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あすなろ抱き







 部屋に戻るとカロンは居なかった。


 外はお祭り騒ぎみたいだから、屋台を楽しみに行ったのかもしれない。


『行きたいか?』


 スカーは首を横に振る。


「どうしてだよ」


 わざとらしく咳をしてきた。


「おいおい大丈夫か」


 背中を撫でて様子を伺う。


「うん」


 女の子の日ってやつもありえる。


「ねえねえ、リュウキ」


「なんだ?」


「お願い叶えてくれる?」


 キラキラとした目をパチパチさせて見てくる。


「叶えてやろう、言うがいい」


 気取ってみるとスカーは俺の手から離れて振り返る。



 遅れて銀色の髪が引っ張られるように揺れる。



 スカーの頬が目を合わせる度に赤くなる。



 手を伸ばしてきたスカーは、不意にお辞儀をして。



『スカーと、付き合ってください』



 唐突な言葉。


「な、何言って……」


「本気、だから」


 顔を上げたスカーは真っ直ぐで。


『スカーはね、リュウキの事をもう自分だと思って見てないよ』


 キリキリと締め上げるように床を鳴らして進んでくる。


『だから、リュウキも。スカーを女の子として見て欲しいな……』


 俺はその手を取って期待に応える。


「……スカーはウザイくて弱いから、流して欲しいよ」


 冷めた声で「迷惑かけたくないから」と。


「そんなこと言うな」



『やっぱり、いまのなし……』



 俺の手を払って背を向けてしまう。


「できるわけないだろ」


 寂しそうな背中を逃げれないように抱きしめた。


「付き合って、くれる?」


「……」


 答えないでいると。



「え……」


 表情がみるみる変わっていく。



『わ、わかっ、た』


 サラサラ流れた涙が頬を冷やしていった。


「もうスカーに、触らないで」


 肩を震わせるスカーの声が途切れる。


「なんでだよ」


「つきあってないから……!」


「付き合ってるだろ」


 よく分からないって顔してる。


 流れた涙を拭ってあげよう。


「もう付き合ってるから、聞かれても何も言わなくていいかなって」


 それを勘違いしたスカーがかわいく泣いたんだ。


 横から見てて悪い気は何故かしなかった。


「……きらい」


「誤解させた俺が悪かった」



『でも、いっぱいお願い叶えてくれてありがと』



 一個しか叶えてないのに、俺の腕の中でスカーがクルリと振り返ってニコニコ笑う。

 

「お礼にリュウキのお願いも叶えてあげる」


「そろそろ我慢を覚えて欲しいかな」


「ふむふむ、チューなら得意だよー」


 スカーが背を伸ばして上から目線で唇を合わせようとしてくる。


 対抗してつま先でピンと立つ。


『だめ、今はスカーの方がお姉さんだから!』


「わかったわかった」


 かかとを下ろして優位なスカーに従った。



 他人同士として、初めて唇を重ねた。


 今までとは別格の口付け。


 それはスカーも分かっていたのか、いつもと違う目をしていて。


「えへへ」


 嬉しそうなスカーを見たら俺も嬉しくなる。


「やっぱり出かけたい!」


「いいぞ」




 手を繋いで学園から出た俺達はフラフラ歩いた。


 他の国からも来ているのか、人だらけ。


 そんな機会を狙って商人が路上で店を開ける。


 見てるだけでも楽しい。


 様々な種族の人が居て、新鮮だ。


 耳が長かったり、肌の色が緑とか。


「ふふーん」


「しつこいな」


 いつもより激しくスカーが右腕に絡んでくる。


「付き合ってるって見た人に思われたいんだもん!」


 かわいい理由だった。



「じゃあいいよ」


 途中の雑貨屋で珍しいものを見つけて足を止める。


「なんだこれ」


 ストローのような銜えやすいサイズの筒。


 しかもハート型に、二手に別れている。


『珍しいだろう? ボルカニックの新商品、カップルハートだ!』


「へえ!」


「しかもだ、このかわいらしいお花を貼ったプリティオブカップもセットで四枚!」


「買った!」


 俺は衝動的に購入を決めてコインをポケットから出す。


 商品を布の袋に纏めると、差し出してくれた。


「助かる」


 右手で受け取る。


 スカーは左側に移って俺の体に抱きついた。


 冷たい魔道アームは好きじゃないのか、ぷくーと頬を膨らませる。



「まいど!」


 その場を後にして、次は何をしようかなーってスカーと見る。


「……つまんなーい」


「どうしてだよ」


「スキンシップしてくれないから!」


 左手が使えないから仕方ないじゃん。


 動かそうと話しながらしてるけど、指先を揺らすことが限界だ。


「これでどうだ」


 スカーの頬を唇で押してみる。


「楽しい!」


「チョロいな」


「本当はリュウキと一緒に居るだけで幸せなだけだし……」


 もっとチョロいぞ。


「もうかえろー」


「えー」


「けほけほ」


「帰るかー」


 わざとらしい咳も心配なので学園に戻る事にした。



 外とは対象的にガラガラの学園。


「……みんなに見て欲しいだけだったから、お留守番する」


 一人で行けと言うのか!


「そこまでじゃない」


 部屋に戻って、椅子を二つ並べる。


「やだ、スカーはリュウキに座る」


「今は我慢しとけ」


 机にプリティなコップを置き、カップルハートというダサいストローを斜めに入れる。


 太ももに座ってきたスカーを隣に移す。


「んーんー!」


 何度も座ってくるやつには説得が必要みたいだ。


「コップに魔法の水を注いでくれ」


「こう?」


 人差し指をコップに向け、水を満たしていく。


「さて、それを飲むにはどうする?」


「こうする!」


 スカーはコップを持つとこっちを向いて座り直す。



『一緒に飲も!』


 これは一杯取られたな、コップだけに。


「そうだな」


 スカーがストローを咥えて近づいてくる。


 別の飲み口を咥えて中の水を吸ってみる。


 ごくごく。


 スカーと目が合って恥ずかしくなる。


 相手の喉の動きがこんなに良く思えるとは。



 ずずずー。


 気がついたら中身がなくなり、僅かな水が音を立てる。



「も、もう一回……」


 スカーは咥えたままそう言って水を注ぐと、魔法の氷を数個入れた。


 またすぐ、カラっぽになってしまう。


「美味しいよ」


「そうだな」


「リュウキのも飲んでみたい」


「魔力が要るな」


 しゅんと目線を下げたスカーが「あっ!」と言って俺を見る。


「血は? 魔力になった?」


「なったけど対抗戦でなくなった」


「じゃあじゃあ、血を飲んで、おねがいっ」


「おねがーい」と言って近づいてくる。



「分かった分かった」


 二つ返事で了承するとスカーは人差し指を薄い氷で小さく裂く。


「……はい」


 トクトク溢れる血駕こぼれないように舌で舐めて咥える。


「スカーもする」


 俺の右手を持ち上げたスカーは俺の人差し指を咥える。


 互いの指をチロチロ舐める奇妙な時間。


「おいひい」


 俺は血の味がして不味いけどな。


 俺が指を離すとスカーも名残惜しそうに指を舌で追い出した。


 シワシワになった人差し指が可哀想。


「女の子だからスカート履きたいなあ」


「でも寒いんだろ」


「うん……」


「暖めてやるから履いてみれば」


 提案に賛成したのか、あっさり俺から降りていく。



『お着替えしてくる! 後で入ってきて!』



 そう言ってスタスタ寝室に消えていった。








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最強美少女ギルドに入った俺の初仕事は貰った剣を100億にすること!(クリア報酬→追放)
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