暗黒英雄譚
『英雄譚がなんだって?』
ガロードは剣を振りかざしながら攻勢に出る。
「待って! あれは上位クラス並よ!」
「ここは下位クラスだろうが!」
放たれる斬撃を素手で防いだ男は闇の風でカウンターを食らわせる。
「危険な時、色んな時に能力が芽吹くこともあるの!」
「くっ……」
「よく聞いて、能力は生まれた時だけ強くない。闇の人格は戦闘経験が低いから、押し切れば行ける!」
放たれる拳を剣で弾き、ガラ空きの横腹を斬り抜ける。
「耐えて、二人に指示を出してくるわ」
「クソがっ! 早くしやがれ!」
サラは魔力で戻り、膝を着いたままのスカーの肩を掴んで揺する。
「金髪さん! 彼の援護行って!」
「は、はい!」
小さな過ちを引き摺るスカーにサラは腹が立っていた。
「あんた、どんな神経してんの!」
「……」
「リュウキくんにかっこよくクラスで活躍して欲しくない?」
何も言わない、目も合わせない。まるで魂が抜けた姿。
「リュウキくんが好きじゃないの!?」
「……」
「私は好きだから同じチームになって、リュウキくんの為に頑張ってるのに、あんたは……」
愛する人が同じとは思えない気持ちの差。
尽くせてないスカーの姿を、サラは激しく嫌う。
「勝てば、勝てば次があるの、はやく来なさい」
「勝っても怒って殴るよ」
『来なかったら、私が殴って殺してあげるわ』
サラはそう言って魔力に消えていった。
これで負けたら、リュウキは本当に怒る。
スカーもそれは分かっていた。
勝たないと本当に嫌われる。サラの所に行ってしまう。
「それは、ダメ」
濡れた顔を拭って、手を向けて、前に歩き始める。
その手に宿る冷気はガロードに襲い掛かる男の足を容易く凍らせた。
バキバキバキ。
酷く凍りついた足と地面は簡単には離れない。
「……ッ!」
「ラッキー」
男がもたついている間にガロードは大きく振りかぶる。
力任せに叩きつけ、風を切る音が鎧とかち合う。
結果、土の剣が粉々に砕け散った。
「うっわまじかよ」
氷から抜け出した男はタックルでガロードを突き飛ばす。
「くっ……」
サラの元に鎧を鳴らして疾走していく。
流れるように繰り出された拳は何も無い空間に暗黒の波動を生み出す。
空間がバチバチと燃え上がる。
男の背後で虹色のオーラを散らしたサラが真っ赤な火の塊を炸裂させ、反動で大きく距離を取る。
入れ替わるようにガロードが連撃を刻み、剣が壊れるとステップを踏んだ。
「金髪! クリエイトしろ!」
「なにを!」
「デカい剣だ!」
把握した金髪ちゃんはその場で手を合わせるとナムナムと構築し始めた。
『できますよーにできますよーに……』
男は動きを先読みして闇の波動を振りまく。
「がっ……」
引っかかったガロードが奥歯をかみ締めてその場で硬直する。
オーラに手足を押さえつけられ、動きが完全に止まった。
右手に闇をまとわせた男は拳を振りかざした。
怯ませようとサラが魔法を浴びせても微動だにしない。
突きつけられる必殺の右ストレート。
ブォンと風邪を切った拳は空を裂いた。
直前でスカーの風魔法がガロードを強制的に吹き飛ばし、回避を成功させる。
転がったガロードは闇から抜け出し、素早く立ち上がる。
スカーの仕業だと気づいた男は仕留めようと動きだした。
スカーは魔法に身を任せて拳を避ける。
「どうやって勝つんだ?」
「光、高貴なる属性も闇の存在には有効よ」
「お前は使えるのかよ?」
「ちょっとだけなら」
「じゃあ使えよ、馬鹿なのか?」
自前の魔力で剣を生み出し、スカーの援護に向かう。
背後から飛びかかり、鎧の隙間に剣を突き刺す。
肘で飛ばされたガロードは受け身を取り、さらなる魔力を剣に変換する。
『出来たよ!』
「私が光を宿すから、それまで耐えて!」
スカーの体が放たれた闇の波動で動きを奪われる。
「……ッ!」
蝕まれていく銀色の髪に闇の手が向けられる。
轟々と燃え立つ漆黒にスカーは目を閉じた。
『やらせねえよ』
闇の空間に顔から飛び込み、動けないスカーをかっさらっていく。
空間を強引に抜け出したガロードはスカーをその場に置いて守るように立ち塞がる。
『コロソウ……オマエカラ……』
放出される闇の波動を光が切り裂く。
分断された闇を光り輝く剣が飛翔する。
「それで倒して!」
ガロードが剣を受け取るとサラが込めた光が粒子のように散る。
舞った粒子が漆黒をかき消していく。
「ソレハ……!」
『ははっ、俺様の勝ちだな?』
輝かしい剣を両手で握りしめ、一瞬で距離を詰める。
振り下ろすと粒子が舞い、明らかに怯んだ。
斬り上げると真っ黒なアーマーに白い傷が走る。
ガロードはニヤリと笑って光を振るう。
斬って、斬って、斬りまくる。
ガシャン、ガシャン、ガシャン。
金色の粒子が光る度に鎧が剥げ落ちていく。
『ヤ、ヤメロ……!』
よろめく男にガロードは斬り上げながら一歩下がる。
腕はそのままに剣先が剥き出しの制服に狙いをつける。
逆手で持つと強烈な突きを繰り出した。
『グ、グウゥ』
貫いた先から鮮血が吐き出され、膝をついた男の兜が抜け落ちる。
空中で兜は燃え尽きた。男は倒れ伏し、粒子となって消えていく。
『勝者が決まりました、別室でお待ちください』
4人の近くに扉が現れる。
「ふう、上位クラスに進化できたとか羨ましいな」
「あれは寧ろ可哀想よ」
ガロードの妬みをサラは否定する。
「なんでだ?」
「闇の軍勢はあの能力に乗っ取られた人間から構成されてるって聞かない?」
サラは「少なくとも彼はマトモな生活を今後できない」と言う。
「それはつれえな」
「でしょう?」
四人はドアを開け、豪華な一室に立つ。
『おつ〜』
そこにはベッドから足を投げたリュウキの姿。
「死んでた癖にもう帰れただと?」
「気がついたら死んでただけだし!」
それぞれ、次の戦いがはじまるまで思い思いの時間を過ごす。
ガロードはティーを嗜み、金髪ちゃんとサラは魔法について語り合う。
「ご、ごめんね」
スカーはリュウキの隣に座って痛い思いをさせてしまったことを謝る。
『なんのことだ?』
本人は気にしていなかった。