俺様
口の中の感覚がなくなっていく。
まるで俺の口だけ異界に転送されたような。
「……! ……!」
喋る言葉も持ってかれて。
ああ、死んでいく感覚ってこれなんだろうな……。
動けない俺の頬をスカーがペロペロ舐め始めて。
全てを諦めた俺は目を閉じる。
『いや、死んでねえよ』
えっ?
「死んでないの?」
気がつくとガロードがそこに居た。
周りを見るとさっきまで戦った仲間も居る。
「死なないように魔法空間でやってんだよ」
この辺は白い空間で宙にスカーが映ったモニターが浮いている。
観戦ルームってこれか。
「へえー」
「しっかし、負けちまったかあ」
「そうだな」
「あいつ強すぎ」
激しく同意。
映像を眺めているとスカーの近くにゴリ先生が現れ、何やら話し合っていた。
「なんの話してんだろうな」
音が聞こえなくて分からない。
「報酬選びだろ、どんなルールでも勝ち残ったヤツだけ得ることができる」
でもスカーは何も受け取る様子を見せなかった。そのままドアから姿を消す。
ゴリ先生がドアをくぐると俺達の前に現れる。
「お疲れだったなー、もう帰っていいぞ」
そう言って先生が新しい扉を作る。俺は素早く通る事にした。
教室に戻って周りを見るが、スカーの姿はない。
じゃあ俺も帰るか!
『お前、暇か?』
帰宅精神を燃やしていたらガロードが呼び止めてきた。
「……まあ」
「遊ばないか」
たまには男と何かするのも悪くない。
「いいぜ」
「よしきた」
廊下を歩きながらガロードが何をするのか聞いてみる。
「あ? 分かんねえのか」
「わからん」
「男同士ですることって言ったら、ナンパだろうが」
正気かよ。
女の子はスカーとカロンで満足なんだけど。
「で、女と遊ぶ。これだな」
「今度にしてくんね?」
「しょうがねえ、その代わり今度は合コンな」
結局女なのか。
「その時はよ……」
不意にガロードと見知らぬ男の肩がぶつかる。
男が「ってえ、何しやがんだ!」と叫ぶ。
キレ散らかしながら『俺様にたてつくんじゃねえ!』大して悪くもないガロードを怒鳴った。
この言葉遣いに妙な既視感が走る。
「俺様に謝るなら許してやらんでもない」
俺の魔力を0だと罵ったガキ大将だった。
「あぁ? お前ムカつくな……」
ガロードも苛立ちを隠せずにずんずん歩み寄る。
「やるつもりか? この俺様と」
『俺様だと……? それを使っていいのは俺様だけだろうが!!』
一瞬で土の剣をガキ大将に向ける。
声に反応した周りの奴が、何事かと二人を見る。
「くうぅ」
ガロードの鋭い剣幕にガキ大将が一歩下がる。
「お、覚えとけよぉ!」
そのままガキ大将は逃げていった。ちょっとスッキリした。
「悪い、今日はやっぱやめるわ」
そう言って土の剣を手放す。
「今度カード触りながら合コンな」
ガロードは足早に帰っていった。
かなりイラついてたな……。
俺も部屋に戻ることにした。
部屋ではいつもの二人がその辺に転がってる。
「ねえねえリュウキー」
俺に気づいたスカーがトコトコ歩いてくる。
「なんか作ってー」
「なんでだよ」
「ほしーいー」
まだプレゼントの件を引きずってやがる。
俺ってこんなにワガママだったか?
面倒だから今済む対価で済ませておこう。
「キスしてやるから何も言うな」
「それって愛の告白?」
スカーがぽっと顔を赤くする。
「違う」
「して貰えるのも割と……」
さらに顔を赤くする。俺の話を聞いてないな。
「してして、ここに」
スカーがすぼめた唇をピッピと人差し指で示す。
これで満足するならしてやろう。
スカーの目線に合わせて一瞬だけ唇を重ねる。
チュッ。そんな音。
「満足か」
「童貞のキスみたい」
なにそれ腹立つんですけど。
「じゃあ童貞じゃないキスってなんだよ」
「それはもう、長時間ちゅーって」
「もう一回しようか」
さすがにこんなこと言われたら男の威厳が損なわれる。
「来てみろー」
舞台を移してその辺に腰を下ろす。
スカーが俺の近くに座ってその時を待ち始める。
目を閉じて唇を向ける姿は餌を待つ雛っぽい。
「はやくはやく」
楽な姿勢でまた唇を押し付けた。
「……」
鼻で呼吸しながらずーっと待つ。
「…………」
しばらくすると勝手にスカーが唇を離して敗走する。
「っはぁ、はぁ」
顔を真っ赤にして息を荒らげる。
「息止めてたのか?」
「あ、当たり前だろ!」
「お前の方が童貞じゃん」
さすがにそれは童貞レベルが高い。
「……もう一回しない?」
「俺はもうしない」
「む、無限にできそうだったのにっ……」
負けたスカーがガクッとうなだれる。
「まあいいや」
そう言ってだらしなく移動すると。
あぐらをかいた俺の足に座り込んだ。
「なにしてんだ」
「別にー」
人との距離感がおかしくなってしまいそうだ。
スカーは何を思って俺に座るんだろうか。
『カロンちゃーん』
「どうしましたか」
「学園見に行きたい」
「ゴロゴロしたい気分です」
カロンはずっと転がってる。
「じゃあ……」
スカーがついてこいと言わんばかりにチラチラ俺を見る。
することもないし別にいいか。
「行きたいのか?」
「うん」
「行くか」
スカーを足から下ろして立ち上がる。
「ん」
なぜか座ったままのコイツ。
「立たせて」
「あのなあ……」
仕方なく手を引っ張って立たせた。
「ありがとー」
「礼が言えるなら自分でして欲しいんだが」
文句を言いながらも武器を取り付けた。
本数が増えてから面倒さに拍車がかかる。
「もう勉強はないよ? 剣要らなくない?」
「変な奴に絡まれたらどうする、女の子を守る為に必要だ」
『お、おんなのこ……それは要るな!』
ドアに手を掛けて外に出る。
鍵も掛けなきゃな。
「どこ行こうかな〜」
「決めてなかったのか」
スカーは近くの全体図を眺め始めた。