上位権限
なにこれ? さっきまで見えなかったよな。
片目を閉じてふにゃふにゃ糸のように漂う何かを見つめて考える。
目を開くと見えなくなる。
『どうしたの?』
サラに怪しまれてしまった。
でもこれが本当なら俺はサラと近い状態にある。
これは上手く活用できるかもしれない。
「いや、どうやってこの能力に気づいたんだろって思ってな」
黙っておこう。
「魔力を摘んで移動する夢を見てからかな?」
「へえ?」
「それから実際に魔力を出して触れたら、本当に移動できてこんな感じよ」
これって体験すると誰でも使えるようになるんじゃないか?
「でも自慢げに使うのはやめてくれよ」
「どうして?」
「めちゃくちゃ気持ち悪いんだ」
この技術は封印しておきてえ、俺とサラしか使えないとか最強じゃん。
ああ、でも俺は魔力ないからダメだな。
「そう?」
「それよりそんなん見えてたら敵の魔法がどこで発動するのか分かるよな」
「もちろん、これで成り上がりましたから」
しばらく歩いてサラの部屋に案内される。
ドアの前には黒い服を着たオジサンが佇んでいる。
『おかえりなさいませ、サラ様』
気づいたオジサンがドアを開いて手招いた。
「女王なの?」
「上位クラスだとこんなもん」
すげーな上位って。
「元なのに?」
「こういうのは変化しないから」
部屋の中はメルヘンな世界が広がっていて、ピンク一色なのはサラの好みらしい。
城の中で休んだ時のようにキラキラしたテーブルにコップが置かれてる。
「好きに過ごしていいよ」
俺らとはマジで違う……。
「本当か!」
『しばらくは外にも出れないからね』
「えっ?」
外に出れない?
「あの子と会って欲しくないから」
「そこまで俺とスカーの仲を裂きたいのか?」
「放置した罪は重いのよ」
殺そうとしてきたのが悪いんだけどな!
「満足したら戻してくれ」
「それはありえない」
「でもテストとか」
「それは……」
サラがずいっと俺に歩み寄る。顔が近い。
「キスしてくれたら上位権限で合格したことにしてあげる」
「はっ?」
なんでしなきゃいけないんだよ、サラは美人だけど……。
「あなたは正式にあの子を裏切る、どうこの気持ち?」
「いやー余裕だな」
美人相手なので全然余裕です。
ササッと重ねて満足させる。俺は嫌がらせを込めて舌を口内に差し込んだ。
思い通りに事が運ぶことを祈った甘い時間。
サラは顔を赤くして口元を隠す。
「リュウキくんってクズ?」
「そうかもしれない」
本当の意味でな。
それからしばらく過ごした。
トイレは隣に水をぶっかける容器を構えてもらった。
対応が早くて助かる。
風呂? 風邪ぶり返したくないのでやめといた。
夜になるとサラはベッドに寝転がる。
「一緒に寝ますか?」
「いいの?」
「彼女に対して悪いと思わないなら」
いやらしい聞き方をしてくるな。
「なんかサラって曲がってるよな」
「そう?」
「そんな気がする」
「気のせいです」
俺は空いたベッドに身を潜める。
気がついたらランプの光が消えて暗くなった。
窓が月の光を俺に当ててくる。
カーテンはないが、寝たくもないからちょうどいい。
しばらく経ってサラの寝息が聞こえる。
『もうやめて……』
忍び足でドアに向かって歩いていた俺は寝言に驚いた。
『外出許可はあなたにありません』
開けたらオジサンに閉められてしまった。
部屋の外で監視されてるみたいだ。
作戦失敗、どうしよう。
ベッドに戻って窓を開けてみる。
この高さは三階くらいか? 地面が遠いが緑色の草が生い茂っていて柔らかそうだ。
階段なんて登ってないのに、ここが高い位置ってどういう事だ?
なんでもいいか、飛び降りればスカーに会えるんだから。
まだ風邪が残って辛いが約束したんだ、片足折ってでも会いに行ってやる。
外に足を投げて、窓の縁を掴んでぶら下がる。
少しでも飛び降りる高さを減らしつつ、建物から距離をとりながら落下する。
地面を見ながら着地するタイミングに合わせて腰を落とす。
ドシンと足に衝撃が走る。
同時に手を着いて衝撃を分散させる。
「……ッ!」
足が痛い。でも折れてはなさそう。
これも運動神経が強化されてるお陰だ。スカーだったら死んでたな。
「ふう」
近くの壁を超えて学園の周りを見ていく。
暗いが月明かりで割と見える。誰も居ないのが好都合だ。
石で整えられた場所を歩きながら開けっ放しの入口を潜る。
ポスターを見て場所を確認。ここから入ったことないから見ておかないと。
通る廊下を確認して昨日まで暮らしていた部屋の前に立った。
ドアノブを引く。
ガチャガチャ。開いてねえのかよ、行くって言ったのに。
うわ、どうしよ!
制服のポケットをまさぐってみる。
……見覚えのある鍵が出てきた。