オーダーメイド
学園を飛び出て、美味しそうな匂いを頼りにブラブラ歩く。
他の人達がワイワイ楽しそうにやってる。
周りを見回すとガラガラの屋台が一つあった。
椅子と厨房が一体化した車輪付きの台車で、テレビとかでよく見るおでん屋みたいな感じ。
面白そうなので俺はそこに腰掛ける。
『あら、いらっしゃい』
この屋台を切り盛りしているのはお姉さんか。
「おすすめありますか」
「あるよ」
そう言って出てきたのは丼に浅く盛られた白い粒の集団。
これは米か!
鍋の蓋を開けて、透明なスープを粒達に注ぐ。
「おお……」
ダシのような香りがする!
「ほら」
差し出された丼物にレンゲが寄りかかる。
俺は手を合わせる。食えると思ってなかった和食に感謝。
両手で持って最初は汁をすする。
甘みが強いけどアリだな!
レンゲで米をすくって口に運ぶ。
ダシと合わさった優しい風味が口いっぱいに広がった。
「水ちょうだい」
「あいよ」
また一口、また一口。冷たい水で焼ける舌を冷やす。
あっさりしてて、気がついたらもうなくなっていた。
「美味かった」
「そう、二枚だよ」
コインを置いて席を立つ。
次は何をしようかな〜。
『君、装飾品に興味ない?』
目的もなくフラついていると青年に声をかけられた。
カラフルな服で非常に目立つ。あまり近づいてほしくはない。
「装飾?」
「これだったり……これのことさ!」
青年が指に嵌められた二十個の指輪や髪に刺さった宝石を見せつけてくる。
「ふーん」
「それを手作りできるんだ、どう? 興味湧いた?」
「やってみたい」
「いいね、関心を持てる男は魅力的に見える」
青年が近くの机に行き、椅子に座る。
「さあ、座って」
言われて向かい合うように座った。
青年は小さなケースをまさぐり「誰にプレゼントする?」と聞いてきた。
俺はあまり興味がないし、スカーは報酬を身に付けてるからな。
なんとなく、カロンでいいか。
「鉱石類を使った金色なんか女の子喜ぶよ」
装飾されていない指輪が机に並ぶ。
「ダメだ、あげたい子は鉱石がダメなんだ」
「それは珍しいね。じゃあ、ネックレスがおすすめ」
青年はそれなりの長さの紐類を並べた。
「鉱石を使わない装飾は専門じゃないから限られて来るけど……」
そう言って円形の革も並べる。
「好きなパターンを選んで」
「色合いは揃えた方がいいのか?」
「揃えた方が統一感は出てくる」
赤い革にしよう。なんとなくだけど。
「これとこれだな」
「いいね」
青年は選択しなかった素材を箱に戻す。
「問題はどういう形にするかだけど……」
革だけで何か作るってのは難しい。そんな俺でも答える事はできる。
『俺もわかりません』
俺には何もわからないのだ。
「革を合わせて小さな袋を作って、それをぶら下げるネックレスにするってのはどうかな?」
ロケットペンダントみたいな感じか。
「それがいい」
「早速準備に入ろう」
青年は机に置いていた赤い革に魔法で作った刃物をあてがう。
その刃は冷気に満ちている。
「綺麗に切るから一緒に縫おう」
そう言って印も付けずに氷を走らせる。
スッスッと手のひらサイズの四角形に何個か切り抜く。
曲がった形が一つもない。洗礼された技術。
箱から赤い糸を取り出すと青年は糸を握る。手の中で細い氷の針を作ったらしい。
「これを持って」
糸は既に氷と一体化していて、俺にそのまま手渡してくれた。
「革を合わせてここから縫うんだよ」
言われた通りに二枚の皮の隅を重ねて縫っていく。
怪我してしまいそうで手が震える。
「怖いって思ったら刺さるから」
親指で針を押し込み、下まで貫く。今度は人差し指で押し上げる。
これが正しいのかよく分からない。
時間をかけて、ようやく互いの革の一辺がくっつく。
「それをあと三回だ」
「きついな……」
「じゃあ交代でやろう」
「賛成だ」
青年は針を出して数秒で縫うと渡してくる。
俺はゆっくり縫って歪なのに、めちゃくちゃ綺麗だ。
『オーダーメイドは喜んでくれるよ』
最後に青年が縫い、一枚の革を中心に四枚の革が縫い合わさった。
もう一枚、革を重ねたらサイコロができる。なんてな。
「ここからは僕がやっとくよ」
そう言って革同士を縫い始め、隙間を潰していく。
さっきまでは革の集合体にしか見えなかったのに、もう袋の形になってきている。
「すげえ」
このままでは広すぎる口を狭く縫って、短い革紐で縛る。
小物が入りそうな小さな革袋が一瞬で完成した。
「仕上げをするよ」
青年は袋に人差し指を向けて火で炙る。
素早く手をかざして、冷気を当てる。
「えっ?」
袋の色が僅かに薄くなっている。空っぽの袋の中が見えそうなほど。
「僕はレアな革を使っててね、火に近づけると透けるんだ」
「へえ……」
袋の口を縛る時に付けておいた紐の輪に、長い紐を通す。
青年は頂点で紐同士を結びながら言う。
『君は不器用だから、二度と解かなくていい長さにしたよ』
「助かる」
「女の子にササッと掛けたらいいから」
そう言って茶色いケースを魔法でクリエイトすると、その中に革のネックレスを入れた。
「はい、完成さ」
「素晴らしいな」
「九枚くらい頂きたいね」
手際に感心した俺は純粋に九枚のコインを置く。
「また来てねー」
プレゼントしたらカロンはなんて言うんだろうか。
そんな事を思いながら箱を見る。
――部屋に戻るか。