自重と我慢は別!
ふと、スカーの血を飲んだことを思い出した。
本当に血が栄養となって、それが魔力になったのかもしれない。
『それで、動かし方は?』
「本物の手と一緒」
「……うごかねえ」
どうやったら動かせるんだ?
意思はあるのに、関節が動かない。
「その感覚はしばらく難しいかと」
戦いは左手なし。
「はあ……」
「すー」
サラは俺の口元で大袈裟に息を吸う。
「なにしてんだよ」
『リュウキくんのため息を吸ってみた』
不幸を吸う、か。
「魔力が枯れたら、どうするんだ?」
「他人に注いでもらう」
手をかざして「こんなふうに」と魔道アームの光が強くなる。
手が離れていくと光が収まっていく。
「へえ……」
一人暮らしとか不可能になったな。
俺は魔力がないからアームに注ぐ術がない。
「不安?」
「そりゃあ……」
今後を考えるとため息が止まらない。
「私が居ればマシにならない?」
「……」
「私の話を聞いてマシな気持ちになってください」
ベッドに座ったサラが俺の隣に近づいてくる。
「モルゲンレーテの名前は他にも居るんです」
「妹とか?」
「いえ、姉です。とびきり優秀な」
居ないと思ってたが、居るのか。
「優秀すぎて私が追い出されるほど」
サラが微かにうつむく。
「……その人はこの国で英雄をしてます」
「それって、ローザ?」
「はい」
心がザワついた。
英雄の家族とハグを交わしたのか!
「でも、追い出されたのか」
「腕とは比べ物にならないけど、衣食住を求めて上位クラスに来ました」
「そっか……」
「私にとってリュウキくんは唯一の家族なんです」
俺の肩に手を置くとその上に顎を乗せる。
『妹ですから』
囁いたサラがすました顔で見てくる。
「なので私はあなたの腕となりましょう」
ベッドから降りたサラは手を差し伸べてきた。
その手を受け取って立つ。
「そろそろ、始まりますので」
サラと手を繋いで魔力の糸を進む。
教室に来た俺達はアステル先生に声を掛ける。
「クラス対抗戦の概要を教えてください」
「五対五で殺し合うだけなので」
先生が俺の腕に気づいた。
「それは魔道アームですか?」
「はい、アラスにリュウキくんはいじめられました」
サラが代弁してくれた。
「まあ……報告はしておきましょう」
それから魔法空間を通って、仲間と合流する。
くつろげそうな個室に来た。
そこには金髪ちゃんとガロードが居る。
スカーも居た。
『おい、大丈夫か?』
ガロード達は近づいてきて、魔道アームをまじまじ見つめる。
「まあ」
「アラスは平気でやべーから死んだフリしかできなくてな、すまねえ」
別にガロードは悪くないしな。
「金髪ひーる!」
金髪ちゃんが俺の前で手をかざす。
「なにそれ」
「金髪になる呪い!」
「はは、それはやだなあ……」
「染めたら金髪党に来てもらうからね!」
ガロードが「俺様も嫌だな」って言う。
「なんで!」
「バカが移るからだ」
「魔力で剣しか作れないバカードには言われたくなーい」
「なんだと!」
二人が言い合ってる。
いつもなら速攻で来そうなのに、振り返ったスカーがようやくトコトコ駆け寄ってくる。
『リュウキ……』
今にも泣きそうな顔で手を伸ばしてきた。
抱きしめて欲しいのか。
そう思ったらすうっと手は下がる。
「スカーは泣かない! 強くなる!」
「……へえ」
「リュウキの方がきっと泣きたいもん、だから我慢する」
スカーがさらに近づいて、ギュッと抱きついてきた。
「我慢する……!」
「そういうのは自重しないんだな」
「ハグはリュウキも幸せになれるから」
確かに、スカーの匂いは安心する。
「よしよし……」
つま先で立ったスカーが俺の頭を優しく撫でてくれる。
「オカンみたいで嫌だな」
「だってリュウキが好きなことしてるもん」
目線を合わせ続けるスカーがニコニコ微笑む。
「この目、撫で声、なでなで。リュウキは好きだもんね?」
確かに、好きだ。
「さすがだな」
「スカーは好き、だから」
「好きな物も一緒だもんな、今度から目線を合わせるよ」
「そうだけど違う……」
何が違うんだ?
「分からなくてごめんな」
「わかんなくていーよー」
スカーは、そう言ってピューっと離れていった。
いつもなら腕に絡みついてきそうなのに、妙だな。
「そういや戦いはいつだ?」
ガロードが思い出したように金髪ちゃんを見る。
「今回は八クラスで競うっぽくて、もう戦いは観戦できるよ」
「ちょっとすくねえな」
「一大イベントってもう言えないよね」
「占領地も増えたしな……」
することはないし、俺も戦いを観戦してみる。
ソファーに座ってモニターを眺めた。
五対五の戦いは至って普通で、魔法が飛び交っている。
青と赤がぶつかり合い、水が周囲に散る。
その中で異常な現象が一つ。
ある少女を狙う魔法だけ、突然消えていく。
他の魔法による干渉はありえない。
『あれもだめ、これもだめ』
口ずさむ言葉の数だけ何かが変わる。
『死ねばいいのに』
ボコボコと生えた土の刃。
左手に宿った土の欠片。
魔力の糸は全く見えない。
宙に浮いたそれは、弾丸のように突進して相手を切り裂く。
「ぐあっ」
「固めろ! 守りを!」
「ダメだ! 魔法が言うことを聞かない!」
クリエイトで何も障害物を作らない無能達。
あっという間に死んでいった。