表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/100

絶唱の美声







 サラはもう一度、魔力を解き放った。


 カロンを食らう雷が輝く。


 周囲に光量差で暗闇をもたらす。


『抵抗は無駄』


「くっ……」


 瞬足の稲妻、意識を超えた速さ。


 カロンは無意識に手を向けて大きな水の玉を撃ち出す。


 身代わりとなって拡散していく水玉が光を散らす。


 そこから本命の雷が飛び出し、カロンを喰らった。


 防いでくる可能性を読んでいたサラが二発の魔法を撃っていた。


 圧倒的な威力に、もうカロンは居ない。


 魔力の糸で地面に戻るとリュウキを呼び寄せた。


「終わったのか」


「妹を褒めて」


「えらいぞー」


 リュウキが手を上げてハイタッチの構えを取ると。


 サラは分からないようで手を出さなかった。



「……撫でてくれないんだね」


「違う、俺の手をタッチするんだよ」


「こう?」


 リュウキの手をサラがペチッと叩く。


「喜びをシェアした気分になるだろ」


「……うん」


「だから今ならサラの気持ちわかるよ」


 そう言ってリュウキはサラの頭に触れると。


 撫でて欲しい。そんな小さな願いを叶えた。




 途中でアステルが二人の近くに舞い降りる。


 それに二人は気づいていない。


「はい、決勝にようこそ」


「…………」


「あの……」


 サラがようやく気づいて。


 指をさしてリュウキに気づかせる。


「アステルを指さないでください」


「すみません」


 アステルは咳払いをして話を始める。


「戦う準備はよろしいですか?」


 二人は頷いて前を見据える。


「ふふ、では……」


 星型の陣形がアステルの隣に浮かぶ。


 陣形に手を入れて何かを掴む。


 呼応するように光り輝きながら、ゆっくり引き抜く。


 その手には杖が握られていた。



『手加減は、しませんよ?』



 突風が間を裂く。不動のアステルが髪を揺らす。


 サラは受身を取りながら遠くに着地する。


 踏ん張ろうとしたリュウキはゴロゴロ吹き飛ばされた。


 リュウキの前にサラが作った土剣が二本立つ。


 それを取りながら駆け出す。



『デビルインフィニティ』


 アステルの特異な能力は【絶対詠唱】と魔力を乗せた発声。


 魔法は詠唱した言葉に応えるように必ず発動する。


 それ以外に魔法の動かし方を知らない。


 魔力が溶けた声は広いエリアに青い糸を敷く。


 その魔力こそが、全てを可能にする力。



『ケダモノよ、喰らえ。ケダモノを、殺せ』


 創造された黒い化身が口を開けて唸る。


『ゴアゴア、ゴアゴア!』


 ドスドスと歩き、サラに近づいていく。


「これは俺がやる!」


 剣を握ったリュウキがサラの横を走り抜く。


 化身に武器を振って注目を集めた。


 化身の腹に剣を突き刺し、踏み台にして駆け上がると。


 剣を突き刺してグリグリ痛めつける。


 ユラユラと足を崩し始めていた。



『行け、アクア』


 飛来する数発の水をサラは避ける。


 反撃の炎を飛ばした。


『無効化』


 ブレス状に広がった炎が氷に包まれて消えていく。


 発声した時に広がる空間の魔力は無尽蔵に近い。


 魔法の戦いでは勝てないと判断したサラは腰の刀に触れる。


「……」


 そして離れる。


「どうしますか?」


 先生は先生と言われるだけあって強い。


 リュウキに喜んでもらうなら、なんでも使わなければならない。



 しかし、サラにはどうしても。


 空間から出たら元に戻るとしても。


 腰に付けた刀を壊してしまうことはできなかった。



「勝ちます!」


「そうですか」


 サラは魔力の糸で近づく。


 姿を見せて火球を炸裂するとアステルの視界を煙で潰す。


 もう一度、姿を消して。



 振り返ったアステルの背後で虹色のオーラを広げる。



 そのまま殺す為に手刀を振り下ろした。


 風の魔力で加速しながら、小指側がビシビシと氷の刃を生やす。



『無効化』


 キンッ。


 アステルを守るように氷の剣が手刀を防いで火花が散る。


「ッ……!」


 ありえない。がら空きだったのに。


 サラの目に驚きが宿る。


「魔力の感覚、糸が見えるあなたには分かりませんよね?」


 突然の暴風がサラを吹き飛ばした。


 さっきの出来事が、なかったことにされる。



『オーラルブレイド』


 虹色のオーラを漂わせる光の剣。


 アステルの周囲に一本現れる。


「これも俺がやってやるよ!」


 化身を始末したリュウキが横からアステルに飛び込む。


「ダメ!」


 ブレイドがリュウキを認識すると高速で動き出した。


 繋がっている魔力の糸から少しだけ剣筋が判明する。


 ヒントがそれしかないと言ってもいい音速の居合斬り。


 ギンッ。リュウキは片目を閉じてギリギリ防いだ。


「生きてる……?」


「当たり前だろ、さっさと本命やれ!」



 殺せなかったことを認識したブレイドが輝きを見せてブンブンと斬撃を繰り返す。


 キンキンキンキン。


 交差する光と火花。



 弾いていく姿を横目に、サラは瞬間移動で素早くアステルに近づく。


「諦めが肝心ですよ?」


 最強の魔法使いに裁きを与えることはできない。


『オーバーハザード』


 周囲から魔法の弓矢が吹き荒れる。


 サラは魔力の世界に消えて事なきを得る。


 リュウキの背中にはびっしりと矢が突き立てられていた。


「ぐっ……」


 矢から体内へ冷気が放出され、背中が凍り始める。



 ピキ、ピキ、ピキ。



 ブオンという風を切って振られる音。


 リュウキに触れるギリギリでブレイドは消える。


 全身に刺さった矢の冷気には耐えれそうにない。


 姿を見せたサラがそれに気づいて近寄る。


「リュウキくん!」


「た、戦え、よ」


「凍ってるのに……」


 固まっていくリュウキの頬に触れて、悲しみを見せる。


「いいから、別に」


「もう苦しんで欲しくない!」


 現実に影響を及ばさない空間で心配するサラ。


「……」



『降参する!』


 サラが手をあげるとリュウキの矢が消え始める。



「まあ、妥当でしょう」


 リュウキは「なんで辞めるんだ」と抗議する。


 サラが負けるわけないと信じて疑わないのだ。


「痛い思いして欲しくなくて」


「それは俺も一緒だ」


 アステルは二人の間に割って入り、金属が鳴る袋を渡す。


 中には数十枚のコイン。


「負けたのに」


「準優勝なので、五十枚ですよ」



「……ありがとうございます」


 サラはぺこりとお礼する。リュウキも従ってぺこり。


「では、お先に失礼」


 杖を何もない空間に仕舞うとドアを作って出ていった。




 サラはリュウキの方を見て、何も言わずに右手の平を掲げる。


 嬉しさをシェアするつもりのようだ。



 パチッ。



 乾いた音が鳴った。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます!
最強美少女ギルドに入った俺の初仕事は貰った剣を100億にすること!(クリア報酬→追放)
連載中です!
気に入ってくれた方はブックマーク評価感想して頂けると嬉しいです!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ