クリエ・アステル
『どうかしましたか!』
事態に気づいた隣の人がお姉さんに声をかける。
「それが……0なんです」
「はあ? 何がです?」
「魔力が0なんです!!」
――知ってた。
「え? 0!?」
「本当に、魔力が0なんですよ」
「0……うわほんとだ、0だね」
仕切りにその人達はゼロゼロ連呼していた。
測り直すなら今ですよって感じでうぜぇ。
「もういいっすか」
いいよ、0なんだから。
「お通りください」
後ろに居る奴にまで俺のステータスが暴かれちまった。
妙に視線が痛い気がする。
それはスカーにも聞こえていたようで、合流すると。
『本当にやらかしてんじゃねえよ』
ポコりと頭を叩かれた。
全然痛くねえ。
「それより、実技はどうするんだ」
実技?
「お前、魔力ないだろ? いくら答えが分かってても魔法が使えなかったら無理だぞ」
「確かにな」
それは問題だ、どうにかして超えなきゃならない。
「どうするつもりなんだよ」
いくら俺を虐めるとしても、俺が落ちて欲しいわけではないらしい。
……ちょっとかわいいな!
「考えが無くもない」
色々話していると、いつもの男が現れた。
「次は実技だ」と言い、進む方向を指さす。
『ついてこい』
廊下に出て、しばらく歩いた。
その間に男は魔力については聞いてくる。
「魔力はどうだ?」
スカーは揚々と「一万」と言う。
「一万」
自慢げにもう一回言いやがった。
「……俺は」
傍から見れば、この結果は確かに残念かもしれない。
それでも俺は武勇伝を紡ぐように明るい口調で言ったんだ。
『俺は頑張って抑えたんだが――0だった――――』
「0っていくら掛け算しても0のままなんだってな」
うるせぇ!
「……実技はどうするつもりだ?」
さすがに魔力0は心配らしくて、男は割と真剣に聞いてくる。
炎すら出せてないんだから相当だろ、多分。
「必ず突破するから安心してくれ」
途中で男が立ち止まる。
「あの扉の先が実技だ」そう言うと壁に背中を預けて腕を組む。
『……落ちないで、くれよ』
「「当たり前だろ」」
俺達は声を揃えて扉の中に入る。
この辺は既に沢山の人が集まっていた。窮屈感はない。
広い草原の端っこに居るような気分。
「転移した気分だ……」
転移したからこそ分かるこの感じ。
「そうだな……」
不意に周囲の木が風で揺れる。
まるで木々が風に言わされてザワザワと挨拶しているようだった。
『魔法空間にようこそ』
そんなことを思っていると空から声が聞こえ始める。
『ここは魔術で形成された幻想です』
声の正体を探しているとスカーが空を指差す。
「アレを見ろ」
そこにはふわふわと浮かぶ人影が降りてくるのが見えた。
『私の名前はクリエ・アステル』
地面に降り立つと赤いスカートが風圧で揺れる。
……ノーパン?
「実技に移りたいと思います」
そう言って何もない空間に手を入れる。
『順番は問いません、済ませたい人から前に出なさい』
指を開くと小さな星型の陣形が手の周囲に浮かんだ。
陣形からは古びた杖が現れ、手中の空間まで伸びたソレをゆっくり引き抜いていく。
『じゃあ僕から!』
それを聞いた少年が一番に名乗りを上げる。
俺達に影響が出ないように挑戦者とアステルという人からは、かなりの距離が作られた。
「魔法がわかるように詠唱します」
「はい!」
アステルは杖を振り上げ『マグマレイン』と唱える。
その瞬間、雲一つない青空から少年にだけ赤い雫が降り注がれる。
咄嗟に少年は頭上に手を掲げて大量の水を撃ち出す。
水に触れたマグマは熱の光を失うとただの固形物として落下する。
しばらくするとマグマが止み、辺りに灰色の石が残った。
『合格です』
アステルは小さな拍手を送り、指を鳴らす。
少年の隣に扉が現れた。
「そこから手続きを踏んでください」
「はい!」
お辞儀をした少年が扉の先に行くと、扉も光を放って消えてしまう。
「次は誰でしょう?」
『わ、私が!』
試験内容は本当に単純なモノが多かった。
この女の子には光の刃が飛ぶ。回答は「風の力を自身に当てて素早く避ける」とか。
こんなに簡単なら攻略はできるかもしれない。
誰にも聞かれないようにスカーの肩を持って引き寄せる。
「なんだよ」
「合格方法、見つけた」
耳元で必勝法を囁く。
「……で、できるのかよ?」
「するしかねえ」
四人目の合否が判断された段階で手を上げる。
「俺がやる」
『ワタクシが!』
えっ? 誰?
「二人、ですか」
周りを見てみると俺の他に一人の女子が前に出ている。
赤い髪の気が強そうな女の子。胸がめっちゃ大きい。
……いや誰だよ。
「俺が先だ」
「いえ! ワタクシです!」
本当はどっちでも変わらないが、先に済ませておいた方が良い。
「二人同時でも構いませんよ」
ど、同時? さすがにこれはまずい!
俺の計画は一人前提なのに破綻してしまう!
「じゃあ、お先にどうぞ」
リスクは避けて、一歩下がることにする。
そんなことを考えていたんだが。
「いえ、二人で来なさい」
アステル先生が許さなかった。
戸惑いをスカーに伝えるために意味もなく辺りを何度も見る。
馬鹿みたいに羞恥心覚悟で指を咥えると。ようやく気づいたのか「じゃあ三人でもいいよな」と言って出てきてくれた。
『結構です、その代わり全員が正しく魔法を使用できなければ全員不合格です』
落ちる方が稀だと知っている女の子が「大丈夫です!」と肯定する。
俺はそんなに大丈夫ではないんだが。
少し歩いて三人で横に並ぶ。
「ところで、あなたの魔力は0とお聞きしました」
『少なすぎ』
『これは落ちるね』
挑戦してない奴らが俺を煽る。
「…………」
事実だから否定できない。
「魔法が使えなければ基本的に合格できません。痛い目にあう前に辞退する事を勧めます」
「えっ?」
自信に溢れていた女の子が驚きの眼差しを俺に向ける。
コイツ、俺の魔力を知っててこんなやり方をしたのか?
卑怯すぎだろ!
「魔力? そんなの関係ないな」
ムカつくから、みんなには悪いけど。
『魔力なしで相手にしてやるよ』
俺、魔法使い止めます。