クリエイトフィールド
先手を取ったカロンが暴風を全体に生み出す。
『このままオジャンです!』
荒れ狂う風の流れは刃のようにガロードを切り裂く。
そして身動きを制限する。
「いってぇな……!」
腕が切れ、足が切れ、顔が切れる。
鮮血が周囲に飛ぶと奥歯を噛みしめた。
「痛い想いをしたくないなら、今ですよ」
『それは、ねえよ』
ガロードは土の剣を召喚して地面に突き立てる。
強く握って全ての魔力を解き放つ。
剣を伝って魔力を帯びた周囲が綺麗な虹色に染まる。
『クリエイト!』
生み出すのは火災、創り出すのはフィールド。
瞬く間に世界が火に染まり上がる。
ゴウゴウと燃え立つ地面が風の時代に終わりを告げる。
「……ッ!」
剣を引き抜いて両手で握り直すと火を踏みながら走り抜ける。
飛んできた水の玉を切って距離を詰める。
突如として二人の間に土の壁が現れる。
成長する前に飛び越えて一気に振り下ろす。カロンは寸前で横にズレて魔法を放った。
ガロードが受け止めた水は弾け、地面を消火する。
そのままブンブン土の剣を振り回して近い間合いを維持する。
「くっ……」
カロンは立ち回りからガロードにもう魔力がない事に気づく。
「もう終わりです」
至近距離で風を当てて突き飛ばし、安全な状況で風を纏う。
地面からカロンの足を離れ始める。
「させるかよ!」
ガロードは土の剣を突き立ててその上に右足を置く。
そのまま剣を蹴って空を駆け上がる。
手を限界まで伸ばしてカロンの足首を掴んだ。
「お、降りなさい!」
カロンは足を振りながら手をかざして魔法を撃ち込む。
焦りからか全て外れ、あっさり登られてしまう。
「どこ触ってるんです! 変態! 変態!」
登ったガロードは背中から首に腕を回す。
そのまま、キリキリと首を締めていく。
「このまま息の根を止めて終わりだ」
「くぁ……!」
もがくカロンは風を操って地面に対して背を向ける。
指を振って空から風を撃ち出し、影響を受け始めた二人は急速に地面へ接近していく。
「マジかよ」
どちらかが気を失って負ける。
狂気のギャンブルに身を任せた二人は痛そうな音と共に砂煙を巻き起こした。
下敷きとなったガロードは粒子となって消え始め、ズタボロのカロンがよろよろと立ち上がる。
『勝者が決まりました』
復讐に成功したカロンは転がるように台から降りていった。
マジでガロードかっこよかったなあ。あんなのしてみてぇ。
観戦していた俺は未だにスカーに口を塞がれていて、何も言えねえ。
『リュウキはサラとオレ、どっちがいいの?』
「……」
傍から見れば考えてそうな長い沈黙。
ま、塞がれてて喋れないだけなんだけどな!
「言わないなら耳舐めるよ」
暖かくてヌメヌメしたモノが強制的に耳たぶに触れる。
控えめに触れてくる感覚にゾワゾワする。
『メーナスさん』
『スカーさん』
呼ばれたスカーの手が口から離れる。
「速攻で勝負決めてくる」
冷気を手に握りながら舞台に上がっていく。
戦いが始まると一歩踏み出したメーナスの足が凍りつく。
『ッ!?』
急速に氷が全身を侵してメーナスを覆う。
メーナスが動くことはもうない。
『勝者が決まりました』
誇らしげにスカーが戻ってくる。
「ほらな!」
『フライングしましたね』
サラが横槍を入れてきた。
「ばかばか!」
「戦う前から対戦相手の足元に魔力の光があったので」
「ただの予想じゃん!」
「リュウキくん、こんなズルい子よりも私のそばに居たいよね?」
そう言ってサラは嵐のように去っていく。
「うえーんうえーん」
なんてことしてくれたんだ!
機嫌が悪いスカーは面倒なんだぞ!
「大丈夫かよ?」
スカーが滝の涙を流す。マジで滝のような涙で脱水症状が心配だ。
「うえーん」
仕方なく涙を止めようとハンカチを取り出すと。
ピタリと止む。
「嘘泣きでしたー」
めんどくさ。
「水分えぐいな」
「目から魔法で水出してるだけだよ。飲んでみる?」
「飲まん」
それからしばらく戦いが続き、最後にカロンがもう一回戦う事になった。
準決勝くらいだよな? 相当の手練、誰だろうか。
カロンに続いて舞台に上がったのは。
サラサラと揺れる金色の髪。あれは……そう。
金髪ちゃんだ!!
最近まで元気なかったけど、今は元気が溢れ出てる!
「金髪ちゃーん! がんばれー!」
風邪に侵された体にムチを打って金髪ちゃんに声援を送る。
『がんばるねー!』
手まで振ってくれた! 大きく振ってくれててかわいい!
俺もなんとか手を振り返した。
『仲良くすんな』
不意にスカーがそんなことを言う。まだ機嫌が悪いのか!
「なにが?」
「あの子と話して欲しくない」
「サラはわかるけど金髪ちゃんは別に」
「じゃあなんでオレには応援してくれないんだ?」
「そりゃあ、余裕で勝つからに決まってる」
最強って分かりきってるから、見てて安心できる。
「……分かんないのか、オレの気持ち」
「分かんねえから、遠慮なく言ってくれ」
『ばか…………』
掠れた声でそう言うと俺から背を向ける。
銀色の長い髪が、体の動きに釣られてふんわり舞う。
……馬鹿ってなんだよバカって。