切断
教室を過ぎて広い空間に来た。
小さなホールみたいなところで人だかりができている。
そこをなんとか割って入り、中を見た。
「……」
『へっ、雑魚め!』
ガキ大将みたいなやつが寝転がるガロードに、なにかしていたらしい。
ガキ大将の隣に金髪の男が居る。
見たことないな、誰?
「やめろよ」
俺は堪らず飛び出た。
「あん? 下がれ兄ちゃん」
「お前が下がれ」
剣を抜いて、突きつける。
「逆らったらこいつみたいになるぞ!!」
「必死な威嚇だな、そう来ると思ったよ」
「な、なに!」
俺はため息をついて煽る。
『ずる賢い奴がしない行動をする人間、そいつは総じて雑魚って相場が決まってるんだ』
「うるさぁい!」
ガキ大将が振るった棒を避ける。
床を叩いた棒がグシャりと曲がる。
その棒を踏みつけて、剣の平でぶっ叩く。
「ぐあ……」
気絶するように倒れたガキ大将。
「峰打ちだ」
隣の金髪にも警告する。
「お前も消えてくれ」
『へえ、こっちに命令するなんて、ずる賢いやつはしない』
「何がだよ、変わんねえだろ」
「アラストールのアラス、聞いたことは?」
聞いたことは……ある。
サラの口から聞いたことがある。
「これでも上位クラスだから? 口の利き方には気をつけよう」
落ち着いた声の奥に殺気を感じる。
「下っ端に手を出してくれたし、仕返すよ」
アラスのオーラで空気が一変する。
『やめてください!!』
間にサラが入ってくる。
「あーよく分かったな、こいつを殺そうとしてたこと」
「おねがい、やめて……」
「殺せてないお前がダメ、まあ今までに免じて命は見逃してやってもいいか」
アラスは「どけ」と言ってサラを顎で操る。
サラは力の差を知っているのか、素直に下がっていく。
「リュウキ、抵抗しろ。斬られたくなかったら」
アラスの手に宿る虹色の剣。
「なんで俺の名前を」
俺も剣を握って身構える。
「お前をサラに殺させようとした人間だからな」
振られた剣をキンキン弾く。
速度が上がって次第に俺の処理速度が追いつかなくなり。
感覚で弾いた。
「……」
「なんで上位クラスなんだ? って考えれるなら一級だと褒めてやれるが、ありえないか」
防いだ斬撃が俺の剣を簡単に空へ打ち上げる。
「……ッ!」
「これで勘弁してやる、重い代償でな」
アラスの斬撃がピタリと止み、左手を向けてくる。
禍々しいオーラが俺を縛り付ける。
剣がカランと落ちてキンキン跳ねた。
もがいても強烈な力から逃れれない。
やばい、やばい、やばい!
「中途半端に闇の力が使える、これって上位だよなあ?」
「離せ……!」
「離してやるよ」
アラスが剣を振り上げる。
直感的に何が来るか理解する。
「や、やめろ、やめ、ろ!!」
振り下ろされた剣が俺の左腕を過ぎ去った。
ゴトリ。
さっきまで剣を握って動いていた物質が転がる。
闇のオーラから開放されたリュウキがバタりと倒れる。
「なっ……」
サラは状況に絶句した。
愛する人が二つに別れて、動かなくなった姿に。
咄嗟に氷の魔法でリュウキの肩を凍らせて出血を最大限に防ぐ。
「さて、帰るとするか」
サラは魔力の糸を治療室に繋げて、リュウキに触れた。
「くっつかねえように下手に切って正解だったなあ」
アラスの背中を鋭く睨んだサラは、虹色のオーラを残してリュウキと一緒に消えていく。
斬られる姿を見ていたスカーは、左腕にゆっくり近づいた。
しゃがんで手に取る。
白い手が簡単に血にまみれる。
気にせず持ち上げて、口を大きく開く。
唾液が歯と歯に伸びる。
誰も見てない、誰も見てない。
見てないなら、食べてもいいの?
スカーは首を何度も振って否定する。
好きでもこんな考えはおかしいよ。
腕を雑に落として、金髪ちゃんの所に戻った。
「……クラス対抗戦の式に、出よう?」
スカーは頷いて俯く。
光が当たって影にまみれた顔は悲しげだった。
気がついたら見知らぬ白い天井が広がっていた。
俺は、何処にいる?
「ここはどこだ」
「……治療室です」
聞こえてきたのはサラの低い声。
「ちりょう?」
体を起こそうと左手を……。
あれ、やけに左手が届かないな。
いつもは左手を使って起きるんだけど。
「どうなって」
右手を使って起きる。
確認してみると左腕がなかった。
左腕が、ない。
腕が? ない?
なんで? なんでだよ。
「……」
息が吸えない、酸素で落ち着きたいのに。
「ないないないない! どういうことだああ」
吸うよりもぶちまけたい。
「落ち着いて!」
サラに強制に寝かされて、力強く抑えられる。
「はー、はー……」
「落ち着いて、聞いてください」
深呼吸を勧められた。
「リュウキくんの腕はもう戻りません」
「……ッ」
ピリピリと衝撃が走るような言葉。
質量を得た事実に叩きつけられたような、酷い感覚。
泣きたい。
「でも、これがあります」
そう言ってサラは機械の腕そっくりなパーツを見せてくる。
「魔道アームがあります」
「……」
「私も、居ますから」
サラが手を引いて起こしてくれる。
「落ち着きましたか?」
「あ、あ」
どうしてこんな事になったんだろう。
「スカーは」
「金髪さんと一緒に、クラス対抗戦の始まりの式に」
「でも、ガロードはダメだしもう無理だろ……」
「ガロードさんは死んだフリをしていて、割と元気なようで」
は?
行かなくてよかったのかよ。
骨折り損どこりか、腕を損しちまった。
「今は魔道アームの装着とリハビリを」
「これって高いんだろ……」
「アステル杯の分でお釣りがきました」
サラは笑う。
「……ごめん」
「今度は私が支える番」
魔道アームがカチャリと装着される。
『ずっと一緒にいてあげます』
青い光がアームの中で満ちて溢れる。無機質な色だった機械の部分が青い色を採り入れていく。
ゴオオオ……。
魔道アームからそんな音が聞こえてくる。
「ありがとう」
「僅かに魔力が、リュウキくんの体内にあるようです」