致命的なミス
スカーは金髪ちゃんの近くで佇み、援護を行う。
前線を駆けるガロードとリュウキを邪魔する魔法の無効化と金髪ちゃんの護衛。
やることは山積み。
『きゃっ』
金髪ちゃんに近づいた氷の刃がスカーの風を受けて逸れる。
「ありがとう!」
「……負けたくないだけだからな」
ガロードが白い髪の男に剣を向ける。
『剣術を覚えた僕に近づくとはっ!』
男は叫びながら右手に炎の剣を召喚する。
一歩踏み込みながら振り下ろした。
剣をクロスさせて受け止めたガロードの氷剣が溶ける形で役目を終える。
「これだから氷は嫌いなんだが」
土の剣で弾き飛ばし、一気に剣を叩きつける。
ガキンガキンと何度も唸る剣が大きな火の粉を散らし、男は堪らず横に軸をズラした。
その隙を左手の拳で突く。
「ぐは……」
よろけてうずくまる男に無慈悲な斬撃が下される。
「メインがちげえんだよ、メインが」
周囲に舞い始める粒子を走って裂き、サラの援護に向かった。
「爆発魔法行けるよ!」
「まだ貯めといてくれ!」
リュウキはそう言って目の前の敵と対峙する。
『死ね、無能』
女が中指を空に向けると空に強大な火のフレアが浮かんだ。
喰らってしまえば、この空間に居る存在は全員死ぬかもしれない。
発動される前に勝負を決めるしかない。
リュウキは巨大な剣を振り回す。
時間を稼ぐように距離を取って魔法を放つ女に、ガムシャラで近づく。
見える魔力の糸から魔法を予測して斬撃をかち合わせる。
ダメージを受けた剣に僅かな傷が入った。
ある程度、縮めた距離で魔法の使用を試みる。
速攻で決めるしか魔法を止める手段はない。
背中の伝説を引き抜いて、土のクリエイトで細長い足場を構築して足を踏み入れる。
高く伸びた時の勢いを利用しながら足場を蹴って高く舞う。
大剣を下に向けるとヒビのギミックが機械音と火花を放ちながら開き始める。
中から銃口が姿を現す。展開されると青い光を蓄えた。
「なんだこれ!?」
リュウキが驚く間に極太の青い光が照射される。
銃口が鳴く音と共に放たれた青いビームは対象ごと地面を抉り散らす。強烈な反動が使用者を宙に滞空させる。
堪らずリュウキが空に剣を向けると反動が地面へ誘った。ドスンと周囲を凹ませて地に足をつける。
地面に叩きつけられた武器が放出を中断し、衝撃を利用して剣の姿へガシャンと変形する。
接続面のヒビから白い冷気をボフゥと吐き出した。
相手はもう居ない、フレアが収まり始めている。
後で武器について問い詰めよう。
そう決めたリュウキは二人のカバーに向かった。
「もう爆発したい! 出番欲しい!」
叫ぶ金髪ちゃんにスカーが勝手に許諾する。
「いいの!? どこにどこに!」
嬉しそうなふわふわ笑顔を見せつける金髪ちゃんにスカーは方向を示す。
「……あそこ」
スカーが指さした先はサラが居るエリア。
「おっけー!」
バチバチと周囲の空気が輝きを帯びる。金髪ちゃんの手が本命に向く。
『どかーん!』
その瞬間、辺り一面が光に飲み込まれていく。
リュウキとガロードだけを魔法から守る為に氷で染め上げる。
両手を向けて膨大な魔力を注いでいく。
不意にスカーから光を遮るように人物が姿を現した。
虹色のオーラを放つサラにスカーは目を丸める。
サラは激しい爆音の中で言葉を叫ぶ。
何を言っているのか、スカーには分からなかった。
爆風が収まると氷漬けになったガロードが氷から飛び出る。
リュウキの姿は、なかった。
「えっ――」
『私情を挟むな!!』
サラは驚いた様子のスカーに平手打ちを食らわせると魔力の糸で消えていった。
金髪ちゃんは「あれ?」と首を傾げる。
私欲で使ってもらった魔法に対して、リュウキまで消し飛ばしてしまった。
全部、私欲と自分の魔法で守りきれなかったことが原因。
スカーはその事に辿り着き、ジーンと染みる赤い頬に触れる。
勝敗なんかよりも重大なミス。
きっと、熱くて、苦しい目にあって消えた。
そう思うと目から出てくるモノを抑えきれなかった。
きっと怒ってる、サラを消したい一心で爆発魔法を出させた事に。
「嫌われ、ちゃう、かな……?」
「だいじょーぶ?」
生き返ったガロードは剣を拾って素早く駆け出す。
終わりのアナウンスがないということは、あの爆発を食らって生きている人間がいる。
早く、早く。トドメを刺さなければ。
「まさか、生きてるの?」
サラも自分以外で爆発から生き残れる人間は聞いたことがなかった。
「リュウキは?」
「あの馬鹿女が殺したわ」
「金髪か? やっぱ味方には無慈悲だな」
「決断は、あの馬鹿よ」
周囲を見て、ガロードは倒れた人間に気づいた。
戦えない人間は本来粒子となって消えていく。
必然的に残っている人間は生存者。
土の剣を振り下ろすとカキンと魔法で弾かれる。
倒れていた男がゆっくり立ち上がる。
その間に振り下ろされた剣はカンカン弾かれていく。
サラの魔法も通らない。
「解放する時が来タゼ」
言葉と共に黒いオーラが男を包み、全身が黒い鎧に染まる。
『次の僕に、タくしタよ』
声が次第にノイズへと変わる。
漆黒の煙が世界に不穏を見せる。
『暗黒英雄譚、ハジメヨウカ』