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もう一人の自分







 絵は思った以上に古かった。


 王という人が父親なら、そこそこの歳になっていてもおかしくないというのに、絵は完全に幼女だった。


 もう少し大きくなった時の絵はなかったのかよ!


 そんなことを思いながら石の階段を降りつつ、前を見る。


『……』



 薄汚れたワンピース姿の少女と目が合う。



 サラサラとした長い銀色の髪が風で揺れる。



 汚れた服と釣り合わない容姿に目が奪われる。



 既視感に俺は足を止め、握りしめた紙を見直した。


 絵には色が塗られていて、赤い瞳を持ったタレ目に銀で塗られた髪が特徴だと分かる。


 この子も確かな赤い瞳を宿している。


 ――コイツだ。すぐに見つけれたのは都合がいい。


 警戒されないように慎重に近づき、明るく声を掛ける。


『エオルア・スカーちゃん、こっちでお話しない?』


 名前は不思議な言語で紙に書かれていて、本能的に読む事はできた。




『す、すかー? オレの名前はハルカゼリュウキなんだが……』




 相手の口から耳疑う言葉が飛び出る。


 女の子に話しかけたら、俺の名前で自己紹介された?


 この事を理解するのに時間かかった。


『っていうかなんでオレが目の前に居るんだよ』


 超絶美少女が可愛い声で俺みたいな口調でべらべら喋ってる。


 はっきり言って気持ち悪い。なんだよこいつ。


『妖怪か、お前!』


 見た目と口調が釣り合わない少女に俺が俺であることを証明しなきゃいけなくなった。


 逃げられたくないし、攻撃もされたくない。


 手のひらを向けてもう一人の俺をなだめ、漢字で本名を書く事を提案する。


『できるならまあ……』


 貰った剣を鞘から抜いて、床に名前を彫ってみた。


『春風龍樹……確かに! でも、漢字なんてみんな知ってる』


 さすが女みたいな俺、疑い深いな。


 そうとなれば取っておきがある。


 紛れもなくこの世界で俺以外に知るはずもない情報が。


 知らなければコイツは俺じゃない事になり、容赦なくお前を叩き斬る。


「俺は一回死んだ気がする。お前が俺ならその理由がわかるはずだよな? 三二一で言うぞ、一で言うんだぞ」


『分かった』


 三、二、一。



『家の自転車に乗ってから思い出せないから』


「家の自転車に乗ってから思い出せないから」



 見事に声が揃う。


『お前は本当にオレなの……?』


 もう一人の俺が不思議そうに眺めてくる。


「それはこっちのセリフだ」


 とりあえず、今の顔を触らせてみた。


 ぷにぷにすべすべの現状に気づいたもう一人の俺って奴が。


『どういうことだよぉ……』


 情けない声で泣くように呟いた。


 顔の違和感に気づいたらしい。


「肌がモチモチしてやがる……とでも言いたげだな」


「読むな、オレの心を」


「信じるかは勝手だが、お前は女になってる」


 しかし、よく見てみるとコイツは絵と違ってめちゃくちゃキツいツリ目なんだよな。


 エオルア・スカーじゃない気がするんだが。


 いや、本人ってことにしておくか?


 こいつが俺である可能性も高い、転生事故とかで魂分身もありえる。


 どちらにせよ、もう一人の俺を見捨てるのは難しい。



「お前、スカーにならないか?」


 一緒に生きていけそうな道を選んでいこう。


「なにそれ?」


「エオルア・スカーになるなら王の娘として大事に囲われる」


 本当は城の外で何かを学ぶことになるが、黙っておく。


「自ら女とかにはなりたくないけど、野垂れ死ぬのはごめんだし……」


 声は普通に年相応の女の子だ、迂闊に喋らなかったら行ける。


 目はなんとかなるだろ多分!


「決めたわ、オレも男だ。生きる為にもがいてやる」


「女だけどな」


「うるさい!」


 もう一人の俺はエオルア・スカーになった。



「俺はデカい城の中に居たんだが、お前はどうだった?」


 目的を果たせた俺はスカーの話を聞きながら引き返す。


 疑問が残る出会いだが、簡単に済むならそれで良い。


 もう一人の自分って分かった以上は元気に生きて欲しいな。


「路地裏みたいな行き止まりで寝転がってた」


「……そこで何をしたか当ててやろうか」


 こいつが俺なら間違いなくあの行動をしたんだろうか。


「手を突き出してファイヤーとかしてただろ」


「な、なんでそれを知ってるんだ!」


 俺も試したからに決まってるだろ!



「もう一人の俺が考えてる事なんて、手に取るようにわかる」



 言わないけどな。


「なにそれ悔しい!」


 ムーっと唸る姿は割と女の子してて可愛い。


「でも本当に出るとは思ってなくて」


「出たのか?」


「うん」


 俺は出なかったのに何が違うんだよ。


 大きな門の前に俺達は並び、衛兵に声を掛ける。


『リュウキ殿だ、通らせろ』


 衛兵がそう言うと門が金属音を鳴らして動き始める。



「……そなた、役目は?」


 確かに数分で帰ってきたら気になるよな。


「安心してくれ」


粗相(そそう)はないように」


 こんな早く帰ってきたんだ、疑われるに決まってる。


 どうやって言い訳しよう?


「すげー」


 俺の気持ちを知らないスカーは歯車のギミックに目を輝かせる。


「娘なんだから驚きすぎるな」


「でもすげーから」


「口には出すな、それがどうした? って顔してくれ」


 開ききったことを確認した衛兵は「通れ」と言った。


 俺達は足早に通り抜け、城内の更なる階段を駆ける。


「広いなー」


「そうだな」


 この両扉の先で王が待っているはずだ。


 最初の男がしていたように、見様見真似で両手を扉に添える。


 押し開けるように足を進ませたがビクともしなかった。



『重いならば手伝おう』



 気づいた近くの騎士が横から手を添えてくれた。


「ありがとう」


「愚かでなければ、役目を果たして戻ってきたのだろう?」


 そう言って扉を開く。


「ならば、王の謁見を手伝うのは当然である」


 騎士は定位置に戻って門を守り始めた。


 本当は目の前に居たそっくりさんを連れて来ただけっていう。


 ちょっとだけ申し訳ない。


「オレはどうしたらいい?」


「静かについてきてくれ」


 カーペットの道を歩いて、俺は王を見据える。



『貴様、なにやら早い様だが』


 空間に響く低音ボイス。怯えを押し殺すように俺は膝をつき、要件を言う。




『エオルア・スカー様を連れ戻して参りました』






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最強美少女ギルドに入った俺の初仕事は貰った剣を100億にすること!(クリア報酬→追放)
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