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お花さん







 鍵を差すとあっさり開いた。没収されてないのはラッキー。


 久々に感じる部屋の香りを嗅ぎながら静かに歩く。


 自分が居た部屋なのに入ったら行けない感覚だ。


 寝室に入るとスカーは俺のベッドで寝ていた。


 俺があげたクソダサジャケットを大切そうに抱きしめている。


 近くで顔を見てみると泣き跡がビッシリ。


 ベッドに上がってスカーを覆う。


「起きろ」


 耳元で囁くとスカーの瞼が重そうに上がる。


 俺に気づくと。


『来て、くれたの……』


 眠そうな声を出す。まるで夢の国に居るように俺と目を合わせない。


「どうして欲しい?」


 じゃあ夢らしく振舞ってやろうじゃねえか。


「寂しいから握って欲しい」


 そう言ってスカーは左手で空気を何度か握る。


 開いた時に俺は指を絡めた。



 汗で互いの手のひらがくっつく。



「次は?」


「撫でて欲しい」


 右手でスカーの頭を優しく撫でる。スカーの口が緩んで行く。


 俺は右肘でなんとか体のバランスを保った。


「次は?」


「チューして」


 そう言うとペロッと舌を出して目を閉じる。


 乾いた舌を俺の口で包んで唾液を装填させる。


 それから……どうすればいいんだ?


 なかなか初々しい事をしてる。


 こういうのは得意じゃない、口を重ねるだけで満足してくれ。


 口を離して次を問う。帰ってきた答えは。


「一緒に居て」


 夜が明けるまでなら居てやれるかな。


 起きないようにベッドの端っこでじっと待つことにした。




 長い時間をスカーの観察に費やす。


 不思議と無駄な時間とは思わなかった。


『りゅうき』


 時々俺の名前を呼んでくる。よっぽど悔しかったんだろうな。


 サラともう一回戦って自由をもぎ取ってやる事を胸に決める。


 一人じゃダメだったが二人ならもしかしたら……。




 日が登りそうな時間にスカーを揺さぶる。


 ユサユサ揺らすと目をパチパチさせて俺を見つめる。


 何も言わずに抱きついてきた。


『夢で会えたのにもう一回会えるなんて……!』


 俺の首に鼻を近づけてスンスン嗅いでくる。


「約束したからな」


「いい匂い」


「抜け出してきたからもう帰るけど」


「また来る?」


「バレてなかったら」


 スカーを背中を撫でて落ち着かせる。


「お願い、ズボンちょうだい」


 体を引いて俺の顔を見ると妙な事を言い出した。


「お前がいない間、オレはお前になりたい」


 ジャケット、ズボンも付けたらそりゃ服装は俺に近いな。


「いいが……」


「脱いで脱いで」


 ベッドから離れた俺は、急かされながらズボンを脱いだ。



 俺にパンツは存在しないので前に屈んで分身をシャツに隠す。



「俺は何を履けばいいんだよ」


「まだ制服は残ってるから」


 そう言ってスカーは俺の目の前で寝巻きの短パンを脱ぎ捨てる。


 そこから先はまさかのノーパン。


「なんでノーパンなんだよ」


「この世界にパンツは存在しない」


「俺がサラのノーパン見た時覚えてんの? めちゃくちゃ説教してきたじゃん」


「カマをかけた」


 騙されたのか俺!


「ってなんとも思わない?」


「何が」


「女の象徴を見て」


 そう言って見せつけるようにシャツをひらひら。


「自分のブツを見てなんとも思わないだろ? それと一緒」


「むう……」


 不服そうなスカーは俺のズボンを着こなしてジャケットに身を包む。


 少しスカーには大きいサイズなのか、袖から指先しか出てない。


「汗かかないようにしなきゃ」


「別にいいよ」



『お前の匂いが消えちゃうんだよ』



 俺はスペアのズボンを履いておこう。同じ服じゃないとサラに怪しまれるからな。


「じゃ、ちょっとだけ学園デートだな」


 みんながまだ寝てる時間に部屋を出て、静かな廊下をカツカツ鳴らす。




 学園から出ると一輪の花に気づいた。


「あのお花綺麗だね」


 石が敷き詰められた地面に咲く赤い花。


 腕を絡めたスカーが俺を巻き込んでグイグイ花に近づく。


「こういうの好きなのか?」


「うん」


 しゃがんで見つめるスカーに習って俺も近くで見てみる。



 五枚の花びらにはそれぞれ綺麗な模様がある。花びらが囲う真ん中の部分には黄色く伸びた芽が小さな虫を誘う。



「お花さん、見ててね」


 横で何か呟き、気づいた時には頬に優しい感触がはじける。


 振り向くと頬を赤くしながら俺を見ていた。


「……」


 応えるようにスカーの頬に唇を押し付ける。お返しだ。


「は、はずかしい」


 ついに両手で顔を隠し始める。


「そうか?」


 隠しきれてない唇をもう一度だけ盗む。



「お花さんが見てるから……」


 気づいたスカーの手が口元をシュッと隠す。


「お前、変わったな」


「へんかな」


「可愛くなった」


 痺れた足で立ち上がり、スカーに手を差し伸べる。


「かわいい…………」


「もう行くぞ、恥ずかしいから」


「うん……!」


 ギュッと掴んだスカーを引き上げ、目的地に向かう。



 明るくなり始めた空を見ながら歩く。踏んだ石の色がハッキリしてくる。



「どこ行くの?」


「もう着く」


 サラの部屋の下で足を止める。


 俺が踏み荒らした跡が残った草の場所。


「どうやって帰るの?」


 スカーの率直な疑問に教えてやりたいが、敵を欺くには仲間からってよく言うよな。


「とりあえず魔力を空いた窓の中に注いでくれるか?」


「あ、あぁ……」


 不思議そうにスカーは人差し指を窓に向ける。



 右目を閉じると青い線が窓の中に伸びていく。左目を閉じても見える。



「もういいよ、ありがとう」


「分かった」


 俺はこのままスカーをいつもの部屋の前までエスコートした。


 使う場面を見て欲しくないし、女の子に一人で帰って欲しくない。


「じゃ、今日も頑張ろうな」


 なかなか右手を離してくれないスカーをなんとか説得して許してもらう。


「ごめん……」


 部屋の前で別れてサラの部屋の下に急いで戻る。



 魔力の前に立って左目を閉じる。


 まだ魔力は部屋の中まで繋がっている。


 深く息を吸い、フッと吐く。



 魔力に乗りたい。



 そう思いながら右手で魔力の糸を掴む。瞬く間に世界が青色に染まり上がる。


 グイグイと魔力に引き上げられ、一瞬にしてサラの部屋に俺は立っていた。


 世界が色を取り戻した時。


 俺は思った。ピンク色の部屋だなあ。


 片目を閉じて魔力にお礼する。


 なんとなく『いえいえ』とでも言いたげに揺れていた。




 不意にドアがカチャリと開いた。




 ベッドに寝転がり、寝たような雰囲気を作る。


 トットットッ。歩く音が近づいていく。


『サラ様、お目覚め下さい』


 布類が擦れる音と本人の唸る声。


「うーん……」



「さ、サラ様? 顔が少々お赤いですよ?」


 俺はオジサンの声で目覚めた設定で体を起こす。


「一体何が……?」


 近づいて見てみるとめちゃくちゃ辛そうに唸る本人が。



「サラ様の体が熱っぽいのです」



 どうやら、サラに風邪が移ったらしい。










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最強美少女ギルドに入った俺の初仕事は貰った剣を100億にすること!(クリア報酬→追放)
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