恋言葉
廊下を歩いているが、サラの手が刀から離れることはない。
五十枚って相当の大金なのか?
特に何も言わないサラについていくと。
いつもの教室に着いた。半分くらいの席が空いている。
スカーとカロンはもう来て居た。
ガロードも居たけど金髪ちゃんはいない。
ちょっと残念。
手頃な席に俺達は座った。
スカーは他の生徒にちょくちょく話しかけられていて、まんざらでもないらしい。
身振り手振りで楽しそうに話してる。
俺はというと、閑古鳥どころか誰も鳴いてこない。
どうしてだよ!
「にゃー」
サラだけ鳴きながら背筋を伸ばした。
「サラにゃん〜」
「は?」
仕掛けてきたのはサラなのに。
真面目な顔で呆れられてしまった。
どうしてだよ?
することもないので、スカーの話に聞き耳を立てる。
「すぐに爆発魔法使えるって凄いね!」
「魔力も高そう」
「それで美人……」
讃える言葉にスカーは『そんなんじゃない』の一点張りだった。
ある少年がそんな答えを期待してこんな事を聞く。
「彼氏って居るの?」
聞かれたスカーは少し経ってから頬を赤くする。
目線を下げてギリギリ聞こえるくらいの声で。
『居るよ』
と言った。
「だ、誰?」
指すな、俺を指すな。
そんな願いは簡単に砕けた。
ニヤニヤしながら俺に人差し指を向けやがった。
「あいつ?」
「うん」
誇らしげな顔をしている。
「どこがいい?」
「優しくて、強くて、かっこよくて……」
スカーの恋言葉が噴水のように出てくる。
体を左右に揺らして惚気ける乙女。
そんな気持ちを『魔力ないよ、あいつ』少年は一言でバッサリ切り落とした。
魔力。この世界を語るには必要すぎる力。
そのステータスこそがリスペクト、尊敬の力。
ゼロの俺は無能として有名になった自覚がある。
「なくても強いもん」
「それは剣の勇者だけだって。しかも本当かも分からない書物の神話」
「強いもん……」
スカーが声を震わせて目尻に涙を溜める。
涙脆っ! マジで泣き虫じゃん。
「男子〜、女の子いじめたらダメだよー」
「事実言っただけ」
「スカーちゃんの好きな人を悪く言うのは性格悪いと思うよ」
「……すまない」
知らない女子が間に入ってくれた事で、スカーの号泣は避けられた。
スカーは許してるみたいだが。
俺は絶対に許さないからな。
アステル杯で生き残ってたらボコボコにしてやる。
しばらくすると教室のドアがガラガラ空いた。
一瞬で周囲が静かになり、立っていた生徒が座り始める。
「……今回は少ないようで嬉しいです、大会の概要は聞いてますね?」
何も言わない。すなわち肯定。
「アステルは一人で参加しますが、生徒は二人の参加で構いません」
「先生も参加するんですか!」
みんながわざとらしく「勝てないよー」「えー」とか言う。
「賞金はアステルの給与から天引きされるんです! 阻止は当たり前でしょうが!!」
「確かに!」
「決勝で捻り潰してあげます、せいぜい頑張ることです」
扉を作るとアステル先生は消えていく。
「では、私達も」
サラが俺の手を引いてくる。
「リュウキとやりたいよー」
「私は一人で突破するつもりなので、リュウキくんに負担を与えません」
「むう……」
「準決勝で会える事を願ってます」
スカーに謝る暇もなく連れていかれてしまった。
扉の先は白い空間で先生とモニターのような映像があった。
「戦う人は転送されていきます、負けた人は空間から退場です」
俺達はその場に座って生徒が揃うのを待った。
「では、最初の人を転送します」
スカーとカロン、ガロードと妹が転送される。
初っ端から知り合い同士の戦いを拝めるとはな。
モニターの闘技場のような映像に四人の姿が現れる。
戦いが始まるとスカーが壁のように魔法を連射する。
ガロードは辺り一面に迫る魔法を避ける手段がない。
縫うように交わすことを試みた。
繰り返していくうちに精神がすり減らされ、一発に被弾すると次々の魔法を食らってしまった。
妹の魔法追撃も追いつかない圧倒的な弾幕。
常軌を逸した戦法に観戦していた生徒はどよめいていた。
そのままガロードは力尽き、妹も魔法が追いつかなくなって敗北。
本気を出したスカーは怖い。
スカー達だけ戻ってくると俺達と知らない奴が呼ばれる。
サラに「座ってていいよ 」って言われた。
開始と同時にサラは瞬間移動。
女の子の前に現れると強烈な右ストレートが繰り出される。
気づく間もなく顔面から貰った二人は簡単に終わった。
サラ強すぎ! 女の子も居たのに遠慮がない!
戻ってくるとみんなに俺だけ睨まれた。
簡単に勝てる人と組める俺が羨ましいんだろうな。
戦いが続いてようやく準決勝。
残り四チーム。
この戦いを制した人間がアステル先生に殺される権利を得る。
次の戦いは俺達と……ウザイ少年か。
闘技場で座っていいとサラに指示される。
俺は無視して伝説の剣を握った。
「これは俺がするから座ってろ」
「リュウキくんが言うなら」
サラは素直に座ってくれた。
歩きながら剣の魔力を溶かして。
剣の先に氷の刃を錬成する。
『よくもスカーを泣かせてくれたな』
「な、何が? 魔力がないなら泣かれても仕方ない」
幅があった剣は氷を宿した細身の長剣に変わる。
溶け出た魔力が虹色のオーラとなって剣に舞う。
「人気者の彼氏とやらは主役を気取るから困る」
ゴチャゴチャ言う奴に、剣先を向ける。
『魔力なしで相手にしてやるよ』
一方的に勝利する宣言。
こいつを侮蔑する宣言。