チョロイン
『とにかく、答えてもらいます』
カロンの横でモサモサ食べているスカーが俺を見ている。
「普通かな」
言葉に反応したスカーの目が細くなった。
ジトーって音が聞こえてきそうだ。
「もう一度」
スカーが聞こえてカロンが聞こえないなんてありえるのか?
なんとなく、遊んでみることにした。
「嫌い、かな」
スカーの目が大きく開いたと思ったらぱっちり閉じられる。
目尻を中指で拭うとギロギロ睨んできた。
分かりやすっ!
「あー聞こえませんねぇ」
カロンが隣に置かれた紙を手で引き寄せる。
羽のペンでサラサラ何かを書くと俺にだけ見せてきた。
書かれた文字によると。
好きって言わないとやばい事になりますよ。
「好きかな」
スカーが体を揺らしてニコニコ微笑む。
「聞こえません」
紙に一文字足したカロンがもう一度見せてくる。
『大好き』って言わないとやばい事になりますよ。
そういう違い?
「大好きだよ」
スカーの目がパチパチ開き、椅子から立ち上がると机を回って歩き始めた。
俺の横に立つと。
『スカーもリュウキが大好きっ!』
そう言って頬ずりしてくる。
「や、やめろよ」
「リュウキは、スカーのこと嫌い?」
顔を離して不安そうに聞いてくる。
「そうじゃないが」
「スリスリしたいよ……」
うつむいたスカーが暗くなる。
「好きだから、したい、のに」
今にも泣きそうな声。
『応えてあげてほしいです』
カロンまでそんなことを。
「しないよそんなん」
俺は応えなかった。
「え……」
スカーの目に涙がみるみる溜まっていく。
「ひどいよ」
ポロポロ泣き出してしまった。
えぐえぐ泣きながら肩を震わせるスカー。
『最低ですね』
アルカデリアンを持ったカロンは寝室に消えて行った。
「りゅう、きぃ……」
息をはあはあ吐きながら、顔を手で隠して泣いている。
俺も立って、泣いてしまったスカーを近くで見つめる。
腕を掴んで顔を隠す手をこじ開ける。
俺を認識したスカーがキッと睨んでくる。
「なんで笑うの……」
顔がクシャってなる度に溢れた涙が頬を濡らす。
「かわいいからに決まってるだろ」
うるうる泣いて、悲しげな瞳。
「かわ、いい……?」
本当は思った以上に早く泣き出してしまい、弁明の余地がなかったので機嫌を取っている。
泣き虫め。
「泣いてる姿もかわいいから、泣かせたくなったんだ」
「ひどいよお」
そう言ってわんわん泣いてしまう。
内心は嬉しいのか、顔を隠そうとはしなくなっていた。
涙を脱ぐってやると落ち着きを取り戻していく。
「……嘘泣きだもんっ」
本当に泣いてただろ。
そんなことを言えるわけもないので。
「かわいくて分からなかった」
かわいいということにした。
「えへへ」
さっきの涙が嘘のように笑顔を見せている。
チョロい。間違いなく、チョロい。
「なあ、頼みがあるんだが」
「なになに」
こんなにチョロいと何でもしてくれるのか?
「肩揉んで」
「いいよ」
座るように指示された俺は椅子に座った。
後ろに立ったスカーの手が肩をもみもみ。
力が全くないスカーは握力も当然のようになかった。
気持ち良いとかそういうのはない。
「うお〜」
一応、本気でやってるらしい。
「気持ちいい?」
俺の視界に映り込んで聞いてくるスカー。
「気持ちよくないかな……?」
「気持ちいいよ、ありがとう」
スカーはしっかりやってくれたんだからな。
「えっへん、なんでもできるもん」
調子に乗られるのはつらい。
「そうだな」
適当に応えるとスカーは俺の太ももに座ってきた。
「なにしてんだ」
『スカーも揉んで欲しいんだもん……』
「仕方ないな」
肩に手を置いて親指でグリグリ押してみた。
左右に体を揺らして唸っている。
「揉めねえだろ」
「くすぐったいんだよぉ」
肩が凝ってないって事か。
健康体なスカーから手を離した。
「……やめないでよ」
振り返ったスカーがムッとしながら言ってくる。
「肩が凝ってない人間は揉まなくていい」
「むう……」
「くすぐったいってことは不要の証だ、喜べ」
「ちがう!」
スカーがこっちを向いて座り直す。
これは言い合いになりそうだ。
「触ってよ」
「えーだりい」
「不要じゃないもん……」
口をへの字にして今にも泣きそうな顔。
こうなったら触らないと終わらない。
どうして触って欲しいのか分からないが、肩に手を置くと涙が引いていった。
さっきより優しく揉んでみる。
中指でゆっくり指圧してみる。
「きもちいい」
「そうか」
揉んでいると、スカーの手が俺の下半身に伸びていく。
こっそり伸びていく感じだったが。
「……スカーも触りたいなあ」
しっかりカミングアウトしてきた。
「ああ、いいよ」
どうせ断ったら泣いてくる。
好きなように触らせた。
「気持ちいい?」
スカーに聞かれたが、よく分からなかった。
「セクハラみたいでごめん……」
「俺はそう思ってないから」
中身は俺なんだし、俺のブツを触りたくなる時だってあるだろう。
「うーん」
触ってるのに不満そうなスカー。
「リュウキにセクハラしたい」
なんでしたいのか分からない。
「なにされてもセクハラとは思わないよ」
「スカーのこと嫌いだから……?」
また涙を見せてきた。忙しいヤツだな。
「嫌いじゃないから、セクハラとか考えたことないんだ」
「好きの反対は無関心だもん」
なんとも思わない。これを無関心だと捉えたのか!
「今キスされたらセクハラだな〜」
とりあえず、スカーの望みを叶えることにした。
「しても、いい?」
「確認したらセクハラじゃないだろ?」
「うん!」
のしかかるようなスカーの柔らかい唇を受け止める。
「んんぅ……」
スカーが納得するまで付き合った。
顔を離した本人は嬉しそうに吐息を漏らす。
「どきどき」
そう言って俺の手を取ると胸に持ってきた。
「伝わる?」
トクトク。そんな振動が手に届いている。
頷くとスカーは抱きついてきた。
「リュウキもドキドキして欲しいなあ」
そう言って胸を擦り付けてくる。
俺の胸に確かな鼓動が広がっていく。
スカーの鼓動で感化された俺もドキドキしてくる。
『リュウキも、どきどき、してた!』
嬉しそうに目を見てくる。
合わせると俺の胸に耳を当てて目を閉じた。
「おやすみ」
優しく撫でると答えるように「ん」と言って寝息を立て始めた。
寝るの早いな。
しかし、俺はしばらく動けない事が決まってしまった。
ぼーっとしていると寝室のドアが空いた。
カロンが出てきて、近くの椅子に座る。
『……仲直り、したんです?』
「喧嘩はしてないよ」
「そうですか」
カロンは俺達をじっと見て呟く。
「二人が羨ましいです」