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時既に時間切れ





 城を出た俺達は冒険者に紛れて歩いていた。


 なんというか、思ってたのと違う。



『王族の娘でさえ護衛は一人なのか』



「存在が公にされていない以上、我一人で処理できない問題が生まれるはずもないのだからな」


 確かに、スカーを見て振り返る人はまだ見た事がない。




 それからは何も起きずに街の門を潜って外に出ることができた。


 近くに馬車がある。どうやらこれで移動するらしい。


 馬の後ろに付けられた小さな小屋は思ったより大きかった。


御者(ぎょしゃ)でさえ我々の身分を知らない』


「御者ってなんだ?」


「馬を操れる者達の事だ」


 そう言って男が先に入り、続いてスカーが入っていく。


 俺はスカーの隣に座った。


 屋根があるおかげで歩いている時よりも涼しく感じる。


 しばらくすると声が聞こえてきた。



『行き先はコキュートス帝国だと聞いておりますが』



 このスペースは御者側から見られないように木の板で仕切られているせいか、向こうの声は篭って聞こえる。


「変更はない」


 しばらくすると馬が声高に鳴き、馬車がガタガタ揺れ始めた。


 同時にスカーが口を開く。


『いつ頃に着くんだろうな』


「お、おいっ!」


 俺は咄嗟にスカーの口を塞ぐ。


 しかし、時既に時間切れ。


 その風貌と声質からは不自然な言葉遣いに男が二度見。


 もうダメかと思っていたが「王の前では隠せ」と言って男は視線を逸らした。


 助かったか。


「んーんー!」


 唸るスカーに俺は手を離す。


「っはぁ、離せよな」


 女の子ってだけあって柔らかいな……。


 手のひらに、唇の感触が少しだけ残っていた。


「なあ、何か言えよ」


『悪かったな』


「許す」






 それから暫く揺られ続け、痺れを切らしたスカーが言葉を漏らす。


「いつ着く?」


 いくら馬車が大きくとも、横たわれるような広さは確保されてない。


 はっきり言って窮屈。


「言わないでおこう」


「なんでだよ」



『人はあまりにも遠いゴールが見えてしまうと想像して圧倒されてしまう』


『我々は思う以上に弱々しい』と言った。



 そんなに遠いのか……!


 聞いていた俺はスカーと目を合わせ、静かに肩を落とした。





 揺らされて何分経ったなんて知る事はできない。


 一つ確かなのはめちゃくちゃ腹が減った。


 ギュル〜って鳴らしたのも俺で、気づいた男が俺を見た。


「腹が減っているのか」


「起きてから何も」


「ならば、これを」


 男は天井に吊るされた(かご)から二切れのパンが入った袋と膨らんだ皮袋を取って差し出してくれた。


「これは?」


 皮袋の中身は分からない。揺らすとチャプチャプ跳ねる音が聞こえる。


「水だ、安心していい」


「助かる」


 水袋を膝の上に置いてパンを一切れ取り出す。


「いらないと思うが、パンいる?」



『食べる!』



 スカーは、そう言うと(つま)んでいたパンを盗んでいった。


 袋から取ればいいのに。


 仕方なく、もう一枚取り出して歯で咥えた。


 テコの原理で折ると小気味よい音を立てる。


 パンというよりはラスクか?


 甘さはなくて、ただ硬いパン。


 保存できるように乾燥させたようだ。


「水も飲んでいい?」


 もう食べ終えたスカーが水袋を指さした。


「いいよ」


「よっしゃあ」


 意気揚々と水袋を手のひらで挟むスカーだったが、途端に表情が曇っていく。


「どうしたんだ?」


「やべぇ、持ち上げれねえ……」


 挟んだ手をプルプルさせるスカー。袋が動くことはない。


 どうやら本当に持ち上げれないみたいで、めちゃくちゃ落胆していた。



『か弱き女子(おなご)には少々重いだろう』



 男がフォローしてくれたけど中身が男のコイツには意味がない。


『オレって力すらねぇのかよ』


「じゃあ飲むの諦めるか」


「いや、飲む! 飲ませてくれ!」


「はあ?」


 かなり飲みたいらしく、方法までレクチャーしてきた。



「こんな感じでやってくれよ!」


「なんか嫌だけどなあ……」


「美少女とできるって思えばプラマイプラスだろ」


 中身も美少女なら逆に金払ってお願いするんだけどな。


「ああ、分かったよ」


 俺は水袋を持ち上げて座れる場所を作った。


「じゃ、頼むぜ」


 俺の太ももに移ると容赦なく背中も預けてきた。


 似たような身長だからか、鼻に銀色の頭がちょうど来る。


 頂点のつむじから女性的な匂いがした。


「……早くしてくれよ」


 手を前に持っていき、水袋をスカーの口元に近づける。


「開け方がわからねえ」


「丸い装飾品が付いている紐があるだろう? それを引っ張っている間だけ飲めるようになっている」


 引っ張ってみると微かに水袋が膨らんだ。


 後ろからじゃ口が分からないな、横から見てみるか。


 顎をスカーの肩に乗せてみた。いい匂いがする。


「う、うわ……」


「どうかしたか?」



『肩が重いからやめてくれ』


 明らかに嫌そうな口調だ。



「口が見えないから仕方ないだろうが」


『別に肩まで近くで見なくてもいい視力あるよな?』


「それもそうだな」


 少し顔を離しながら口元に合わせて水袋を傾ける。


 袋の口からキラキラした水が流れ始め、スカーの口元に吸い込まれていった。



『んぐっ、んぐっ……』



 至近距離で飲んでいるからか、音で水を飲んだタイミングが分かってしまう。


「満足したら俺を叩いてくれ」


 しばらくしてからパチパチと腕を叩かれた。


 斜めにしていた水袋の口を上に向ける。


美味(おい)しかった!」


「それは良かったな」


「ああ!」


 ……。


 …………。


「そろそろ退いてくれるか?」


「ここでゆっくりさせてもらうわ」


「はあ?」



「女の子と密着できるって思えば、な?」


 本当は俺も水が飲みたかったんだけど!




 俺は水袋の紐を手離した。










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最強美少女ギルドに入った俺の初仕事は貰った剣を100億にすること!(クリア報酬→追放)
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