二人の妹
『えっ? 何が?』
俺は何も分からないのに、サラは理解したらしい。
「妹さんを殴ろうとしたら止められちゃって」
「そりゃ止めるわ」
「今思えば、庇ってたんだなあと」
しかし、妹か。俺はずっと一人っ子でそういう存在は永遠に叶わなかったな。
「妹欲しいなあ……」
飛び回る妹に優しくするガロードが羨ましい。
『お兄ちゃーん』
耳元で囁かれる声に背筋が震える。
「なんだよスカー」
「妹になってあげてもいいよ?」
態度がデカい妹は欲しくないが、かわいらしいのも事実だ。
「割とありだな」
「ふふふー」
気がつくとサラがスカーに手を向けていて。
魔力の糸が指先から伸びていた。
「や、やめろよ」
スカーを背中に隠してサラの前に立ち塞がる。
『お兄ちゃんが守ってくれた〜』
キャーキャー喜ぶスカーの高い声を聞いたサラが悲しそうな顔をする。
「……」
お前も兄妹は居なかったやつか?
「じゃあ、サラも妹だな」
サラは嬉しそうに笑ってくれた。
「お兄ちゃんには何しても許される! こんな事もー」
下半身に伸びていく手をサラは防ぐ。
「そこは卑猥らしいので」
「触っちゃいけないルールはまだないもん」
言い合う妹達。
『妹同士仲良くしてくれよ』
俺はガロードの観察を再開した。
「今日こそは一緒に帰りたい!」
「ダメだ、することがある」
「友達と遊ぶの?」
「その準備だ」
ガロードは妹を廊下まで追い出すと近くの男女に話しかけていく。
妹は名残惜しそうにガロードを眺め、俺達の横を通り過ぎた。
「ガロードって鈍感だな〜」
「お前もだよ」
真面目なトーンで言われてしまった。
「そうか?」
「うん……」
よく分からんな。
ガロードがナンパしてることに気づいた俺はその場を後にする。
「もっと見てようよ」
「いや、もう飽きた」
「じゃあいいや」
俺の二の腕に細い腕が絡む。
「では、私も」
女二人に腕を取られて歩くのは恥ずかしい。
「そういう意味の兄妹じゃねえんだよ」
俺は二人を振り払い、腕を取られないように組んで歩く。
「違うの?」
「家族だよ、家族」
「よくわかんないや、足触っていい?」
「はあ……」
ベタベタ触ってくるスカーとは違って、サラは特に何もしてこない。
「私も家族に?」
本当は触りたそうだけど。
「やっぱりこういうのって寒いよな〜」
「寒くない!」
「そうか?」
サラがこういうのに肯定的なんて意外だ。
「リュウキくんはいつも素晴らしいモノを私に。否定は罪」
「素晴らしいなんて大袈裟だな」
「そうかも、リュウキくんしかくれないから」
しばらく歩くとサラが廊下を右に曲がった。
「お、おい? こっちだぞ?」
『あなたから頂いたものを反映しようかと』
「ついて行くよ、来て欲しいだろどうせ」
「絶対に来ないでください」
そう言って魔力の糸に消えてしまった。
そんなに来て欲しくないのか!
サラも変わったなー。
「邪魔者は居なくなったね」
「……なあ、サラと仲直りしてもいいんじゃないか?」
「嫌だもん」
スカーは腕に張り付いて離れない。
ヒルみたいに俺の頬を吸う。
「あいつが俺をスカーに預けるって余っ程なんだぞ?」
最初なんて外出を許可してくれてなかった。
「リュウキを殺そうとした存在なんて許したくないもん」
「あいつだって色々あったんだよ、そんな気がする」
童貞の俺より人付き合いが下手なんだ。
何かあってもおかしくない。
「そんなことより、今日はデート日和」
「で、デート?」
「別の国から色々来てるんだって、今日は」
へえ、そうなんだ。面白そうな情報だな。
「行くか」
「いい匂いするね」
「まだ廊下だろ」
「違うよ……」
何が違うんだよ。
学園を出た俺達はいつもと違う方向の屋台に来ていた。
人は沢山居た。大半が制服を着た学園の人達。
『ここでエッチなことするの……?』
歩いてるとスカーが妙なことを言い出す。
「えっ?」
「お尻触ったの知ってるよ?」
触ってない。マジで触ってない。
知らんヤツがすれ違いざまに触ったのか?
なんか腹立つな。ぶっ殺したいけど誰がしたのか分からん。
「ああ、触ったぜ! もっと触っていいか?」
黙っておこう。代わりに俺が触れないように守ればいい。
「……いいよ」
腰に手を回して少し下の部位に触れる。
「撫でて」
空いた手で頭をヨシヨシ。
「違う、お尻!」
「そっちか」
途中でサラを見かけた。何をしてるんだろ。
「これしたいなー」
ストーカーしてみたかったが、スカーに引っ張られてしまった。
『いらっしゃい、ハルトゥス王国から出張してるよ〜』
射的みたいな遊びをしたいらしい。
土でクリエイトされた銃が机にある。
数メートル先に色んなアイテムが並んでいた。
落とせば貰えるようだ。
「する? 五発三枚ね」
スカーが俺を見ている。
数メートル先に欲しい物があるらしい。
俺の二の腕をもみもみ。
俺の肩に顎を乗せて唇を鳴らしたり。
何も言わずにねだるようになったよな、お前。
「さ、させてもらおう」
可愛くねだられたら仕方ないだろ。
コインを渡して五発の銃弾を貰う。
「それ持って、弾入れて、魔法で欲しい的を抜けたらプレゼントするよ」
ライフル銃の横に付けられた棒を引くと中身が見えてきた。
中に弾を一発入れてカシャンと棒を戻す。
「俺が構えるけど、魔法はどうする」
「適当にやるから任せて」
うわあ、めっちゃやる気出してそうな顔してる!
適当。
この言葉でおじさんを安心させて全部かっさらうつもりだ。