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いじわる







 太ったという単語はスカーにとって禁句だった。



『いじわる!』



 俺の方を向いて座り直すと泣きながら言葉をぶつけてくる。


 口を聞かないという宣言はどこかに消えていた。


「ちゃんとクビレもあるもん!」


 中のシャツごとジャケットを上げて、綺麗なお腹を見せてくる。


 斜めから見てみると確かなクビレがある。


「俺が悪かった」


「触って!」


 うん、細い。


「どう?」


「……」


「どうなの!」


「素晴らしいと、思います」


 言葉に押されて真剣に答えた。


「次言ったら殺す!」


 最後のチャンスが物騒すぎるので言葉を選んで生きていく所存。


「ごめんよ、スカーの声が聴きたかった」


「リュウキも寂しいもんね……」


「話せないのはつらい」


「ごめんなさい」


 スカーはぺこりと謝ってくれた。



「もう寝るか?」


「うーん」


「俺はカロンに頼まれたから出掛けるけど」


「ついてく」


 眠そうだが、大丈夫か?


「無理するなよ」


「へーきへーき」


 カロンの置いた紙を手に取って読んでみる。


「ゆら〜ゆら〜」


 膝の上に乗ったスカーは、ただでさえ邪魔なのに。


 揺れてくるのは嫌がらせに近い。


「邪魔だなあ」


 じーっと顔を見つめてみる。


「ごめんなさいっ」


 悪意がある時に見つめられるのは弱いらしい。



 ふむふむ、目立つ人からぬいぐるみを買ってこいって書かれてる。



 目立つ人って周りから言われるんだな、あの人。


「なんて書いてるの?」


「ぬいぐるみが欲しいみたいだが、射的で手に入れた奴はどうした?」


「あれだよ」


 指さす方向にクマは佇んでいた。


「寒くないようにマフラーもしてあげた!」


「スカーは優しいな!」


 よしよしとスカーを撫でる。


『リュウキも、やさしいなあ……』



 スカーを太ももから下ろす。


「やだやだ」


「邪魔だから」


「じゃま……」


「邪魔じゃないな」


 ようやく立ち上がった俺はカロンが置いたコインを拾う。


 玄関に向かって剣を腰に付ける。


「リュウキかっこいい」


「そうか?」


「だから付けてて欲しいな〜」


 部屋から出てドアを閉めようとすると。


「スカーも行くのに!」


 俺だけ出たせいで、スカーを置いていく形になった。


「開けてー」


 綺麗な目をパチパチさせて見てくる。


「ほら」


 出てきたスカーと手を繋いで鍵をかけた。


 数歩進んで、スカーが動かないことに気づく。


「やっぱり帰るか」


 横目でスカーを見ると不満そうだ。


「機嫌が口に出るよな」


 尖った唇はわかりやすい。


「スカーにも鍵かけて……」


 すぼめられた唇に鍵を差し込むわけにもいかない。



 キスで盗まれないように塞いでから、言葉を掛けた。


「鍵はかけたからな」



「うんっ」


 目立つ人を探しに学園を出る。


 さっき来た場所に行くと少年は居た。


『また来てくれたんだ』


 ジャラジャラ音を立てながら走って来てくれた。


「早速頼みたいんだが、ぬいぐるみって作れるか?」


「作った奴ならあるよ」


 少年のポケットからそこそこのサイズの縫い物が出てくる。


「これとか、これとか……」


 その中に小さめの人型ぬいぐるみがある。


「これは?」


「ローザ様を知らない? 失敬だね〜」


 聞いたことはある。


「みたこともある」



「見たことあるの!?」


 少年に驚かれた。



「まあ、あるよ」


「ローザ様は二つ付きだけど、値段は一緒だよ?」


「在庫処分か」


「英雄になんて言葉を」


 一応お得らしいので買うことにした。


 結構かわいくできてる。


 でも俺はそんなに持ちたいとは思わない。


 作りすぎだろうな。


「スカーもこの人好きじゃないよ……」


「英雄なんだよ!?」


 少年は俺達の言葉を聞いて、やけに驚いていた。


 礼を言ってその場を後にする。




 しばらく歩いてると、スカーが眠いと言ってきた。


「だから言ったろ」


「でもでも……」


「なんだよ」


「勝手に消えちゃうから、一緒に、居たいんだよぉ」


 俺はため息をついた。


『ごめん、なさい……』


 しゃがんでスカーの方を向く。


「おんぶしてやるから、寝とけ」


 消えるような目に遭った俺が悪いからな。


「やったあ」


 背中に倒れ込むスカーを背負って歩く。


「寝ても、いーい?」


「いいぞ」


 すやあ。そんな音が聞こえる。


 ほぼ寝てないようなもんだし、眠いんだろうな。




 起こさないように歩いて部屋の前に戻ってきた。


 片手でスカーを支えて、なんとか鍵を開ける。


 部屋に入って鍵を閉めた。


「ふう」


 一息ついて寝室に入るとカロンはもう寝ていた。


 ベッドに座って首元に絡んだ手を解く。


 ゆっくり後ろにスカーを寝かせて、カロンの枕元に歩み寄る。


 ローザ様のぬいぐるみを一体、枕元に置いた。


 スカーの近くに戻って、投げ出された足をベッドに戻す。


 正しい体勢で寝てもらわないと俺も寝れない。


 毛布を軽くかけているとスカーのヨダレに気づいた。


 最近、だらしないな。


 舐め取る俺もどうかしてる。


「ん……」


 唸ったスカーは毛布をグチャグチャに蹴って寝返りを打つ。


 なんてことをしてくれるんだ。


 絡まった毛布をスカーから回収して、俺が隣に寝てから掛け直した。



 目を閉じて少し経つと。


『寂しいよ』


 声に気づいて俺は体を起こす。


 寝ているスカーが寝言をボヤいていた。


 手を繋いで寝直しても。


「どこ……」


 そう言って俺の手を何度もにぎにぎしてくる。



 寝言に答えるのは良くない。


「さむいよぉ」


 良くないけど、もう一人の俺には暖かく寝てほしい。



『……えへへ』



 抱きしめる形で答えてしまった。







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最強美少女ギルドに入った俺の初仕事は貰った剣を100億にすること!(クリア報酬→追放)
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