり者って思われたくはなかった。


「早く作れよおっさん!」


「やけに気の強い嬢ちゃんだね……九枚のコインをそこの箱に入れといてくれ」


 俺は袋から言われた通りの枚数を箱に入れた。


 おっさんは何も刺さってない串を手に取ると、見えない所からブロック状の分厚い肉を掴んでは刺していく。


 何度も、何度も。


 その肉達は一つ一つ色が違い、赤身の肉から白い肉まである。


 真ん中の肉は油を纏っていて、一際テカテカしている。


「まずは嫌いなものがない嬢ちゃんから」


 そう言うと串に右手をかざし、バーナーのように火を吹きつけた。



 メラメラと燃える魔力に肉がジュワジュワ悲鳴をあげる。



 ほんのり焦げ目がついた所でおっさんが右手を閉じる。


 それと同時に火がピタリと止んだ。


「ほら、食ってみろ」


 自慢げなおっさんから串を受け取ると一番上の赤い肉にかぶりつく。


『うま』


 スカーはそれだけ言うと黙々と食べ始めた。


「次はリザードが嫌いな君だな」


「はい!」


 刺さっていく肉の量に変化はない。


「あれ? さっきと変わらないぞ」


「違う肉を刺してんだよ、食えないからって減らすのはいい気持ちしないんでな」


 おっさんかっこいい。


 高火力の魔法で一気に仕上げるとカロンに素早く渡した。


「ありがとうございます!」


 小さな口で肉をかじるとスカーみたいに「うま」と言った。


 言葉どころか言語を失っている。


「最後は若造ってわけだが」


「あぁ、頼む」


「お前くらいはまともな感想を言ってくれよ」


 おっさんががっちり肉を刺して、右手がメラメラしそうな時だった。



『えほっえほっ』


 スカーが突然むせた。



 おっさんに毒でも盛られたのかと思い、息を吐くスカーの背中を撫でる。


「大丈夫か?」


「へ、平気だけど……この肉が砂っぽくてな」


 砂っぽい?


「おっさん、なんだこれは! 説明しろ!」


「リザードは砂漠に居るんだがな、過酷な環境を耐える肉体は珍味でも強烈な砂っぽさがある」


 おっさんは「リザードの肉でむせたんだろう」と言った。



「そうなのか!」


「そうだよ」


 うんうん頷いているとおっさんはちゃっちゃと肉を焼き始めた。


 少し見ていると一瞬で肉がシューシュー言い始める。


 火を数秒当てるだけで肉が焼けてしまうおっさんの力は凄い。


「ほらよ」


 持ってみると大きな串で受け取った時に蒸気が鼻を掠めた。


 食欲を刺激する危険な熱の香り。


 ゴクリと生唾を飲み、上から大きな肉に歯を立てる。


 大きさに反して柔らかい感触で、少し引っ張れば容易(たやす)く裂けた。


 それでいてジューシー、噛みごたえも充分。


 噛む度に旨味が広がるのがなんとも言えない。


 ああ、なんか言うくらいならこの肉を噛み締めたい。


 喋るのが面倒だ。


「うま」


「お前もか」


 この世界で美味いランキングを作るなら、暫定一位はこれに決まり。


 もぐもぐ、うめえ。


 一口目をようやく飲み込む。


「こんなに美味いのに安くないか?」


「よく分かったな、本来なら一本五枚なんだ」


「いいのか?」


「美人を見れたんでね、これでいいさ」


『嬢ちゃん達が二枚ずつで若造が、五だ』と丁寧に内訳を言ってきた。



「俺だけそのままなのかよ」


「冗談、全員三枚さ」


 うまいからどうでもいいか、もう一本頼もう。


「五枚でいいから追加してくれ」


「食いきれないなら断る」


「食べるのは俺じゃない」


「そういう事か」


 おっさんは魔力の業火で素早く焼き上げ、緑色の袋に肉の串を差し込む。


 よく見ると袋は何枚もの葉っぱが織り込まれて出来ている。


「ほらよ」


「助かる」


 五枚のお金を入れて俺達はその場を後にした。




「……なあ」


 沈黙を破ったのはスカーだった。


「……なんだよ」


「この肉と真剣に向き合いたい、歩きながら食うのは失礼だと思わないか」


「つまり?」


「もう部屋に帰ろう」



「……カロンは?」



『うま』




 もう帰るか。










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最強美少女ギルドに入った俺の初仕事は貰った剣を100億にすること!(クリア報酬→追放)
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