収束
「分かんねえけど、死ぬことはねえだろ」
「強いもんねー、ガロードなんてアステル先生が助けに来なかったら死んでたらしいよ」
「言うんじゃねえ、お前も机の下で泣いてたくせに」
「言うなー!」
言い合う二人を他所にスカーは起きないリュウキの近くで正座をする。
引き寄せて膝枕をすると優しく肌に触れ始めた。
「けほっ」
咳をするスカーの背中を撫でる幽霊みたいなリュウキ。
「調子が悪いのか」
本当に幽霊みたいだ。
「ストレス、だから」
「本当か?」
「うん……けほ」
それからしばらくして、闇の軍勢を追い払うことに成功したと言われた。
実際には追い払ったというより、相手が逃げていたとすれ違った女騎士達は言っていた。
「どうして?」
屋台のおじさんに聞くと。
「いや、聞かれても屋台だよ? 分かるわけないじゃん」
『幽閉室に囚われた同胞とやらが大切だったようだ』
最後の女騎士が言い残していった。
「りゅうきー、終わったよ」
スカーはリュウキの頬を手のひらで包み、ムニムニ揉む。
『んー』
膝枕の中でリュウキが唸る。
「生きてた……!」
起きて欲しくてスカーは声を掛ける。
「おきておきて」
かわいい声で膝を揺すって。
『はっ!』
素早くリュウキが体を起こした。
「おはよぉ……」
スカーが甘えるような声で背中に抱きつく。
「あ、ああ」
「幽霊になったからもう起きないって思った」
「ゆ、幽霊?」
「ほら!」
スカーが後ろを向くと何も居なかった。
「あれ?」
半透明なリュウキはどこにもいない。
「よく分からないが、無事で何よりだな」
「なんで知らないの! りゅうきひどい!」
「はあ?」
もう一度、振り返ったスカーはリュウキから貰った木が転がっていることに気づいた。
大切そうに拾い上げ、汚れを払ってジャケットの内側にしまう。
「ぎゅー」
「苦しいなあ」
「離さないもん」
そのままリュウキが立つとスカーをおんぶする形になった。
「だっこがいーい!」
「変わんねえだろ」
「リュウキが見たいよ、みたいよー!」
「うるさいぞ」
スカーを一度下ろしたリュウキはそのまま無視することも考える。
「だっこー」
子供みたいに手を伸ばしてスラリと立っている。
「だ、騙された! ひどい!」
抱っこすることにした。
「身長一緒とは思えないな」
「軽いでしょ〜」
「子供っぽいって意味だよ」
「甘えんぼうなだけ!」
甘すぎるのはダメだという例を見せてくれる。
『今日は怖かった』
キュッと引っ付いて離れないスカーの後ろ髪を優しく撫でる。
「へえ」
「でもリュウキのおかげで……」
「ほう」
軽い返事にスカーが頬を膨らませる。
「適当はきらい」
「考え事してたんだよ」
「スカーのこと考えて!」
「そんな無茶な」
脅威が排除されたということで、周りの生徒が学園に戻ろうと足を進める。
リュウキ達も戻る事にした。
「カロンちゃんどこだろー」
スカーが背筋を伸ばして生徒を見る。
「居ないよお」
泣きそうな顔でリュウキに訴える。
「どうした?」
「カロンちゃんが居ない!」
「全員がここに居るわけねえだろ」
学園内の廊下はかなりめちゃくちゃにされていた。
破られた壁もある。
リュウキは教室に戻って生徒の顔を見る。
カロンはいなくて、スカーを抱いたまま椅子に座った。
「退いてくれ」
「一緒がいいもん……」
頑なに離れてくれない甘えたがり。
「まあ、怖かったしな」
一緒に居たくても無理はない。
「リュウキもスカーを抱きしめて」
体温を送るようにスカーを胸に押し付ける。
「えへへ……」
段々と生徒が増えてきて、カロンの姿が見える。
「カロン!」
背を向けて分からないスカーの為にリュウキは呼んでみた。
気づいたカロンが隣の席に座る。
『なんとか助かりましたね』
「……汚れてないな」
他の人間はボロボロに汚れているのに、カロンの服は元の色をしている。
「魔法の流れ弾で気絶したんですが、起きてたら何もかも終わってました」
「なんだそれ」
「死んでるって思われたんだと思います」
気づいたスカーが「カロンちゃん!」と声をかける。
「元気そうで何よりです」
「うん! 会えてよかったー」
忙しなくアステルが入ってきた。
『半分しか居ませんが、今から修復作業を全生徒で行います』
放置できない学園の損傷を治す、簡易的な修理の説明がされた。
「君と君はアステルと一緒に床の穴を塞ぎましょう」
「えー……」
「嫌そうにしてもダメです」
アステルはそう言って風の魔法を操って生徒を誘拐していく。
「うわっ!」
「下ろして!」
「それでは」
自然な流れでリュウキ達はドアの修理を始めた。
基本的に開けれないほどに損壊したドアを付け替える作業。
「……」
スカーがリュウキにベッタリくっついている。
「なあ、この状態を金魚のフンって言うらしいな」
「スカーはかわいいから、宝石だよ」
「せめて離れろ」
「やだやだ……」
リュウキはスカーの手を解いて振り向く。
「ダメだ」
「なんでえ……」
「甘いのはスカーに良くないって判断した」
「あうぅ……」
「泣いてもいいが、強くなれ」
胸元で握り拳を作ったスカーは寂しそうにリュウキを見る。
「はあ」
視線に気づいたリュウキはため息をこぼす。
「つ、強くなるから……!」
「魔道アームに魔力を注いでくれるか?」
スカーが手を向けると機会の隙間から光が溢れる。
戦いでコツを掴んでいたリュウキは、なんとか動かせるようになっていた。
リハビリも兼ねてドアを引き破る。
細かな動作はまだできない。
「片手作業だからな」
リュウキは右手をスカーに向ける。
「手くらいは繋ぐか?」
「うん!」
スカーは、ぱあっと明るく頷き、差し出された手を胸に仕舞い込んだ。
『離さないもーん』