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綺麗なサラ







 サラは座りながら俺達の間にコップと皿を置いた。


 皿の豆類は乾燥させた渋そうな食べ物。


「リュウキくん、一口目をどうぞ」


「払ったサラからでいいよ」


「……飲ませてあげる」


 コップを持つと俺の口に近づけてくる。


 仕方なく口を付けるとクイッとコップが傾いた。


 炭酸ではないが、確かにアルコールを感じさせる。


 微かに甘味も。



 サラのさじ加減で口からコップが離れていく。


 もうちょっと飲みたかった。


「では、私も」


 サラは何の変哲もないコップの向きをわざわざ確認して一口。


 幸せそうにフーっと息を吐いた。


 豆を一粒食べてみる。


 にがっ! なんだこれ!


 コップの酒を飲むとなんとか解消された。


「ふふっ」


 俺を見ていたサラの口角が上がる。


「なんだよ」


「物理的に酒を飲ませるツマミなの」


 まんまと豆の戦略に引っかかったのか俺は。


 悔しい。そう思いつつ豆を口に運んで耐えた。



 風が吹き抜ける。俺達を横切っていく人々。


 その中に、茶色の腕を持つ蒼眼の男が見えた。



「あれってなんなんだ?」


「魔道アーム、何らかの理由で腕を失った人が着ける装具」


「へえ……」


「魔力で動かせるハイテク品だから高いよ」


 うんうん頷いているとサラが豆を摘んだ。


「リュウキくん」


 俺の名前を呼んで口元に手を伸ばす。


 指の豆をパクッと受け取る。


 サラはその手を洗うように先を舐める。


 それからじっくり月を見た。



『月が綺麗ですね』



 文学を込めた言葉。世界が違うサラには届かない言葉。


「リュウキくんと見る月は本当に綺麗(きれい)


「えっ?」


 一緒にずっと見てたいとか、そう言いたいのか?


 いや、サラが知ってるわけ……。


「綺麗じゃない?」


「綺麗だよ」



『では、しばらく見ませんか』


 恥ずかしげもなく言うサラにそういう意味は見えない。


「もっと近づいて見よう」


 手を繋いで月を眺める。


 綺麗な月。静かな夜。綺麗なサラ。


 長いのか短いのか、それさえも分からない時間が経った。


「もう帰りましょう」


 サラが立ちながら言うので俺も立つ。


 サラの背後に立つ学園の屋根に黒い影が見える。


 なんだ、あれ。


 ゴシゴシ拭って見ると装飾の一部だった。




 魔力で来た所まで戻って、サラの部屋まで移動する。


 何も言わずにベッドに寝転がるサラ。


 手招きされてサラの隣で寝てみる。


「お願いします」


 サラが顔を赤くして目を逸らす。


「何が?」


「私の匂いを、嗅いでくれませんか」


「いいよ」


 特に悪い気はしないので、胸に鼻を近づける。


 サラの匂いがする。


「わ、脇も……」


 スンスン嗅ぐ。


 不意に眠気が帯びてきた。


「…………」


「眠い?」


 力が抜けた俺はサラの上で仰向けにされて、逃げれないように腕でホールドされた。


「……」


 どうするつもりだ。


「ちょうどいい抱き物さん、よろしくね」


 ギュウギュウと抱きしめられ、鼻息が首にかかる。


「おやすみなさい」


 特に何もなかった。





 黒い世界を走る感覚。


 多分それは怖くて、何が当たってるのかも分からない。


 ぐちゃ。


「すみません」



 今が暗いから。



 誰か助けてくれよ。


 ずっとずっと走る。何かに追われてる。


 振り返る。黒い影が反り返る。


 なんなんだコイツは。


『オマエ、クウ』


 でも俺は逃げずに立ち塞がる。


 こんな悪夢は塞いでしまえ。


 ああ、怖い。怖いよ。


 ダッシュで突っ込んで肩から飛び込む。


 タックルで吹き飛ばして怪物を踏みつける。


 無我夢中で殴り倒す。


 しばらくすると怪物は動かなくなった。


 消えていく怪物の中からサラが。


「キスしましょう?」


 手を広げて待ち構えるサラの大きな胸に飛び込む。


「良い子です」


 首筋に立てられた牙が撫でるように傷をつけてくる。


「いただきます」


 酷く感じる激痛に歯を食いしばる。


 全身の力と心臓の鼓動が首から抜ける気がした。


 こいつ、サラじゃない。


「……」


 地に伏して尚、貪る女。お前は何者だ?



 次第に世界が光を満ちてきて、明るい天井が映る。


 女は消えていた。


 耳元からサラの唸る声が聞こえる。


 このサラは本当にサラなのか?


 手を解いてゆっくり振り返る。


 サラだった。


「よかった……」


 夢から覚めた俺は小さなサラの胸に顔を埋める。いい匂い。


 罪悪感はほとんどない。ただ、安心する。


 外は明るいのに俺の気分は悪い夢で暗い。



 スリスリして見上げるとサラが起きていた。


「……」


 ちょっと恥ずかしい。


「起きてるなら言えよ」


「お気になさらず」


「気にするわ!」


 サラから飛び退いて背を向ける。


 顔を見られたくない。


「私は気にしないよ」



 細い手が両肩に乗る。



 サラの湿った息が頬を掠めた。



「そ、そんなことより予定は?」


「テストはないかな」


 合法的にサボれるって訳か!


 どうやって過ごそうかな〜。


「……サボれないけど」


「なんだと!」


『私と一緒だから』


 サラの胸が背中に触れる。


 腕が複雑に絡んで俺を離してくれない。


「冗談よ」


「どうかな」


「今日は参加自由のアステル杯があるの、二人で出れる」


 アステル杯?


「なんだそれ」



『優勝した人にはアステル先生の自腹賞金』



「凄いな」


「もちろんアステル先生も出場する」


 するのかよ。先生も賞金は守りたいんだな。


「リュウキくんと出たいな」


「じゃあ出るか!」


 風呂に入って、届いた食事を仲良く食べて士気を整えた。


 心地よい気分で外に出ようとすると。


「一度目のキスを……」


 サラが引き止めてきた。


「近づいてしよう」



 提案すると体が触れそうなほど近づいてきた。



 サラは下手だな、こういうの。


「近いな」


「してくれるまで動きません」


 触れてしまいそうな唇。でも触れることはない。


「……」



 欲しそうに見てくるサラに、俺は応えた。


 ただ柔らかい部分を重ね合う。それだけの動き。



「幸せです」


 サラは青い刀を腰に付けると大切そうに左手を添えた。


『では、行きましょう』








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最強美少女ギルドに入った俺の初仕事は貰った剣を100億にすること!(クリア報酬→追放)
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