裁き
リュウキは風を切って直線を走る。
少年と少女の魔法が交差してリュウキを狙う。
リュウキは魔法を飛び越えて少年にすかさず近づく。
振り下ろしてから大きく踏み込む斬り上げ。
少年は二連撃をスラリと避けてバックステップを踏む。
クリエイトした土の棒に少年が乗ると。
反応するように棒は高い位置まで伸びていく。
『くたばれ、無能』
有利な位置で無数の火球を突き進める。
リュウキは剣の魔力を利用して土の短刀を作る。
同時に片目を閉じて魔力の糸で魔法の動きを知る。
リュウキの眼前に進んだ火炎が炸裂していく。
飛散する魔力が煙となって互いを見えなくする。
バンバン弾ける魔力。
「ようやく死んだ」
煙が収まった先でリュウキはニヤついた。
握られていた短刀が役目を果たして砂に変わる。
「な、なんで!」
リュウキの背後を狙う一発の魔法。
知っているリュウキは剣を背中に戻す動きをする。
魔法は剣に触れ、奇跡的に無効化された。
「……ッ!」
魔力で図れない部類の強敵。
上位クラスの可能性。少年はそれを悟る。
「お前は最後だな」
リュウキはそう言って少女に近づいていく。
そうはさせまいと少年が魔法を放つ。
横一文字の光の刃。
リュウキは振り返ると体を後ろに倒す。
通り抜けていく刃が少女を切り裂いた。
「きゃ……」
リュウキは地面を蹴って一回転。
綺麗に着地すると追撃するように接近しながら剣を振った。
一撃で鮮血が舞う。
少女の制服を掴んで引き寄せると。
追撃魔法の盾にした。
「やめろ!!」
魔法を少女が受け止め、キラキラと粒子になって消えていく。
「……くそっ」
「仲間殺すとか最低だな?」
リュウキは剣で肩を叩きながら歩み寄る。
「お前だ! 盾にするとかありえない!」
「お前の、魔法が、後先を考えてなかった、違うか?」
リュウキの精神攻撃。
少年は確かに思うところがあった。
今回だけじゃない。何度も自分の仲間を魔法で傷つけた。
その度に気分は最悪で。
もう嫌で。
「仕方なかったんだ……」
よくある事と何度も誤魔化す。
「魔力があるくせに仕方ないとか言うのか?」
「仕方ない! 仕方ない!」
少年は大きな声を張り上げる。
「でも邪魔な仲間は消えた……」
さっきとは比にならない膨大な魔力が周囲を舞う。
繭のように少年を囲う魔力の青い糸。
『クリエイト』
一振りの剣を握り、己の肉体に突き刺す。
「……かはッ!」
血液がビチャビチャ吐き出される。
「知ってるか……血には魔力が、詰まってて……」
血で穢れた声。
リュウキは危険を感じて剣をぶん投げた。
垂直に突き進んだ剣が少年の脳天を貫く。
「が、あ、あ……」
少年はそのまま力尽きた。
「あぶね」
リュウキは魔力がないので、容赦はしない主義だった。
『リュウキくんかっこよかった』
サラはパチパチと手を叩いた。
「そうか?」
「いえ、そんなに」
「……」
めっちゃ歯がゆい褒め方をされた。
俺達は転送されて観戦部屋に戻ってきて。
入れ替わるようにスカーが転送される。
直前まで見ていたのか、俺と目が合うと機嫌が良さそうに笑っていた。
ちなみにスカーは相手を瞬殺した。
言うまでもないくらい圧殺に近かった。
決勝と言うよりは本当の意味で準決勝。
転送された俺とサラは、真面目に戦う存在としての化け物を見る。
スカーとカロン。
「リュウキ〜」
ピョンピョン跳ねて手を振るスカーに応えて振り返す。
戦いの開始はスカーの魔法弾幕で始まる。
実物を見た俺は避け方が分からない。
魔法の壁が迫ってるように感じた。
サラは魔力の糸であっさり突破するとスカーにパンチを放つ。
「顔はやめろ! サラ!」
そういうと控えめに腹パンを狙い始めた。
風の魔法でスカーは吹き飛ぶように避ける。
俺には魔法の壁が迫ってくる。
これ、どうやって避けるの?
密集した魔法の軍団に俺は何もできない。
や、やばい……どうしよう……。
とりあえず、背を向けて手をついてお尻をクイッと上げる。
陸上競技のように全力で魔法から逃げた。
カロンがサラを中心に限定的な嵐を作る。
風が身動きを阻ませる。
その中へ二発の火球が風を破って突き進む。
サラは咄嗟に魔力の世界に溶け込む。
火球同士がぶつかり合い、嵐が消えると姿を現した。
「ずる過ぎません?」
「上位クラスなので」
一瞬でカロンの背後に立つと氷の剣を振るう。
「危ない!」
スカーが気づいて二人の間に風を起こす。
剣先が僅かにカロンの制服を破った。
「埒が明かないわ……」
サラは空に剣を投げる。
魔力の糸に触れて遥か上空に高速移動していく。
サラを狙う魔法が誰もいない空間で弾けた。
飛んでいる剣を握った姿のサラが虹色のオーラと共に姿を見せ、剣を振り上げて推進力を殺す。
風の魔法でふわふわ滞空し始めた。
「降りてー!」
「ずるいです!」
この距離でも出せる魔法の回避は容易くて。
二人の魔法がヒュンヒュン真横に逸れる。
「真の魔法を見せてあげる」
土の魔法が真横を駆け抜けた。
サラが手を掲げて魔法を唱えた。
『インパルスジャッジ』
空に連鎖的な光が宿る。
光に遅れて音がゴロゴロ鳴る。
サラを狙う氷の槍が絶対領域に侵入した瞬間、光が槍を包んで轟音と共に消す。
稲妻、敵には裁きを。
魔力の糸が一点に集約し、傍から見れば光の塊が浮かぶ。
「終わりは、一瞬」
魔力の糸が目的を示すようにスカーへ降り注がれた。
クリエイトされた壁を突き破って雷が吹く。
スカーが気づく前に光は龍のように喰らった。
「……ッ」
何もかもが終わった時、スカーは消えていて。
カロンは後ずさる様に焦げた地面を離れた。
『ワンモア、ループ』